第二百二十話:鉱山の依頼
忠告もあり、とりあえずは行かないことにした。
別に、何か用事があるわけでもないし、下手に立ち入ってトラブルに見舞われたら面倒である。
しかし、まだ時間はあるので、先ほどの件もあり、ひとまずギルドを再び訪れることにした。
「すいません、依頼を受けに来ました」
「ああ、先ほどの。ありがとうございます」
ギルドでは、先ほどと同じ受付さんが立っていた。
ギルドでは、依頼ボードがあり、それに張られている依頼を剥がして、受付に持って行くと受理されるという仕組みになっているけど、受付に何かいい依頼はないかと問えば、それらしい依頼を紹介してくれる。
まあ、この方法で紹介される依頼は、本当にいいものもあれば、厄介な依頼を押し付けられることもあるけどね。
ギルドとしても、いつまでも消化されない依頼は放っておけないし、誰かしらが受注してくれるならそれに越したことはない。
ましてや、高ランクの冒険者ともなれば、そう言った依頼は優先的に回される。
俺という連れを見て、受付さんがどういう依頼を紹介するのか、見ものではあるね。
「なにかよさげな依頼はありますか?」
「うーん、それでしたら、こちらの依頼はいかがでしょうか」
そう言って提示されたのは、鉱山に巣くう魔物の討伐というものだった。
この町には鉱山があるのは先程聞いたが、その鉱山で、最近魔物が出現して困っているらしい。
本来なら、魔物が討伐されるまで、採掘を中止し、討伐に注力するのが普通だと思うけど、この町の町長がごり押して、無理に採掘を強行させているようだ。
おかげで、魔物に襲われて怪我をする労働者が大量に出ており、早いところ何とかしないと、労働者がいなくなってしまうということで、早急に対処しろとギルドに依頼が来たようだ。
「依頼主はアルマ鉱山社の方ですね。さっさと魔物を退治するか、町長を黙らせるかしてくれって泣きそうな顔で依頼していましたよ」
「それは、なんとも気の毒な……」
聞いていた限り、その町長というのはとんでもない人物のようである。
普通、魔物がいる中で採掘なんてさせるか?
効率も悪いし、労働者がいなくなれば、最終的に困るのは町長だって同じだろうに。
労働者をいくらでも替えが効くものだと思っているのか、それとも利益しか目に入っていないのか、いずれにしても泣きついてくるのもわかる。
なんか、いきなりあの区画に入ることになりそうだけど……大丈夫かな。
「Bランクともなれば、かなり高名な冒険者とお見受けします。どうか、この依頼を受けてくださいませんか?」
「うーん、まあ、構いませんよ」
フェルは、ちらりとこちらを見た後、少し悩んだ末に頷いた。
俺が心配だから、というわけではなく、単純に問題が起きないかどうかを心配したんだろう。
魔物を退治するくらいだったらどうとでもなるとは思うけど、町の闇に直結する問題だし、下手に突いたら問題が起きる可能性は高い。
しかし、かといって可哀そうな労働者を見捨てるのも心苦しい。
俺としては、ささっと倒して帰ってくれば大丈夫だと思うし、元々鉱山には興味がある。
だったら、受けるしかないだろう。
「ありがとうございます。私としても、この依頼には心を痛めていたのです」
「私もそう思います。これは、お話は依頼主に聞けばいいですかね?」
「あ、はい。アルマ鉱山社は北区画にあります。少し治安の悪い場所なので、そちらのお連れさんは宿で待機していた方がいいかもしれません」
「お気遣いありがとうございます。でも、大丈夫ですよ」
ねっ、と同意を求めてくるフェルに対し、俺は小さく頷いておいた。
まあ、実力的には俺の方が上だしね。
受付さんは、少し驚いたような顔をしていたけど、この姿なら仕方ないとも言える。
その後、正式に依頼を受理し、日没までもまだ時間があるので、さっそく向かうことにした。
北区画、一体どんなところだろう。
「お、さっきの嬢ちゃんじゃねぇか」
「ああ、あの時の」
いざ踏み込もうと歩いていくと、先ほど出会ったおじさんに出くわした。
この人、ずっとこの辺りでうろついているんだろうか?
わざわざ話しかけてきたところを見るに、この町を初めて訪れる人が間違って北区画に迷い込まないように、見張っているのかもしれない。
なんか、暇だなぁと思うべきか、親切な人だなぁと思うべきか、悩むラインだね。
「この先は危ないって話しただろう? まだ行く気なのか?」
「はい。この先に用があるので」
「用? こんなところに何の用が……」
「依頼を受けたんですよ。鉱山の魔物をどうにかしてほしいってね」
「依頼、ってことは冒険者か」
おじさんは、フェルのことを頭の先からつま先までじろじろと見てくる。
ついで俺の方にも視線を向けてきて、少し呆れたような表情でやんわりと止めてきた。
「やめときな、嬢ちゃんができる依頼じゃねぇ。それに、子連れだなんて、死にに行くようなものだ」
「そんなに危険なんですか?」
「おうともよ。聞いた話だが、鉱山に出てくるのはロックゴーレムだ。嬢ちゃんのその剣じゃびくともしねぇだろうよ」
ロックゴーレム、その名の通り、岩でできた体を持つゴーレムである。
ゴーレム系は総じて硬い種族が多く、その体を作る構成要素によって多少のばらつきはあるが、基本的には魔法が使えないと太刀打ちできないとされている。
まあ、岩に剣を振り下ろしたところで弾かれるのが落ちだよね。
ただまあ、この世界なら、熟練の剣士ともなれば岩を切断することもたやすい、みたいな人もいるらしいので、一概に無理とも言い切れないが、魔法が使えないなら、無難にスルーするのが一番ではあるだろうとのこと。
このおじさん、完全に俺達を見た目で判断したよね。
フェルが持っている剣を見て、フェルのことを剣士だと思ったんだろうけど、フェルは魔法もちゃんと使えるし、今更ロックゴーレム程度で苦戦するとも思えない。
いざとなれば、俺が魔法が得意だし、少なくとも逃げるくらいは余裕のはずである。
俺の見た目を考えれば、仕方ないとはいえ、凄いお節介な人だな。
「怪我しねぇうちにさっさと帰んな。ここは嬢ちゃんが来る場所じゃねぇ」
「お気遣いありがとうございます。でも、これでも腕には自信があるんです、ご心配には及びませんよ」
これ以上まともに相手をしても止められるだけだと思うので、俺はフェルに目配せして、さっさと進むことにした。
おじさんが凄く心配そうな目で見ているから、悪い人ではなさそうだけど、時にその優しさはお節介になることもある。
どうか、俺達みたいなイレギュラーを前にして、その志を失わないでいてほしいものだ。
そんなことを考えながら、北区画に足を踏み入れるのだった。
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