幕間:不治の病
とある町の領主、マールシェの視点です。
私は、お父さんに幸せになって欲しかった。
元々、町の領主だったお父さんは、現役の頃は、とても優秀な人だった。
人を引き付けるカリスマ性、発言を行動に変える力、どれをとっても一流と言われるほどの傑物だった。
しかし、生憎と、場所が悪かった。
今いる町は、すでに捨てられた町である。
過去に、隣国との大規模な戦争があり、町の主要産業である鉱山は入れなくなり、残されたのは無駄に大きな土地だけ。
お父さんも、その現状を何とかしようと、色々と打って出たが、そのこと如くを国に却下されたり、人手不足により実現できなかったりと、不幸が続き、ある日、病を患って、道半ばで私に領主の座を明け渡すことになった。
結果として町の縮小を止められず、住人からは、よく働く無能なんて言われ方もしていたけど、私はお父さんが間違っていたとは思わない。
もういっそのこと、町を捨てて別の場所で再起してみたらいいんじゃないかとも思うけど、国は見捨てているくせに、隣国との防衛地点として優秀なこの町を手放したくはないのか、私達を留め置く姿勢だ。
待遇は薄く、志は低く、それでいて見返りは高く要求する。腐った連中だ。
だが、私も、この町のことが嫌いなわけではない。
お父さんと過ごしたこの町は、色々な思い出があるし、できれば立て直したいと思っている。
だが、今はそれよりも、別の問題が浮上してきていた。
「お父さん、大丈夫ですか?」
「うぐぅ……なぜ、なぜだ、なぜこうも簡単に……」
今、お父さんは臨時で用意した部屋のベッドで、うんうん唸っている。
ここ最近、お父さんが何か研究をしているのは知っていた。
お父さんは病気で体が弱っているし、年齢も年齢だ。だから、それを何とかすべく、色々と手を尽くしているのだろうと思っていた。
しかし、最後のピースが足りず、研究は行き詰っていた。
そのピースが、魔力水晶。過去に、この町で採掘されていた魔法触媒であり、通常の魔石よりも優れた素材である。
私には、それを何に使うのかはわからなかったが、それさえあれば、お父さんも生きながらえることができると考えていた。
そして、そんな魔力水晶を持ってきてくれる人物がいた。
ニクスと名乗った冒険者は、屋敷にある本を読ませてくれることを条件に、魔力水晶を手渡してくれた。
お父さんは偽物と言っていたけど、実は本物だったのかもしれない。
お父さんは、何かスーツのようなものを着用し、かつての活力を取り戻したかのように、いや、それ以上の力で動き出した。
それこそ、うっかり家を破壊してしまうほどに。
それが何なのかはわからなかったが、このままでは大変なことになると、直感的に感じ取った。
結局、お父さんは、ニクスさんによって落ち着かされ、スーツのようなものも剥がされてしまったようだけど、おかげで、お父さんは今まで以上に体が弱ってしまったようで、ベッドから起き上がることさえできなくなっていた。
いったいどうしてこうなったのか。
あの冒険者のせい? いや、あの冒険者は、お父さんの願いを叶えてくれた。その上で、危険なものだからと止めてくれた。
であれば、お父さんの研究が間違っていた?
あれが何なのかは結局わからなかったけど、少なくとも、お父さんの病気をどうにかしてくれるようには見えなかった。
お父さんはあんなものを求めていたのだろうか。それとも、間違って解釈していたんだろうか。
今となっては、わからない。
「ぐぅ……げほっげほっ!」
「お父さん、しっかりしてください!」
医者に診せてみたが、もうお父さんは長くはないらしい。
話によると、体に残っている魔力の量が著しく少なくなっているらしく、そのせいで病気に対する抵抗力が落ちているらしい。
元々、お父さんが患っていた病気は不治の病とも言われていたし、このまま弱った状態が続けば、後一年も経たないうちに亡くなってしまうかもしれないと言っていた。
このまま何も残せないまま終わってしまうのか。そう考えると、とても悲しい気持ちになった。
「どうにか助ける方法はないんだろうか……」
しばらくして落ち着いたところで、私はいったん部屋の外に出る。
病気を治す方法は確立されていない。
伝説と謳われるエリクサーや、どんなものでも蘇らせるという不死鳥の羽でもあれば話は別だが、そんなものがそこら辺に転がっているとも思えない。
せめて、お父さんが何を研究していたのかを知ることができれば、何かわかるだろうか。
お父さんがどういう解釈をしていたのかはわからないけど、少なくとも、お父さんはそれを研究することによって、自分が生きながらえることができると考えていたわけだし、何かヒントになるかもしれない。
そう思って、お父さんの寝室へと足を踏み入れる。
今、お父さんの寝室は、お父さんが破壊してしまったこともあって、結構荒れてしまっているが、まだ原型が残っているものもある。
がれきに埋もれて本でも眠っていればいいのだが……。
「……ん? これは……」
そうして探していると、ふと、床に落ちているものに気が付いた。
それは、淡く光を発する紅色の一枚の羽である。
普段なら羽など気にも留めないが、ここにあるのは、不思議と目を引き付けられた。
というのも、その羽は、どこかで見たことがある気がしたのだ。
「これって……まさか、ありえない」
見間違いでなければ、それは伝説の不死鳥の羽と酷似していた。
もちろん、鳥の羽なんて似たような形ばかりだし、全然別ものの可能性もある。
しかし、そもそもこの場に鳥の羽があること自体がおかしな話である。
誰かが持ち込んだ? いや、この部屋にはお父さん以外誰も入っていないはずである。
……いや、一人だけ、いる。
あの時、暴走したお父さんを鎮めるために、ニクスという冒険者が入っていった。
まさか、あの冒険者が持っていたのか? だとしたら、とんでもない奇跡である。
「いや、待て待て、まだわからない。とにかく試してみなければ」
あの冒険者の落とし物だとしたら、返さなければとも思ったけど、今はそんなことを言っている場合じゃない。
とにかく試してみなければと、慌てて戻った。
その後、お父さんは完治とは言わないまでも、歩けるまでには回復した。
まさか、本当に不死鳥の羽があるとは思わなかったが、あの冒険者には感謝しなければならないだろう。
いつかこの町に戻ってきた時、精一杯礼を言おうと心に誓った。




