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第二百五話:過去の情報

 魔力水晶自体は、入手するのに特に困ることはない。

 まあ、カロンさんの魔石を利用して作られたものだから、それを使うのはちょっと心苦しくはあるけど、あれがなければカロンさんの命が危ないというわけではないだろうし、多少回収するくらいは問題ないだろう。

 場所もわかっているので、とんぼ返りですぐさま戻ってくる。

 ただ、割と遠いので、それだけで一週間弱ほどかかってしまったが。


「依頼の品を持ってきた。さっさと中へ通せ」


 こんなに早く戻ってくると思っていなかったのか、門番達は困惑した様子だったけど、すぐに中に通してくれた。

 応接室で待っていると、マールシェさんがやってくる。

 同じように、あまりに早い帰還に困惑している様子だった。


「早かったですね。やはり、見つけるのは難しかったですか?」


「我を舐めるな。これが貴様の所望する魔力水晶だろう」


 そう言って、ニクスはテーブルの上に魔力水晶を放り投げる。

 あんまり乱暴にすると割れてしまいそうだけど、そこは加減したのか、そこまで損傷はなかった。


「ま、まさかこんなにも早く見つけてくださるとは……今までにも何人か冒険者の方は来てくださいましたが、誰も見つけられずにいたというのに」


「これで文句はあるまい。さあ、本を見せろ」


「ちょ、ちょっと待ってくださいね。一応、真贋を確認させていただきますから」


 マールシェさんは、そう言って一度部屋を後にする。

 しばらくして戻ってきた時には、隣にあのおじいさんの姿があった。


「ふん、魔力水晶を持ってきたらしいな。どうせ偽物だろうが、一応見てやる」


 おじいさんは、ふらふらとした足取りでテーブルの上に置いてある魔力水晶の前までくる。

 一瞬、目を見開いて驚いたような表情を浮かべたが、すぐに元の表情に戻り、そっと魔力水晶を手にした。


「……ふむ、やはり偽物だな。こんなものでわしを騙せると思ったか?」


「え?」


 フェルが思わず声を上げる。

 おかしいな、これは確かに魔力水晶であるはずだけど……。

 ちらりとニクスを見る。

 意外にも、ニクスは冷静だった。ピクリとも表情を動かさず、ただその様子を眺めている。

 このことを予測していたんだろうか?

 ひとまず、成り行きを見守ることにする。


「た、確かにそれは魔力水晶ですよ?」


「どうせ、そこらで拾ったキラキラした石を魔力水晶と言いたいんだろうが、わしの目は誤魔化せん。まあ、魔法触媒としては使えなくもないから貰ってやるが、報酬は半額でいいだろう」


「そんな……」


 ショックを受けるフェルを見て、おじいさんはにやにやと意地悪そうな表情を浮かべている。

 魔力水晶ではないのに、欲しがるのはなんかきな臭いけど、もしかして、報酬をけちるために嘘ついてる?

 俺達にとっては、今最も欲しい報酬は、魔術装甲の情報であって、お金ではないから、報酬の減額は別にどうでもいいけど、わざわざそんなことをするほどお金に困っているとは思えないけどなぁ。


「お父さん、これには結構な魔力が感じられますが、本当に魔力水晶ではないんですか?」


「ふん、素人が。これは間違いなく魔力水晶ではない」


「それじゃあ、お父さんを助けることはできないんですね……」


「まあ、多少の足しにはなるだろう。おい貴様ら、もっとないのか?」


「い、一応ありますけど……」


「ならすべてよこせ。まがい物でも、わしの役に立てるのだ、ありがたく思え」


 残念がるマールシェさんに対し、おじいさんの方はにんまり顔である。

 明らかに嘘をついてるとわかるけど、フェルはそれに気が付いていない様子。

 まあ、それで満足してくれるならいいのかな?

 嘘でも何でも、本を読ませてくれるなら何でもいいわけだし。


「……よし、いいだろう。まあ、これだけの量があるなら、報酬は元の金額で払ってもいいだろう。マールシェ、払っておけ」


「わかりました。でも、本物の魔力水晶を探してもらわなくていいんですか?」


「真っ先に偽物を持ってくるような奴だぞ? 信用できるか。多少役に立っただけましだが、これ以上頼む必要はない」


 そう言って、おじいさんは魔力水晶を抱えて、部屋を出て行ってしまった。

 マールシェさんは、なんだか納得していない様子だったけど、多少役に立つという言葉で納得しようとしたのか、ため息をつきながらも、その姿を見送った。


「……ああ、すいません。わざわざ取ってきていただいたのに、あのような言動をしてしまって……」


「謝罪はいい。それよりも、早く報酬をよこせ」


「ああ、そうでしたね。今お金を……」


「そちらではない。情報の方だ」


「そ、そちらでしたか。わかりました、今から報酬を用意するので、その間に読んでもらって構いません。本は、地下の書庫に置いてありますから」


 マールシェさんは、呼び鈴を鳴らしてメイドを呼び出すと、俺達の案内を頼み、部屋を後にした。

 しかし、地下に書庫があるのか。

 いや、重要な本を保存するなら日が当たらない方がいいし、理に適ってはいるのかな?

 案内されるがままに階段を降りると、そこには小さいながらも立派な書庫があった。

 結構抜けも多いけど、古そうな本も結構あるし、ここならもしかしたら魔術装甲の記述も見つかるかもしれない。


「ちゃんと見つかるといいですね」


「ああ」


 とりあえず、手分けして本を読み漁っていくことにする。

 本棚はいくつかあるけど、ジャンル分けなどはされていないのか、結構偏っているような気がする。

 一応領主だからなのか、帝王学だったり、領地経営の指南書みたいなものも割と多く、読んでいると少し面白いけど、今はそれが目的じゃない。

 適当に斜め読みして、どんどん回していく。

 しばらく見ていると、ふと、それらしい記述がある本を見つけた。


「にくす、これ」


「見つかったか?」


「たぶん」


 表紙にタイトルなどは書かれていなかったが、ページをめくると、魔力水晶の採掘計画という文言が書かれていた。

 どうやら、過去にカロンさんをあんな目に合わせた人達が書いたらしい。

 と言っても、当時の人々は、それがカロンさんであることは知らず、ただ単に深い穴を潜って行ったら、そこに巨大な魔石があったから利用しようという魂胆だったようだけどね。

 魔石の劣化を防ぐために、魔術装甲で覆い、且つ微調整をすることによって、魔力水晶の生産速度を上げたと言ったことが書かれている。

 おおよそ、ニクスが予想した通りだった。昔の人も、酷いことを考えるものである。


「魔術装甲を剥がす方法は何か書いてある?」


「ん-、ない」


 残念ながら、魔術装甲を剥がす手段はないらしい。それこそ、装甲分を使い切り、自然と破壊されるくらいしかないようだ。

 大きな衝撃を与えては魔石が壊れる可能性があるから、こうして調べに来たのに、その方法が乗っていないんじゃお手上げである。

 せめて、無力化する方法でも書かれていればよかったんだけど……。


「……ふむ、奴が騒いでいたのはこれか」


「にくす、なにか、みつかった?」


「これを見ろ」


 そう言って、ニクスが示した場所には、魔力水晶の使い道が書かれていた。

 単純に、魔法触媒として優秀というのはあるので、これが安定的に生産できればかなりの儲けになることは間違いないけど、当時の人々は、それ以外にも利用方法を見出していたらしい。

 ただ、それは、思いもよらぬものだった。

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