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第二百十八話:二日酔いの先で

『起きたのならそろそろ発つぞ』


『え、もう行っちゃうの?』


『目的は達したからな。貴様も、観光がしたいというなら、ここでは不足だろう?』


『ま、まあ……』


 少しガンガンする頭を押さえていると、ニクスがそう言ってきた。

 元々、この村に来たのは、俺が観光をしてみたいと言ったからだけど、確かに、すでにこの村で見るものはほぼない。

 唯一と言っていい観光場所は、アーリヤの像くらいだけど、それもちょっと不思議な感覚がするだけで、何度も見るものではないしね。

 そう言う意味では、確かに目的は達したと言っていいのかもしれない。

 村の人達はとても優しいし、もう一泊くらいしていってもいいのではないかとも思うけど、あんまり長居すると、またお酒飲んで潰れそうだし、早めに発つのはいいかもしれない。


『わかった。それじゃあ、挨拶していかないとね』


『別に不要だと思うが……まあ、いいか』


 ニクスは、近くにいた村人に話しかけ、ここを発つことを告げる。

 村人は、少し残念そうな顔をしていたけど、元々長居する幻獣は少ないのか、特に疑問も持たずに送り出してくれた。


「またいつでもお越しください。私達は、皆様を歓迎します!」


「ありがと」


 多くの村人の見送りを受けながら、飛び立つ。

 他の町でも、あんなふうに幻獣が受けいられられるところがあればいいんだけどね。


『うっ、気持ち悪い……』


『貴様、それでもドラゴンか? こんな下戸なドラゴンは初めて見たぞ』


 空を飛んだ影響か、ちょっと気分が悪くなってきた。

 今まで、二日酔いというものをほとんど体験してこなかったから、こんなに気持ち悪いのかと冷や汗をかく。

 幸い、吐くほどではない。ただ、頭が痛くて、目を開けてるのが若干辛いくらいだ。


『ルミエール、大丈夫?』


『大丈夫、じゃないかもしれない……』


 こんなことなら、回復するまで滞在していた方がよかっただろうか?

 せめて、自分で飛ぶのではなく、誰かに乗せてもらいたい……。


『はぁ……、おい、小娘、白竜のを乗せてやれ』


『は、はい。人化できる?』


『う、うん。ごめんね……』


 一度適当な場所に降り、人化してフェルに乗せてもらうことにする。

 なんだか情けない。今後、お酒を飲む時はほんとに気をつけなければ。


『そう言えば、次はどこへ行くんですか?』


『特に決めてはいない。が、我は少し寄りたい場所がある。しばらくの間、貴様らで留守番できるか?』


『寄りたい場所、ですか?』


『貴様は気にしなくてもいいことだ。それより、これは重要な問いだ。問題を起こさず、大人しくしていられるな?』


『は、はい……』


『いいだろう。ここからしばらく行ったところに町がある。そこで待っていろ』


 そう言って、ニクスは飛び立って行ってしまった。

 ニクスが行きたい場所、どこなんだろう?

 とっさに、ついていった方がいいのかなと思ったけど、わざわざ待っていろということは、一人で行きたい場所なんだろう。

 気にはなるけど、今は気分も悪いし、待っていればすぐに帰ってくると思う。

 ここは、信じるしかないね。


『この先に町があるって話だけど』


「ぜんぜん、みえないね……」


 この先に町があると言っていたけど、地平線の先まで何も見えない。

 確か、先ほどまでいた村は、地図上から消されたと言っていたけど、だとしたらそれなりに距離は離れている気がする。

 もしかしたら、数日は飛ばなければならないのかもしれない。


『まあ、待っていろって言われたし、大人しく待ってようか?』


「うん……」


 今はとにかく、早くどこかで休みたい。

 ……そう言えば、二日酔いって、治癒魔法で治せないのかな?

 死者の肉体すら完璧に治療する魔法だし、二日酔いくらいどうにかしてくれそうな気がする。

 俺は、試しに自分に向かって魔法を使ってみる。

 すると、見る見るうちに気分が良くなり、頭も軽くなった。


「おお、なおった」


『そんな簡単に治るものなの?』


「そうみたい」


 治癒魔法で治るんだったら、お酒もたくさん飲めるかも?

 いや、どのみち二日酔いにはなりたくないから、気を付けるに越したことはないけども。

 しかし、ニクスも教えてくれればいいのに。

 ニクスも浄化の魔法は使えるし、このことを知らなかったとは思えないんだけどなぁ。


『とにかく、治ったならよかったよ』


「うん。あ、おりるよ」


『ああ、そのままで大丈夫だよ。わざわざ飛ぶのも大変でしょう?』


「そう? ありがと」


 自力で飛ぶのは別に苦ではないけど、フェルがそう言うならお言葉に甘えておくことにしよう。

 特にフェルの体はふわふわで触り心地もいいからね。この際だから堪能させてもらうとしよう。

 ニクスがそばにいないという若干の不安を抱えつつも、飛び続ける。


『あ、あれかな?』


 そうして飛び続けること数日。前方に町が見えてきた。

 川と山に面したそれなりに大きな町だ。

 遠くからではよくわからないけど、これまでにそれらしい町は見当たらなかったし、多分あれがニクスが言っていた町だろう。

 このまま突っ込むわけにもいかないので、適当な場所で降り、フェルにも人化してもらう。

 当初は、俺のように幼い姿になっていたフェルも、すっかり元の姿に慣れたものだ。

 やっぱり、元の姿を明確にイメージできるというのが強いんだろうか?

 でも、俺も元の姿をイメージしてみたことはあったけど、この姿になったんだよな。

 一体どこで差がついているのか。これがわからない。


「こうして二人で歩くのも久しぶりだね」


「そだね」


 フェルと二人っきりになる時間は割とあった気がするけど、旅に出てからは、それもめっきり減った気がする。

 一応、ニクスは二人きりの時間も大切に思っているのか、それとなく離れてくれる時もあるけど、基本的には訓練とかで付きっきりだしね。

 ニクスがいなくて寂しい反面、フェルとこうして二人きりで歩けるのは新鮮な気分である。

 そんなことを思いながら、町に向かって歩いていく。

 町に着くと、門番が検問をやっていた。

 この町は通行税を取るタイプの町らしい。まあ、この世界では珍しくもないことだ。


「通行税、一人銀貨1枚だ」


「はい、どうぞ」


「……よし、いいだろう。通れ」


 他に順番待ちしている人達と共に並び、お金を払うと、すぐに入ることができる。

 さて、この町はどんな場所なんだろうね?

 来たことのない町に少し期待を寄せつつ、街並みを見渡すのだった。

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