幕間:授かった力
主人公のパートナー、フェルミリアの視点です。
幻獣の間では、生まれてから最初の年明けに意味があるらしい。
なんでも、最初の年明けを山の頂上で迎え、朝日を見ると、何らかのパワーが得られるとか。
人間の間でも、年明けは特別なものと考えているし、よくお祭りが開かれているところもある。
だから、幻獣の間にもそういうものがあるんだと知って、へぇと感心したものだ。
「それで、私も、何かパワーアップしたってことですか?」
「恐らくはな」
今は、道中に寄った町で、ちょっと休憩中である。
ニクスさん的には、人間の町に寄ることはあまり本意ではないらしいんだけど、ルミエールが人間好きだからね。
初めて私と交流した時も、どうにか言葉が話せないかと思考錯誤していたようだし、本当にドラゴンなのかと疑いたくなるほど人間臭い。
まあ、だからこそ、私も心を開くことができたし、今はこうして一緒になることもできたから、文句はないけどね。
むしろ、私も元人間なだけあって、人間は好きである。色々醜いところもあるけどね。
「なにも感じないんですが……」
「パワーアップすると言っても、あくまで願掛けのようなものだ。神が遣わせた以上、幻獣にとって神は親のようなもの。親が子に祝福を落とすのは普通のことだろうが、それがどんな形になるかはわからない。無償の愛かもしれないし、俗物的な金かもしれない。そもそも、本当にパワーアップできているかどうかなんて確認する術はないし、あくまでそんな感じがした、と思っておくだけで十分だろう」
ふらっと立ち寄った食堂で食事をとりながら、そんな話をする。
確かに、あの時、私の体は淡く輝いていた。
もし、本当にパワーアップしているのだとしたら、あの時に何かの力を授かったということになる。
けれど、色々試してみても、何も実感がない。
力でも強くなったんだろうか。それとも、魔法の扱いがうまくなったとか?
いずれも、幻獣になった際に、大幅にパワーアップしているものだから、いまいちわからない。
悪いものではないとは言っていたけど、得体のしれない力が自分に備わったと考えると、少し怖いな。
「だいじょぶ、ふぇる、つよくなった」
「そうかなぁ」
くぴくぴと果実水を飲みながら、ルミエールがそう言ってくれる。
まあ、何も感じない以上、調べる術はないわけだし、気にしすぎてもしょうがないのかもしれない。
仮に何かあったとしても、今はルミエールがいる。
ルミエールはまだ子供のようだけど、それでも聡い子だ。私に何か異変があれば、見逃すことはないだろう。
「しかし、この店の料理はしけているな。歯ごたえがない」
「そうですか?」
「貴様は何も感じんのか? 普段の料理と比べて、数倍まずいぞ」
そう悪態をつきながら、ニクスさんはスープをすすっている。
まあ、確かに特別美味しいというわけでもないけど、そんなにまずいだろうか?
人間の時、冒険者として野営した時にスープを飲んだことがあるけど、あれの方が全然美味しくなかった。
いや、冒険者が野営する時の食事は、周りの魔物を呼び寄せないように匂いが立つものは基本的にだめだし、スープが薄いのは当たり前なんだけどね。
あれと比べたら、食堂のスープなんて相当美味しい部類である。
この店だって、恐らく貴重な胡椒を使っている。さらに、具材も大きめの肉が入っているのがわかる。
値段を考えれば、かなり良心的だし、むしろ相当当たりの部類の店じゃないだろうか。
「たしかに、ふぇる、りょうり、おいしい」
「そうなのかな。普通に作ってるだけなんだけど」
旅の道中では、基本的に私が料理担当になることが多い。
元々人間で、手先が器用だから、というのはあるけど、ニクスさんもルミエールも、そこまで料理というものをしないからね。
まあ、本性が幻獣で、野生で暮らすのが当たり前なんだからそりゃそうだって感じなんだけど。
そう言う意味では、ルミエールはまだ料理できる方かな?
私の手が空いていない時は、ルミエールが担当することもあるし、その時は、普通に美味しい料理が出てくる。
一体どこで習ったんだろうか。以前はよく町を観察していたらしいし、そこで学んだのかな?
「悔しいが、確かに小娘の料理はうまい。人間の数少ない長所の一つが料理だと思っていたが、この分だと、考えを改めた方がよさそうだ」
「ニクスさん、お店の人に言っちゃだめですよ?」
「わざわざ吠えに行くほど暇ではない。それより、貴様は何か練習でもしていたのか?」
「してませんよ? いつもニクスさんのしごきで追い回されてますし」
「ふむ、となると、あの効果か? いやまさか……」
あの効果、というのは、先ほど話していたパワーアップのことだろうか?
確かに、意識して練習したわけでもないのに、こんなに好評ならば、多少は関係しているのかな?
幻獣として最初に迎えた年明けで授かる能力が、料理スキルって言うのもなんだか変な話だけど。
あるいは、料理スキルはおまけで、何かの能力が上がったついでに料理もうまくなったってことかな?
そっちの方がまだ可能性ありそうだけど、結局何が強くなったのかはわからないなぁ。
「まあいい。小娘よ、これからも道中の料理担当は貴様がやれ」
「それは構いませんけど」
「しかし、こうも舌を唸らせるとなると、侮れん。長い間、古今東西、いろんな料理を食べてきたが、ここにきて更新されるとは思わなかった」
ニクスさんは、ぶつぶつと呟いている。
しかし、料理担当になるのはいいけど、そうなると何を作ったものか。
今までは、旅料理らしく、保存食を使った料理や、その辺で狩った魔物の肉を使った料理が多かったけれど、いくら美味しくても、毎日同じでは飽きてしまうかもしれない。
元々、レパートリーがそんなに多い方ではなかったし、少しは勉強した方がいいかもしれないね。
「ねぇ、ルミエール。ルミエールは何が好き?」
「ん-、らーめん」
「らーめん? 何それ?」
「あ、いや、なんでもない……」
なんだか、少し焦ったように手にしたコップに顔を埋めている。
聞いたことがない料理だけど、ルミエールはどこかで見たんだろうか。
でも、ニクスさんの話では、ルミエールは生まれた時からヒノアの大森林にいて、行ったことがあるとしたら、ルクスくらいなものである。
あそこで、そんな名前の料理があったんだろうか? 私は聞いたことがないけれど……。
教えてほしいと言っても、なんだかはぐらかされるし、よくわからない。
ニクスさんなら知っているだろうか?
「さあな。恐らくは、何かの麵だろう。あんな手間のかかるものを旅道中で要求するとは、貴様も舌が肥えたものだな」
「ち、ちがう! わすれて!」
必死に弁解するルミエール。
そんなに手間のかかるものなら、道中で作るのは無理かもしれないけど、どこかの町に寄った時とか、そう言う時に作るのはありかもしれない。
後で、それとなく作り方を聞いてみるとしよう。
そんなことを思いながら、食事を楽しんだ。




