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第二百二十二話:劣悪な環境

 現在の町長は、以前の町長の息子らしい。

 元の町長は、きちんと労働者のことを考えて、様々なサービスを提供していたらしいのだけど、息子が町長になってからは、それらのサービスは軒並み廃止にされ、一気に劣悪な環境になってしまったようだ。

 以前のように戻してくれと訴えても、聞き入れてもらえないし、それどころか、逆らった者は市中引き回しの刑にされるなど、やりたい放題。

 結局、今の体制を受け入れるしかなかったが、納得できていない者は大勢いて、ほとんどの労働者はこの町を去って行ってしまったようだ。

 今残っているのは、過去に犯罪を犯して鉱山奴隷となった人々と、昔からアルマ鉱山社に勤めている古参の人々だけ。

 正直、まともな人員はほぼおらず、事故も相次いで物理的に人も減っていることから、そう遠くないうちにアルマ鉱山社は潰れるだろうという見通しのようだ。

 元々はまともだったに、息子が継いだ瞬間瓦解したってこと?

 なんでそんなことになったんだろうか。


「今の町長は、昔から野心家として有名で、常々、俺なら親父より絶対うまくやれると嘯いておりました。しかし結果は……」


「このありさまと」


「ええ……。誰が見ても、彼が町長としてふさわしくないのは明白だ。しかし、南区画の連中からは、そう思われていないらしく……」


 なんでも、北区画の荒れようと違い、南区画は、逆に環境が良くなったという。

 綺麗な川やしっかりと舗装された道、店も色々揃っていて、南区画だけを見れば、理想の町だと言う人もいるらしい。

 恐らく、北区画で浮いた分のお金を、南区画に回しているんだろう。

 南区画は町の顔とも言える部分だし、綺麗にするのは間違っていないとは思うけど、その分のお金を見えないからと強引に分捕っていくのはちょっといただけない。

 そもそも、聞いている限り、労働者を人と思っていないような節がある。

 普通、魔物がはびこる鉱山に採掘に行かせるか? 普通はしないはずである。

 一体、何だってそんな考えになったんだろうか。


「今の町長は、町を訪れる人々が落とす利益の方が重要に映っているんだろう。この町を支えているのは、鉱山だということを忘れてね」


「うーん、このままだと、労働者がいなくなって、町も崩壊しちゃうんじゃないですか?」


「その通り。だが、それを訴えても聞き入れてもらえる様子はない。私も、親から継いだこの会社には誇りを持っとりますが、そろそろ退き時なのではないかと考えてますよ」


「治安も悪いですしねぇ」


 もはや、今の鉱山は、アルマ鉱山社の善意で成り立っているような状態。

 これ以上労働者をぞんざいに扱えば、町の税収は減り、町は崩壊するだろう。

 それに気づいていないわけはないと思いたいけど、話を聞く限りでは、本当に気づいていない可能性がある。

 町長は相当やばい人だということはわかった。

 ただ、だからと言って、どうしようもないんだよね。

 俺達が、町長に直接意見したところで、よそ者の意見なんて聞きやしないだろうし、そもそも俺達がそこまでやる義理もない。

 もちろん、可哀そうだから助けたいというのはあるけど、効果のないことをやっても時間の無駄だろう。

 それこそ、町長を物理的に排除して、新しい町長を据えるとか? ……うん、ますます俺達のやることじゃない。

 今の俺達にできることは、タダ同然で依頼を受けて、魔物を排除してあげるくらいである。


「ひとまず、魔物の退治はお任せください」


「助かります。しかし、失礼ですが、フェルミリアさんはランクはいかほどで?」


「一応Bランクですね」


「Bランク!? そ、それは失礼いたしました!」


 まさか、Bランクとは思わなかったのだろう、マルジナさんは急に頭を下げ始めた。

 いや、元々腰は低かったけど、Bランクなんて言う高ランクが来てくれるとは思わなかったんだろう。

 これを逃したら、次にいつ来るかもわからないし、何が何でも助けてもらいたかったのかもしれないね。


「それで、鉱山はどこにあるんですか?」


「こ、こちらです!」


 そう言って、マルジナさんは部屋を出ていく。

 まさか、自ら案内するつもりなのか? 社長だというのに、何とも腰が低いことである。

 まあ、気持ちはわかるけどね。

 俺は、喉に出かかっていた言葉を引っ込めると、黙ってついていく。

 鉱山は、会社がある場所からそう遠くない場所にあった。

 山の一部が切り開かれており、大きな採石場があるのがわかる。

 作業していた労働者達が、ちらちらとこちらを見てくるが、特に話しかけてくることはない。


「この奥が、坑道になっています。ごちらが坑道内の地図ですが、大体この位置ですね」


 懐から取り出した地図を見せながら、てきぱきと説明するマルジナさん。

 この鉱山、相当広いみたいで、坑道も結構入り組んでいるようだ。

 これ、地図なしで入り込んだら、普通に迷子になりそうだね。


「詳しいことは、責任者のマルコスから。おーい、マルコス! どこにいる!」


「へいへい、なんでしょう社長」


 マルジナさんが大声を上げると、どこからか一人の男性がやってきた。

 なんだかくたびれた様子で、顔には隈ができているけど、この人大丈夫だろうか?

 どう考えても、こんな人が責任者やったらまずいって感じなんだけど。


「おお、マルコス、そこにいたか。こちら、冒険者のフェルミリアさんだ。坑道内の魔物を駆除してくれるらしい」


「ああ、やっと来たんすね。駆除してくれるのは嬉しいっすけど、大丈夫っすか? 子連れだし、ヒョロヒョロの腕だし、返り討ちに遭いません?」


「ばっか! お前、フェルミリアさんはBランクの冒険者だぞ! そのようなへまをするはずがない!」


「へぇ、Bランク。そりゃ期待してもいいかもしれないっすね。んじゃ、魔物が出るところまでは俺が案内するっすよ」


 そう言って、マルコスさんはこちらに手を差し伸べてくる。

 ボロボロの手袋をしていて、ところどころに空いている穴から見える手は、黒くにじんでいる。

 責任者自ら採掘でもしてたんだろうか。ひとまず、フェルは嫌な顔一つせずに、握手に応じた。


「俺はマルコスっす。よろしく」


「私はフェルミリアです。よろしくお願いしますね」


「それじゃ、さっそく案内するっすよ。中は結構入り組んでるんで、離れないように注意してくれっす。それと、あー……そっちの子は一緒でいいんすか?」


「ご心配なく。ルミエールは強いですから」


「はぁ、魔法でも使えるんすかね? まあいいや。じゃ、一緒に来てくれっす」


 ちらりと俺の方を見たけど、フェルの説明に特に疑問も抱かずに、案内を始めた。

 なんか、全体的にいい加減な人が多い会社だなぁ。前世の世界でこんなことをしたら、速攻でクビになるだろうに。

 どうやら、マルジナさんはここまでのようなので、手を振って別れを告げ、坑道へと入る。

 さて、労働者達が無事だといいけど。

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