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第二百十五話:忘れられた村

 翌日から、件の村に行くべく、ひたすら北へと向かった。

 道中、巨大なキノコが生える沼地だったり、奇怪な塔が聳える森があったりと、ちょっと楽しそうな雰囲気があったけど、今は村に行くことが肝要ということで、スルーである。

 別に、時間が余ってるなら寄ってもいいと思うけどなぁ。

 特にあの塔とか、魔法使いが住んでそうな雰囲気がある。

 俺はすでに多くの魔法を使えるようになっているけど、基礎というものを学んでいないし、できれば見てみたかったんだけどね。

 まあ、その辺は後でニクスに頼もうか。


『ついたぞ』


『おー、ここが……』


 遥か昔を今に伝える村、メイム。

 限界集落かってくらい家が少ないんだけど、本当にここで合っているんだろうか?

 活気もあまりないし、寂れてるってレベルじゃないんだけど。


『ここで間違いない。そもそも、ここは地図にも載っていない村だ。規模が大きくても困るだろう』


『なんでそんな隠れるように?』


『大国の圧力があった。自分達の手落ちで始めた戦争なのに、奴らはそれをなかったことにしようとした。せっかく謝罪を受け入れてもらえたのに、本当に馬鹿な奴らだ』


『それは……酷いね』


 一応、そう言った小細工をし始めたのは後世になってからであり、当時の人々はきちんと反省していたようなのだけど、ここでも、忘れる生き物というのが効いてきている。

 忘れちゃいけないものを忘れ、忘れてもいいものを忘れない。どうして都合がいいことばっかり覚えているのかわからないけど、きっとそれが人間というものだ。


『でも、それならこの村は、どうやって生活しているの?』


 地図からも抹消された村ということは、当然他の町からものを仕入れるということもできないだろう。

 食料を始め、生活雑貨なども用意できないだろうし、そもそも子孫を残すことすら難しいような気がする。

 一応、この村には人の気配がする。ということは、どうにか暮らしてきたってことだ。

 秘密の貿易ルートでもあるんだろうか?


『それに関しては、先に話した夫が関係している』


『夫、その女性の夫なんだっけ?』


『そうだ。奴はその大いなる力を持って、この村に永遠の安寧をもたらしたのだ』


 永遠の安寧、と言われてもピンとこないが、具体的に何があるのかを聞かされると、かなり驚くべきものだった。

 まず、食料は望めばいくらでも出てくるらしい。狩りに行くだとか、商人から購入するとかじゃなくて、本当にポンとその場に現れるようだ。

 同じように、生活雑貨も望めば出てくるし、水も同様。

 さらに、人々は老いとは無縁の存在となり、いつまでも若い姿を保つことができるらしい。実質的な不老不死である。

 そんな、夢みたいな場所が存在するのか? にわかには信じがたいことである。


『まあ、範囲は限定的だし、その恩恵を受けられるのは、真にその女に祈りを捧げる者のみだ。だからこそ、この村では、奴は絶対的な神であり、不敬を働こうとする奴なんていない』


『そんな村に入って大丈夫なの?』


『別に、村に入ることは禁止されていないし、言っていた像に不敬を働かなければ、人共も友好的だ。副作用なんかもない』


 そんな力を持つからには、お相手も幻獣なんだろうけど、随分とスケールのでかいことをやっているものである。

 実質的な不老不死なんて、人が人なら欲しがる人もたくさんいるだろうに。

 この村を放置したからこそ、存在がばれていないだけで、もし知られたら、多くの人々がこの村に押し寄せそうだね。

 この村のことを忘れず、きちんと像を立てた人達だからこそ、その恩恵を授けているってことなんだろうか。

 いずれにしても、どんな幻獣なのか気になるところである。


『さて、説明はこの辺りでいいだろう。降りるぞ』


『え、そのまま降りるの?』


『さっきも言ったが、この村はあの女を崇拝している。それはつまり、幻獣を崇拝しているということでもある。我らが幻獣の姿を晒したところで、驚きもしないし、むしろこちらの方が友好的に接してくれるだろうよ』


『そ、そんなものなのかな……』


 ちらりとフェルの方を見ると、フェルもなんだか不安そうである。

 今まで、この姿のまま人前に出て、いいことなんて一つもなかったからね。

 いや、フェルに受け入れてもらえたのはいいことかもしれないけど、それ以外は大抵攻撃されたり利用されたりするだけだった。

 人の前では人の姿になるのが当たり前となっていて、ここにきてそのまま会うことになるなど考えもしなかった。

 でもニクスは自信満々に村の中心へと降りていく。

 もう、ニクスが見つかってしまうなら同じことだし、俺も覚悟を決めるか。

 少し遠慮がちに、ニクスの後ろに降りる。

 音に気付いたのか、家の中から何人かの人々が出てきた。そして、ニクスの姿を認めると、一斉に駆け寄り、そして、跪いてきた。


「おお、幻獣様! 我が村にお立ち寄りいただき感謝いたします!」


「よく見れば、三人もいらっしゃるではありませんか! 何か託宣があるのでしょうか?」


「幻獣様! こちらお供え物でございます。どうぞお納めください」


 人々は、次々に跪き、中にはお供え物まで持ってくるものまでいる。

 今までの人前に現れた時の反応と比べると、天と地ほどの差がある。

 信仰対象というだけで、ここまで変わるのか。

 俺は、厳密には純粋な幻獣ではない気もするけど、ここまでされるとこちらも背筋が伸びちゃうね。


「顔を上げろ。今日来たのは、ここにいる者達を紹介するためだ」


 ニクスは、器用に人の言葉を操りながら、そう告げる。

 人々は、その言葉に歓喜し、こちらに一斉に視線を向けてきた。


「まず、人の身から幻獣へと昇華した小娘だ。名をフェルミリアという」


『ど、どうも……』


「おお、人の身から幻獣の身となるとは、多くの徳を重ねてきたのでしょう! その偉業、感服いたします!」


 フェルに対して一斉に頭を下げる人々。

 人の身から幻獣の身となるのってどうなんだろうと思っていたけど、この村ではいいこととされているらしい。

 まあ、元々幻獣に認められなければそんなことはできないわけだし、幻獣になれてるってことは、それだけ信頼されてるってことだもんね。いいことではあるか。


「そして、そんなフェルミリアの番の白竜、名はまだないが、暫定的な名として、ルミエールを名乗っている」


「りゅみ、ルミエール、です、どうぞ、よろしく」


「ドラゴンの幻獣様とは、さぞ格が高いお方なのでしょう! そのご尊顔を拝見できて、歓喜の極みであります!」


 このテンションなら喜んでくれるだろうとは思っていたけど、本当にテンション高いなこの人達。

 というか、紹介したいということは、ニクスはこの村に来たことがあるんだろうか?

 幻獣様とは呼ばれているけど、名前では呼ばれていないから、てっきり初めて寄ったのかと思っていたけど、そう言うわけではないのかもしれない。

 まあ、やたらと村に詳しかったし、この場所を知ってるってことは、来たことがあるのは当然と言えば当然なんだけどさ。

 その後も、村人の熱い歓迎を受けながら、村の中に溶け込んでいく。

 あんまり褒められすぎても恥ずかしいものだなと思いつつ、村人達と交流を深めるのだった。

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