第二百四話:領主の依頼
「待った! 戦わなくていいですから!」
あわや部屋の中で戦闘開始かと思われたが、おじいさんを止めていた男性の声で、動きを止める。
権限的にはこの男性の方が上なのかな? 入ってきた兵士も、どうすればいいのかわからないようで、困惑した表情を浮かべている。
「皆さん、お父さんが失礼をしました。代わりに、僕の方から謝罪させていただきます」
「これ、わしを無視するでない! こんな奴らさっさと切り捨てろ!」
「お父さん! いい加減にしてください! これ以上騒ぐのなら、戸棚に隠しているワインを捨ててしまいますよ!」
「なっ!? な、なぜそれを!?」
「お父さんのことは何でもお見通しです。お願いですから、大人しくしておいてください」
「ぐぬぬ……仕方ない、この場は引いてやる。だが、そ奴らのことは一切信用せんからな!」
そう言って、おじいさんは部屋から出て行った。
男性が目配せをすると、入ってきた兵士達も剣を収め、部屋を後にしていく。
あわや大惨事だったが、どうにか回避できたようだ。
「改めて、謝罪させてください。お父さんが失礼をしました」
「ふん、身内の世話くらいしっかりとしておけ。危うく、この家が炭になるところだったぞ」
「にくす、ぶっそう」
「申し訳ない。こんな状況ではありますが、依頼の話をしましょう。どうぞ、座ってください」
そう言って、男性もソファに腰かける。
ようやくまともに話しができそうだ。
「まずは自己紹介させていただきますね。僕はマールシェ。一応、この町の領主ということになっています」
「貴様が領主? では、あのじじいはなんだ」
「僕の父です。以前は、領主をされていたんですが、だいぶ年を取ったということで、僕が引き継ぐことになりました。ですが、本人はまだ現役だと言って、色々口を出してくるんですよ……」
そう言って、ため息を吐くマールシェさん。
多分、領主を退いた今でも、自分が一番偉いって思ってるんだろうな。
確かに、隠居した元領主なら、相談役として領主にアドバイスできる立場かもしれないけど、基本的には、引き継いだ領主に権限があるはず。
それを認められないのか、それともわかっていないのかわからないけど、随分大変そうだ。
「まあ、お父さんのことはさておき、依頼についてお話しますね。依頼というのは、とあるものを納品してほしいというものです」
「聞き及んでいます。ですが、何を納品するかは、直接聞かせるとか?」
「はい。実は、結構入手難易度が高いものでして、取りに行くためには、相応の危険が伴います。それ故に、こうして実際に赴いていただき、その人柄を見るために、あえて非公開にしているのです」
どうやら、そんじょそこらの冒険者では、まず達成できないであろう依頼らしい。
実際、過去にも冒険者が失敗しまくっているらしいし、難易度が高いのは本当なんだろう。
問題は、何を納品するのかだが。
「で、その納品するものは何だ? さっさと話せ」
「はい。それは、魔力水晶と呼ばれるものです」
その言葉に、ニクスの眉がピクリと上がる。
魔力水晶。まさに、渦中のカロンさんを取り巻く状況だけど、あれと何か関係があるんだろうか。
「この地域では、昔から魔力水晶という魔法触媒が多く取れることで有名でした。しかし、先の戦争によって、鉱山を封鎖されてからは、手に入れることもなくなり、全く音沙汰がなかったのです。ですが、どうしても魔力水晶を手に入れなければいけない理由ができてしまったのです」
「その理由は?」
「……申し訳ありませんが、それは明かせません。ですが、それがなければ、お父さんももう長くはないとだけ。これは、お父さんを救うためのものでもあるのです」
「ふむ」
魔力水晶がないと、あのおじいさんがもう長くない?
魔力水晶というのがどういうものかは知らないけど、ニクスの話からして、ただの魔法触媒のはず。
何かしらの病気にかかっていて、それの治療のために魔法が必要ってことだろうか。
威勢はよかったけど、だいぶふらついてたし、あの年齢なら、何か病気を患っていても不思議はないしね。
「あんな老害を助ける意味があるか?」
「にくす」
「あはは……確かに苦労させられることもありますが、僕にとっては、大事な家族なのです。どうか、探してきてもらえませんか?」
確かに、家族は大事だよね。
家族を助けるためと言われたら、俺だって放っておくわけにはいかない。
魔力水晶に関しては、採取すること自体は簡単だろうし、問題はないはず。
「いいだろう。魔力水晶は取って来てやる。だが代わりに、欲しい情報がある」
「情報ですか? 僕の知ることであれば、お教えしましょう」
「貴様は、魔術装甲について知っているか? 知らないのなら、この家に保管されている書物を読ませてもらえるだけでもいいが」
「魔術装甲、ですか? いえ、申し訳ありませんが、聞いたことがありませんね」
「そうか」
「本でしたら、いくつか古い書物が物置にあったかと思います。依頼から帰ってきたら、読んでもらって構いませんよ」
マールシェさん自身は知らないようだけど、本を読ませてもらう約束は取り付けることができた。
後は、さっさと魔力水晶を持って帰って、読ませてもらうだけだね。
「ちなみに、魔力水晶がある場所に心当たりは?」
「お父さんの話では、鉱山の奥地で取れるとか。ただ、今はあの鉱山は、正式な採掘が禁止されている場所です。もし誰かに見つかれば、罰せられてしまうかもしれません」
「つまり、我らは捨て駒ということか」
「そう言う見方をされても仕方ありません。なるべくフォローはするつもりですが、どうかくれぐれもお気をつけて」
そう言って、深々と頭を下げるマールシェさん。
確かに、国の方で、その地域はお互いに採掘することを禁じられているんだもんね。
入るくらいだったら問題ないかもしれないけど、もし何かしようとしたら、何を言われるかわかったもんではない。
最悪、それをきっかけにまた戦争、なんてことにもなりかねないので、気をつけないといけないね。
まあ、俺達にとってはあんまり関係ないことかもしれないが。
依頼もわかったので、領主の家を後にする。
魔力水晶に関しては、場所はわかっているので問題はない。
まあ、仮に何かの病気を治すためだって言うなら、俺が診た方が早いけど、明かしてくれないんじゃどうしようもない。
実際に持ってきて、反応を見るしかないだろうね。
「さっさと済ませるぞ」
「うん」
時間もないので、さっさと向かうことにする。
さて、有用な情報が見つかるといいのだけど。




