第二百三話:残された手掛かり
「見たところ、あなた達は冒険者ですよね? なぜ図書館を探しているんですか?」
「貴様に教える必要はない」
「まあ、それはそうですが……でしたら、せめて依頼を受けて行ってくださいませんか? 依頼が掃けなくて困ってるんですよ」
「それをして我らに何の得がある?」
「にくす、いじわる、よくない」
けんもほろろに受付さんの言葉をぶった切るニクスを、諫める。
まあ、確かに、今は一刻も早く魔術装甲についての文献が欲しいところではあるけど、それが手に入らないのを受付さんに当たるのは違うだろう。
無償で情報を提供されるのもあれだし、何か対価として依頼を受けるくらいはしてもいいんじゃないだろうか?
「そんなことをしている場合か? いつ命が尽きるともわからんのだぞ?」
「おん、うる、じょうほう、もらう」
「ふむ、依頼を受ける代わりに情報を要求すると。そんなことせずとも、力ずくで聞きだせばよかろう」
「そういうの、よくない」
「相変わらず、貴様はお人好しだな」
そう言って、鼻を鳴らすニクス。
まあ、この状況では多分ニクスが正しいんだろうけど、困っている人は放っておけない。
受付さんは、俺とニクスの会話に目を丸くしていたけど、ニクスがぶすっとした顔でそっぽを向いたのを見て、なんとなく俺達の関係を察したようだった。
「えっと、何か情報が欲しいんですよね? 図書館を探しているということは、古い文献か何かですか?」
「えっと、そうです。魔術装甲っていうものについて知りたいんですけど」
「生憎と、私はそれが何なのかは存じ上げませんが、それらがあるかもしれない場所はわかっております」
「ほんとですか!?」
どうやら、何か心当たりがある様子。
話を聞くと、先程も言った通り、すでに図書館は潰されてしまっているが、その際に残された本は、領主が保管することになったらしい。
その多くは、すでに売りに出され、外に流れて行ってしまったらしいが、まだ何冊かは領主自身が持っているとのこと。
つまり、領主の家を訪れれば、もしかしたら本を見ることができるかもしれないらしい。
「ただ、領主様、いえ、正確には前領主様はとてもプライドが高く、特に冒険者に関しては毛嫌いしている節があります。真正面から行っても、追い返されてしまうでしょう」
「そんな……」
「ですが、きちんと成果を示した相手には、寛大な態度を取ります。そこでなんですが、こんな依頼はいかがでしょう?」
そう言って、受付さんは一枚の依頼書を取り出す。
そこに書かれていたのは、とあるもの納品依頼。
具体的に何を納品するのかは書かれておらず、依頼を受ける際は、依頼者が直接何を納品するのかを伝えるとのこと。
そして、その依頼者というのが、何を隠そう領主のようだった。
「この依頼は、何年か前からギルドに掲示されたものなんですが、納品依頼であることや、その報酬の高さから、受ける人も何人かいました。しかし、結局誰も達成することができなかったようで、依頼を受けた多くの冒険者はそのまま町から出て行ってしまいました」
「つまり、この依頼を受け、成功することができれば、多少の融通は利かせてもらえるということか」
「そう言うことです。まあ、何を納品するのかはわかりませんし、他の冒険者の様子を見ると、かなり困難な依頼だとは思いますが……」
「それで手掛かりが得られるなら構わん。さっさと受注処理をしろ」
「お、思い切りがいいですね。わかりました、どうかよろしくお願いします」
領主が持っている本に、魔術装甲の記述があるかはわからないが、現状手掛かりがそれくらいしかない以上、やるしかないだろう。
領主には、すぐに連絡してくれるとのことなので、とりあえずこのまま向かうことにしよう。
領主の家の場所を教えてもらい、ギルドを後にする。
さて、何を納品すればいいんだろうね?
「ふむ」
「にくす、どうかした?」
「いや、なんでもない」
道中、ニクスが何か考えているような表情を見せていたが、特に語ることはなかった。
まあ、ニクス的には、このやり方はあんまり好きじゃないだろうし、乗り気じゃないのかもしれない。
やりようによっては、そこら辺のお年寄りから話を聞くってこともできるわけだしね。
もちろん、魔術装甲が使われていたのは、恐らく数百年以上前。いくらお年寄りが物知りだったとしても、そうそう知っているとは限らないが。
「とにかく、領主に会ってみましょう」
「そうだな」
ひとまず、領主の家へと向かう。
領主の家は、少し町の外れにあるようだった。
なんでこんな外れにあるんだろう? 領主の家なんだから、もうちょっと目立つところにあってもよさそうだけど。
ちょっと疑問に思ったけど、まあ、別にどうでもいいか。
「ここは領主様の屋敷である。用がないならお引き取り願おう」
「依頼を受けてきた。連絡は行っているはずだが?」
入り口には門番がいて、強い言葉でそう言われた。
まあ、ニクスは、そんな言葉にビビるはずもなく、逆に強気に返した。
門番は、確認を取ると言って下がり、しばらくして戻ってくる。
きちんと話が通っていたのか、すぐに中に通されることになった。
「貴様らが、わしの依頼を受けたという冒険者共か」
応接室に通され、しばらく待っていると、一人の老人が入ってきた。
杖を突き、今にも倒れそうなほどふらふらとしているが、言葉だけは上からである。
確かに、領主は男だとは聞いていたけど、こんなよぼよぼのおじいさんではないと思うんだが、この人誰だ?
「お父さん! もう、安静にしていてと言っているでしょう?」
「ふん、わしはまだまだ現役だ。年寄扱いするでないわ!」
「そんなふらふらの体で言われても説得力がありませんよ。ほら、話は僕がしますから、部屋に戻っていてください」
「黙れ! この家の家主はわしだ! わしに逆らうな!」
すぐに、後から入ってきた男性が、おじいさんのことを支えていた。
この人もそこそこ年齢が行ってそうだけど、こっちの方が領主かな?
なんか、大変そうだけど、俺達からしたら、何を見せられているんだといった光景である。
案の定、ニクスがイライラとしているので、口を挟むことにした。
「けんか、よくない」
「なんだ、子供が混じっているではないか。冒険者はいつから子連れで依頼を受けるようになったんだ?」
そう言って、挑発するようにニクスの方を見る。
ニクスは、憐みの籠った眼でおじいさんを見ながら、小さくため息をついた。
「はぁ、なんだこの茶番は。我らは依頼を聞きに来ただけなのだが、まさか演劇を見せられるとは思わなかったぞ」
「なっ!? 貴様、このわしに対して無礼だぞ!」
「何が無礼だおいぼれじじい。我はただ、聞きたいことがあってきただけだ。その手間賃として、依頼を受けてやろうと言っているだけのこと。話す気がないなら、このまま帰るが?」
「おのれ、馬鹿にしおって! おい、この小うるさい冒険者を黙らせろ!」
おじいさんが大声を上げると、どこからともなく武装した人達が部屋に入ってくる。
数は三人。状況が理解できていないのか、ちょっと困惑気味だけど、戦う気ではあるらしい。
なんで、依頼を聞きに来ただけでこんなことになるんだ?
俺は、思わぬ展開に、頭を抑えた。




