第二百六話:解決の方法
魔力水晶の別の使い道、それは不老不死の研究である。
ただの魔法触媒である魔力水晶が、どうしてそんなものに繋がるのかはわからないが、記述を見る限り、産出された魔力水晶を使用して傷を癒した場合、老化が遅くなったというデータがあるらしい。
これは、他の魔力水晶には見られない性質であり、この土地で産出される魔力水晶ならではのものだと考えられた。
そこから、色々と研究が続けられ、ついには不老不死の研究にまで至ったということらしい。
なんだかスケールが大きいけど、もしそんなことができるのなら、大発見ではあるね。
「こんなこと、できる?」
「さあな。ただ、老化が遅れたというのは、恐らくカロンの性質が乗ったからだろう。元々、幻獣はとてつもなく寿命が長い奴が多い。その幻獣の魔石から漏れ出た魔力で作られた魔力水晶なら、そう言う性質が乗っても不思議はない」
体を回る魔力は、老いにも少なからず関係するらしい。
だから、もし長命な者の魔力を吸収出来れば、少なからず寿命が延びても不思議はないとのこと。
あるいは、魔石の魔力を得ることによって、その持ち主が経験してきたものを吸収できるという考え方もあるようだから、そのせいかもしれない。
いずれにしても、カロンさんは幻獣の中でも大陸となるほどの巨大な存在だし、寿命だって相当長いだろう。
不老不死に興味はないけど、昔の人は凄いことを考えるものだ。
「じゃあ、あのおじいさんが魔力水晶を得ようとしていたのは、寿命を延ばすため?」
「恐らくな。まあ、それだけではないような気もするが」
そう言って、少し考え込むような表情をするニクス。
それ以外って、何かあるだろうか?
かなりの高齢だし、不老不死となれるなら、それ以上望むことはなさそうだけど。
「問題なのは、不老不死になるための方法だな。ここの記述を見て見ろ」
「えっと?」
魔力水晶の魔力を得ることによって、老化を遅らせることができる。
であれば、その量を増やせば、不老不死に近づくことも可能になるだろう。
しかし、魔力水晶の魔力を使用するにしても、そのすべてを吸収することは難しい。
基本的には魔法触媒ってだけであり、その魔力を直接取り込む方法は確立されていなかった。
唯一の方法は、魔力水晶を食らうこと。つまり、魔物と同じようなことをするという方法である。
ただ、この方法は、魔物だからこそできること。
魔物には魔石があり、魔力は魔石に送られて、それを成長させる。
そうすることで、魔石の魔力を吸収し、自身を強化することができるわけだ。
しかし、人間には魔石がない。魔石がない以上、魔力水晶の魔力を取り込む場所がなく、かろうじて漏れ出た魔力が体内を回り、霧散するだけ。
その過程で、ある程度は体に吸収されるかもしれないが、すべてを吸収しきることは不可能だ。
そもそも、人間に水晶は食べられないだろうしね。食べれたとしても、消化されずにそのうち排泄されてしまうだろうし、吸収されない限り体内に残しておくことは不可能。
そのはずだったんだけど、研究者達は、もっとも単純な方法で解決策を模索した。
それが、大量に魔力水晶を食らうことである。
すべてを吸収できないなら、規定値に達するまでひたすら食べればいい。
なんとも強引な方法だけど、確かに理論上はできそうではある。
まあ、結局、食べるのは難しいし、その方法は難しいとされたみたいだけどね。
「人間が無駄なあがきをしていると考えればどうでもいいことではあるが、この結論を見る限り、カロンの魔力問題はどうにか解決できる可能性もある」
「どういうこと?」
ニクスが言うには、魔力水晶が老化を遅らせる効能があるのは、カロンさんの魔力を得ているから。つまり、魔力水晶は、カロンさんの魔力を貯蔵している保管庫のようなものであると推察できる。
元々カロンさんの魔石からあふれ出た魔力なんだから、当たり前ではあるんだけど、もし、食べることによってその魔力を吸収できるとなれば、それはカロンさんにも有効なはずである。
つまり、外に漏れ出てしまった魔力を、食べて吸収することにより戻し、魔石を強化するのだ。
魔石を食べることで、魔物は成長する。それは、魔石が成長すると言い換えることができるから、もし、魔力を吸収することができれば、うまくすれば魔石の修復も可能かもしれない。
魔石が丈夫になってくれたら、強引に魔術装甲を破壊しても何とかなる可能性があるし、最悪、完膚なきまでに破壊されなければ、回復の芽もある。
そう言う意味で、解決の可能性があると言っているようだった。
「なるほど」
「でも、食べると言っても、どうやって食べさせるんです?」
「奴の分体がいるだろう。そいつに食わせればいいのではないか?」
「うーん……」
確かに、今動いているのは分体であり、本体とは同一人物である。
であるなら、分体が魔石を食べれば、本体の方に吸収される可能性は十分にある。
ただ、分体の方のカロンさんは、いまいち謎が多いんだよね。
本体が死んでいるのに、生きているって言うのも謎だし、そもそもどうやって分体を作ったのかも謎である。
下手をすれば、自分のことをカロンだと思い込んでいるだけの別人という可能性もあるわけだし、本体とは離れているから、食べたところでちゃんと吸収されるのかという疑問もある。
万全とは言えないけど、やってみる価値はあるだろうか?
「もっと、なにか……」
この際だから、この本はもうちょっと読み進めてみよう。そう思って、ページをめくろうとした、その時。
「お父さん! 何をやってるんですか!?」
ふと、上の階から、叫び声が聞こえてきた。
同時に、何かの破壊音も聞こえたし、何かあったのは間違いないらしい。
俺は、フェルとニクスに目配せをして、ひとまず様子を見に行くことにした。
「なにがあった」
「あ、ニクスさん! お父さんが!」
廊下で、狼狽した様子のマールシェさんがへたり込んでいる。
その先には、陥没した床や、ひび割れた壁が目立ち、何かが暴れたような形跡がある。
いったい何事かと思ったが、どうやらそれをやったのは、明白のようだ。
なぜなら、その廊下の中心には、あのおじいさんが立っていたのだから。
「何これ、禍々しい気配……」
「カロンの魔力を感じる。何かやるとは思っていたが、どうやったらこうなるんだ」
二人とも、即座に戦闘態勢を取る。
おじいさんは、今までのふらふらとした足取りが嘘のようにすたすたと歩き、心底嬉しそうな声で笑い声をあげていた。
「素晴らしい! まさかこれほどの力が得られるとは!」
「一応聞くが、何があった?」
「わ、わかりません……ただ、お父さんの確認をしようと部屋に行ったら、返事がなくて、それで何度か呼び掛けていたら、急に扉が吹き飛んで、あの有様に……」
マールシェさんも、何が起きたのかはわかっていない様子。
でも、カロンさんの魔力を感じるから、魔力水晶を使って何かしたのは間違いないだろう。
さて、どうしたものか。
俺は、ニクスの陰に隠れながら、様子を見るのだった。




