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第二百九話:かつての記憶

『おお、お前さん達、よくきたの』


 カロンさんは、少々間延びした声で出迎えてくれた。

 とりあえず、いつの間にか消耗していたなんてことはなさそうで安心である。

 さて、さっそく例の件を伝えるとしよう。


『カロンさん、実は……』


 俺は、カロンさんの本体と、魔石の状況について伝える。

 本来であれば、何度も死を迎えて、とっくに意識などないはずなのに、なぜかぴんぴんしている分体。

 その疑問は未だに残るけど、分体であるのが本当なら、魔石を食らうことで、魔石を修復することも叶うはずである。

 カロンさんは、わずかに目を見開いていたが、特に声を荒げることもなく、冷静に言葉を聞いてくれた。


『なるほどのぅ。わしの本体はそんな状態になっておったのか』


『はい。今のままだと、魔術装甲を壊す際に、魔石が破壊されてしまう可能性があります。だから、この魔力水晶を食らって、魔石を修復してほしいのです』


『うむうむ。いやはや、まさか本当に本体を見つけてくれるとは、おぬしらには感謝せねばならんの』


 そう言って、にっこりと笑顔を浮かべるカロンさん。

 まあ、見つけたとは言っても、本体は魔力水晶で覆われてしまっているし、仮に魔石を修復し、魔術装甲のくびきから解き放ったとしても、すぐさま動けるかと言われたら微妙なところだ。

 どっちにしろ、魔石に届くまでの巨大な穴は塞ぎようがないし、むしろ、今の状態の方が幸せと言えるかもしれない。

 カロンさんは、記憶がないから、本体に戻れば、記憶が蘇るかもしれないと言っていた。

 その気持ちは、今も変わらないんだろうか?


『つい先ほどから、背中の痛みがだいぶましになってきた。恐らく、おぬしらが何かしてくれたおかげだろう。これだけでも、十分ありがたいことじゃ』


『カロンさんは、今も本体に戻りたいと思っていますか?』


『正直、背中の痛みさえなんとかできるなら、戻る必要はないよ。ただ、何か大事なことを忘れている気がするのじゃ。それを思い出すために、本体を探していたというのもある』


『なるほど』


 確かに、カロンさんは、遥か昔に海の上にいた頃から、この場所に来るまでの間の記憶がぽっかりと抜け落ちてしまっている。

 本体は、見ればわかるけど、大陸と見まがうほど巨大なもの。そんな巨体が、どうやって海からこの場所までやってくることができたのか、謎ではある。

 ニクスの話では、何らかの幻獣が手を貸したのではないかとも言っていたけど、一体何のためにそんなことをしたんだろうか。

 そこらへんは、俺も気になるところである。


『なら、ひとまず本体を見てみますか?』


『そうしてくれるとありがたい。どこにあるのかのぅ?』


『連れて行ってあげますよ』


 とりあえず、記憶を取り戻すだけなら、元に戻る必要はないだろうし、まずは本体を見せてみて、反応を窺うのもいいだろう。

 俺は、カロンさんを抱え上げ、洞窟を後にする。

 持って見て思ったけど、だいぶ軽いな。本体があんな巨体とは思えないほどの軽さである。


『久しぶりの外は眩しいのぅ。こんなに明るかったのか』


『どれくらい外に出てなかったんですか?』


『ここ数十年は外に出ていなかったはずじゃ。出る意味もなかったしの』


 食料などは共に住んでいるゴブリン達が獲ってきてくれるし、そもそも、元々がそんなに大量に食事をとらないこともあって、特に困らなかったという。

 元から、動かないことが好きだったようなので、それもあるかもしれない。

 数十年洞窟に潜っているとか、色々常識が変わりそうだけど、まあ、性質を考えればそこまで不思議なことでもないのかな。

 久しぶりに外に出るということで、ゴブリン達にめちゃくちゃ心配されていたけど、そんなゴブリン達に大丈夫だと軽く手を振り、さっそく向かうことになった。

 背中に乗ってもらい、本体がある場所を目指す。


『ここです』


『おお、これは何とも。綺麗な水晶じゃなぁ』


 現地に着くと、カロンさんはそんな感想を漏らした。

 確かに、見た目は綺麗だけど、これ全部、カロンさんの魔力から作られたものなんだよね。

 全盛期の力を取り戻そうとするなら、これ全部食らう必要がありそうだけど、流石に無理があるかな?

 一応、少し持ってきてはいるけど。


『あれがわしの本体か』


 しばらくして、頭の部分へと到着する。

 すっかり魔力水晶に覆われてしまい、直接触れることはできないが、そこにあるしわの刻まれた頭部は、カロンさんの姿とも似ていた。

 近くの降り、カロンさんを背中から降ろす。

 カロンさんは、てくてくとゆっくりとした足取りで近づくと、そっと水晶に触れた。


『……おお、なんとなく思い出してきたぞ』


『ほんとですか!?』


『うむ。わしは、死にかけておった。背中を穿たれ、物言わぬ大陸となるところだったはずじゃ』


 語るのは、当時の記憶。

 ニクスも言っていたけど、当時、カロンさんは、背中に住まわせていた人間達の裏切りにより、背中を穿たれ、中にある魔石を割られた。

 魔石によって、強大な力を得た人間達だったが、天罰が下り、嵐に巻き込まれて、全滅した。

 しかし、傷を癒すことはできず、カロンさんはそのまま死を迎えるはずだった。

 死期を悟り、短い余生を楽しもうとしていたカロンさんだったが、そんな時に、運命的な出会いをしたらしい。


『彼の名は、モセ。モセは、死にゆくわしに、最後のチャンスをくれた』


 死にかけていたカロンさんに、そのモセさんは語りかけたという。

 死ぬ前に、最期に叶えたい願いはないかと。

 カロンさんは、考えた末に、ありえべからざる未来を願ったという。

 それが、本当の意味での人との交流だ。

 幻獣は、人の願いを叶える神の遣いである。それ故に、人と交流するために、人化の術というものが存在する。

 これを用いれば、言葉を覚える必要はあるものの、人と交流することなど造作もない。

 ただ、カロンさんの場合、そもそもそういうことを想定されていなかったのか、人化の術を使えなかった。

 確かに、背中で人が暮らしているのに、いきなり大陸が人になったら色々と問題があるだろう。

 故に、カロンさんはそう言ったことを知らず、純粋に願ったという。

 そうすると、モセさんは承ったと言って、とある奇跡を起こした。

 それすなわち、カロンさんの転移である。

 大陸ほどの大きさがあるカロンさんの体をどうやって、という疑問はあるが、幻獣の中には、それを可能にする能力もあるらしい。

 カロンさんをこの地に転移させた後、モセさんは一つの術を施した。

 それが、今のカロンさんの分体である。

 人と交流するにあたって、最も手っ取り早いのは、人に化けること。

 しかし、カロンさんは元が巨大すぎて、いくら人化の術で姿を補ったとしても、とてつもない巨人になってしまう可能性があったという。

 だからこそ、代替案として、分体を与え、そちらに意識を移すことで、生きながらえさせると同時に、人と交流することも可能かもしれない、小柄な姿を作り上げた、ということらしかった。

 なんか、スケールが大きすぎて、よくわからなくなってきたけど、つまり、そのモセさんという人が、カロンさんを助けたってことだよね?

 誰かは知らないけど、カロンさんを助けてくれたことには礼をしなければならないかもしれない。

 しかし、目的が謎だな。いや、最期の願いを叶えて上げたかった、というだけかもしれないけど、そのためだけにそんな奇跡のようなことを起こすって、一体何者なんだろうか。

 謎が解けたようで解けてないことに、俺はしばらくの間、首を傾げていた。

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