第二百十二話:住処となる場所
第八章、開始です。
寒さも和らぎ、春の訪れを感じさせるようになった頃。
結構な期間滞在していたこの森とも、お別れの時がやってきた。
カロンさんの魔石を癒すために、ニクスは日々魔力水晶を食べさせていたわけだけど、カロンさんが元々小食なのもあって、大量に食べさせるのは苦労した。
魔石を癒すためなのだから、つべこべ言わずに食べろとニクスは言っていたけど、いくら体にいいものだとわかっていても、満腹の時に無理矢理食べさせられたところで、後で吐き出してしまうのが落ちな気がする。
まあ、魔力水晶は魔力の塊だし、食べられた時点で吸収されているはずだから、実際には吐かないだろうが、それでも気持ちの問題はあるからね。
ニクスも、だいぶスパルタである。一応、昔の友人なのにね。
『もう行くのかい?』
『ああ。貴様の魔石もだいぶ癒えたし、魔術装甲も破壊した。後は自分で何とかしろ』
時間はかかったが、魔力水晶を取り込んだことによって、魔石もだいぶ癒えて、耐久性も上がってきた。
なので、魔術装甲に攻撃を加えて、強引に破壊したのである。
元々、魔術装甲は弱った魔石を守るためにつけられたという意味もありそうだけど、今となっては、ただ邪魔な存在だ。それに、いくら設定を変更したとは言っても、いつまた暴走して魔力を吸い上げてしまうかわからない。
だから、一思いに破壊した方がいいのだ。
魔術装甲がなくなったことによって、魔石がむき出しになってしまったけど、すでにかなり修復されてきているし、邪な人間達もここには入ってこない。
カロンさん自身も動けるようになったし、後は自分で何とか出来るだろう。
少し心配ではあるけどね。
『うーむ、寂しくなるのぅ』
『今生の別れというわけではない。貴様ほどの幻獣なら、我の一回分の一生を経ても余裕で生き残れるだろう』
『ということは、また会いに来てくれるのかの?』
『気が向いたらな』
『ほっほっほ、では楽しみにしておくとしよう』
ニクスとカロンさんは楽しそうに話している。
もう少し一緒にいてもいいんじゃないかという気持ちもあるけど、ニクスとしては、あんまり長い間顔を合わせているのは気まずいようだ。
以前、死にゆくカロンさんに対して何もしなかったことを悔いているんだろうか。
カロンさん自身が、一人にして欲しいと言ったのなら、ニクスに責任はないと思うけど、どうなんだろう。
ニクスの性格なら、そんなの気にしない気がしないでもないけど。
『フェル、そして白竜よ、お主達にも世話になった』
『いえいえ、無事に治って何よりです』
『ニクスと違って素直でいい子達じゃのぅ。まあ、また会いに来るようなことがあれば、ぜひ顔を出してくれ』
『はい、必ず』
最後に、頭を撫でられてしまった。
カロンさんにとって、俺とフェルは孫のような感覚になるらしい。
まあ、実際幻獣としての年齢を考えれば、そんな関係なのかもしれないけど、あまりに年齢が違いすぎて少し実感しづらい。
悪い気はしないので、去り際に俺のコレクションの中から一つ上げた。
ニクスにはガラクタガラクタ言われるけど、俺にとってはみんな大事な宝物だ。
そんな宝物を預けるからには、カロンさんにはぜひとも長生きしてほしい。
『さて、行くとするか』
カロンさんに見送られながら、空へと飛び立つ。
小さくなるカロンさんをしばらく見ていたが、切り替えて前を向いた。
『ニクス、次はどこへ行くか決めているの?』
『いや、決めてない』
『あれ、珍しい』
ニクスは、この数ヶ月、早くここから立ち去りたいと言っていたから、てっきり行先も決まっているものだと思っていたけど、そう言うわけでもないらしい。
というのも、ここにきて、フェルへの野生講座も、大体終わったからだ。
もちろん、野生で生きるというのはそんなに甘くはない。ただ教えられた程度では、うまく行かない時もあるだろう。
しかし、だからと言ってこれ以上教えようにも、魔物ごとの狩りの仕方くらいであり、もし定住するなら、その多くが無駄になる可能性が高い。
ニクス自身、フェルはすでにそこらの子供よりはよっぽど野生に染まっていると考えているらしく、無理して教える必要はないと感じ始めているようだった。
『そろそろ、住処を決めるのもいいかもしれんな』
『住処かぁ……ヒノアの大森林じゃダメなの?』
『別に構わないが、その場合は我も住むからな?』
『? 何か問題が?』
『あのなぁ……貴様らは番だろうが。番の住処に邪魔者がいるのは本意ではないだろう』
基本的に、幻獣の番は、その二人と、いるなら子供だけで住処を整えるらしい。
一応、例外もあるらしいけど、番となったら親元を離れて暮らすのが普通であり、実質的な親であるニクスと一緒に暮らすのはあまりよろしくないらしい。
まあ、確かに結婚したら家から出ていくのは普通なような気がするけど、親夫婦と一緒に暮らすパターンもあるにはあるだろう。
某国民的アニメなんかは、そんな感じだった気がするし。
そもそも、俺はニクスと離れる気なんてさらさらない。
この世界で、一人で暮らしていたところを助けてくれた恩人であり、何度も助けられた親的存在である。
まだまだ教えてもらうことはたくさんあるし、感情的な意味でも、離れたいとは思わない。
『俺はニクスが一緒にいてくれた方が嬉しい』
『はぁ……まあ、まだまだ子供のお前達を放っておくのは気が引けるし、せめて成体になるまでは面倒を見る気ではいるよ』
『それならよかった』
ニクスも、すっかり親の気持ちなのか、俺の意図を汲んでくれたようだ。
まあ、俺もまだ16歳。そろそろ17歳になるところだったっかな? だから、人間と同じでもまだまだ子供だ。
むしろ、人間換算すると、幼女になる始末である。子供も子供なんだから、まだまだ甘えてもいいはずだ。
フェルに至っては、幻獣換算ではまだ1歳にもなってないしね。こちらも子供である。いや、赤ちゃんと言ってもいいかもしれない。
『それにしても、住処か……』
ニクスと一緒に暮らす前提なら、ニクスの住処の一つであるヒノアの大森林に戻るのが一番いいと思う。
なんだかんだ、あそこは俺が生まれた場所でもあるし、フェルと初めて出会った思い出の場所でもあるからね。
三人で住むとなると若干狭いが、まあ、許容範囲ではあるだろう。
しかし、あそこはあくまでもニクスの住処であり、正式に俺達の住処とする場合は、新たに見つける必要がある。
個人的には、どこかの町に家でも建てて、そこで暮らしたいなぁと思っているんだけど、ここで問題となるのが、ニクスの人間嫌いである。
ニクスは、今までにたくさんの人々を見てきて、人間は醜いものだという価値観が染みついている。暮らすのなら、当然自然の中がいいと主張するだろうし、道中で仕方なく滞在するならともかく、住処とするなら町など絶対に頷かないだろう。
俺は、ニクスともフェルとも一緒に暮らしたいと考えている。しかし、片や自然を望み、片や町を望むという状態。どちらかが諦めなければいけない状況だ。
これは、どうするべきだろうか。
地味に深刻な問題に、頭を悩ませた。




