第二百八話:魔術装甲の制御法
「終わったぞ」
しばらくして、部屋からニクスが出てきた。
その傍らには、すっかり活力を失い、ボロボロの姿になったおじいさんの姿がある。
マールシェさんは、そのあまりの姿に即座に駆け寄り、状態を確認した。
「安心しろ、殺しはしていない。そのうち目を覚ますだろう」
「ほ、ほんとですか? よかった……」
気絶している様子のおじいさんを、マールシェさんが抱きかかえる。
確かに死んではいなさそうだけど、本当に大丈夫だろうか。
見た限り、何本か骨が折れてそうな勢いだけど。
「ニクスさん、大丈夫でしたか?」
「あの程度の雑魚で何かあるわけないだろう。小娘、貴様は我のことを侮っているのか?」
「いや、そう言うわけでは……」
「にくす、ちょうはつ、だめ」
「……はぁ。まあいい。それより、少しは有益な情報が搾り取れたぞ」
ニクスは、おじいさんを介抱するマールシェさんを背に、屋敷の外へと向かう。
この惨状を放置していいのかとも思うけど、俺達にできることはないし、むしろ、このままここにいたら厄介事が増えるだけか。
ちょっと申し訳ないと思いつつも、屋敷を出て、町の方まで戻ってくる。
「まず、あの老いぼれの状態だが、どうやら魔術装甲が関わっているようだ」
「魔術装甲が? 一体どういうことです?」
ニクスが言うには、おじいさんが急に覚醒したのは、魔術装甲を身に纏ったかららしい。
地下の書庫で読んだ本では、魔力水晶を使うことで、不老不死を実現しようとしていたけど、それは難しいという結論が出ていた。
しかし、どうやらあれには続きがあったらしく、魔術装甲に魔力水晶を組み込むことによって、寿命を延ばそうと考えたらしい。
魔術装甲は、いわば魔力を秘めた鎧である。それを纏った状態であれば、表面を巡る魔力によって、疑似的に老化が遅くなるのではないかと考えられたようだ。
さらに言えば、魔力水晶の魔力は、それまで用いられてきた普通の魔石と比べて質が高く、装備者の力を高める効果も期待されていたという。
つまり、魔術装甲を着ることによって、寿命と肉体の強化を同時に行ったわけだ。
まあ、結局は魔術装甲なので、装甲分を使い果たせば結局意味はないわけだけど、大昔の戦争していた時代ならともかく、今の時代なら、そこまで戦う機会はない。
あのおじいさんも、下手なことをしなければ、その技術で長生きてきたかもしれないね。
「重要なのは、その研究の過程で、魔術装甲の調整の仕方が伝わっていたことだ。これを用いれば、カロンにつけられている魔術装甲の設定を調整することができるかもしれない」
「おお」
魔術装甲に関する研究は、割と進んでいたらしく、着脱は難しいものの、ある程度の設定の変更はできていたようである。
確かに、その技術がなければ、カロンさんの魔石から、魔力を効率よく吸収するってことができないし、ある意味当然ではあるのかな?
その方法は、今一番求めていたものである。
魔力水晶を食べさせて、というのでもよかったけど、魔術装甲の設定を変更できるのなら、そっちの方が楽でいい。
一気に光明が見えてきた。
「じゃあ、さっそく」
「ああ。この町にもう用はない。さっさと行くぞ」
方法も見つかったので、さっそくカロンさんの魔石の下へと向かう。
はやる気持ちもあってか、いつもよりも速い速度で進んだせいか、少し早く着いた。
周りにそびえる魔力水晶の柱。そして、その中心にある穴の中にある、巨大な魔石。
今もなお、どろどろとした流動体に覆われているそれは、心なしか弱まっているようにも見える。
魔力が尽きかけているのか、それとも……。
とにかく、早いところ設定を調整しなければ。
『ニクス、お願い』
『そう急かすな。今やる』
ニクスは、魔術装甲の前に立ち、さっそく準備に取り掛かった。
魔術装甲の設定についてだけど、基本的に、魔力によって制御しているらしい。
魔力というか、それに乗った意思かな?
これはこのように動く、というような情報を魔力に乗せて、それを魔術装甲に流すことによって、指向性を持たせているようだ。
魔力に乗った意思って何? と思うけど、昔の人は、魔法を扱う際に、そうやって魔力を制御していたらしい。
今でこそ、魔法はイメージによるものが大きいけど、それも大きく解釈すれば、魔力に意思を乗せるということでもあるのかな?
原理はそう変わらないのかもしれない。
ただ、魔術装甲の場合、下手に相手の魔力によって性質を変えられては困るためか、基本的には、管理者による設定しか受け付けないらしい。
だから、本来なら、この魔術装甲の設定を変更することはできないんだけど、ニクスなら……。
『……よし、これでいい』
しばらくして、ニクスはそう言って離れた。
先程まで、怪しく発光しながら流動していた魔術装甲だけど、今はその光が淡い赤色に変わり、動きもゆっくりになっている。
明らかに、ニクスが何かしてくれた証拠だ。
『管理者権限がどうだか知らないが、強引に上書きしてしまえばなんてことはない。これで、この魔術装甲は、魔石から魔力を吸い取ることはなくなったはずだ』
『よかった』
あまりの力技に少し笑ってしまったが、とりあえず、これでこれ以上魔力が吸収されることはない。
後の問題は、魔術装甲自体をどうやって剥がすかだ。
『魔術装甲の機能自体はまだ生きている。強引に壊そうとしても、衝撃で中の魔石が砕ける可能性はまだ残っているだろう』
『じゃあ、やっぱり魔力水晶を食らって修復しないといけないんだね』
『そう言うことだ。あの分体がきちんと機能してくれたらいいんだが……』
根本的な問題はまだ解決できていないけど、兆しは見えてきた。
魔石が修復できれば、ある程度の衝撃を与えても、耐えることができるだろう。
そうなれば、攻撃によって魔術装甲を剥がし、本体を取り戻すこともできるはずだ。
ようやくここまで来た。けど、まだ油断はできない。
カロンさんの分体に事実を伝えることになるけど、その瞬間死ぬなんてことはないよね?
『今更その可能性を考慮しても仕方ない。なに、魔術装甲の機能は停止したのだから、すぐさま死ぬことはないだろう』
『だといいけど……』
まあ、今まで生きながらえてきたんだから、大丈夫と信じたいけど、果たして。
俺達は、さっそくカロンさんの分体の下へと向かう。
もちろん、食べさせるための魔力水晶の採取も忘れない。
この量全部を食べるのは無理だと思うけど、一部でも吸収出来れば、何とかなるはず。
洞窟へ赴くと、ゴブリン達に奥へと案内される。
さて、カロンさんは健在だろうか?




