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第二百一話:魔術装甲

 現状が良くない状況なのはわかっている。

 このまま魔術装甲で覆われたままになれば、魔力は吸い尽くされ、死に至り、再び大地の魔力を吸収して復活するを繰り返すことになる。

 一応、復活はできるのだから、今の状態は安定しているとも言えるけど、大地の魔力が、無限であるという保証はない。

 いつからこの状態になっているのかは知らないが、いつか大地の魔力すらも吸い尽くして、本当の意味で死を迎えるのも時間の問題だろう。

 カロンさんを助けたいなら、早いところ魔術装甲を剥がしたいところだけど、無理矢理剥がそうとすれば、幾度もの復活によって劣化したカロンさんの魔石が耐えられない。

 もし剥がすなら、慎重に剥がす必要があるだろう。


『ニクス、魔術装甲って、本来はどうやって剥がすの?』


『剥がす方法はない』


『え?』


『いや、あると言えばあるが、正式な着脱手段というわけではないな』


 ニクスが言うには、魔術装甲というのは、一度装着したら、その装甲を使い切るまで、脱ぐことはできないらしい。

 流体であるため、普通につけただけではすぐに剥がれてしまうけど、魔術装甲は、その性質上、魔力に良く吸着する性質がある。

 つまり、装着者の魔力が尽きない限りは、魔力に反応して、吸い付き続ける。

 その吸着力は強く、無理に引きはがそうとすれば、皮膚ごと剥がれてしまうほどだ。

 一部の地域では、騎士団の正式装備になっているという話だったが、逆にその危険性から、使用を禁止している地域もあるらしい。

 ニクスの炎を防ぎ切ったことからもわかるように、その防御性能は相当高く、鎧としてはかなり高性能であるのは違いないが、リスクもあるということらしい。

 明らかにやばそうなものだけど、なんだってそんなものが出回っているんだろうか。


『元々は、ゴーレムなどの手駒に装着させていたらしいが、魔力の消費量が多すぎて使い物にならなかったらしい。その後、だったら魔力も安定する人が装着すればいいのではとなり、広まっていった』


『そんな危険なものなのに広がっていったんだね』


『昔は戦争も絶えなかったからな。兵士を人とも思っていない輩などごまんといた。そこに、過去に使われていた魔術装甲の文献が見つかって、実戦投入したら、意外にも有用だったから使う奴が増えたんだろうよ』


『なるほど』


 でも、これ下手したら日常生活送れなくなりそうじゃない?

 普通に剝がせない以上、戦闘をしていない日常時でも常につけていなくてはならないだろうし、覆い方にもよると思うけど、トイレとか食事とか、色々と不便になる部分もあるだろう。

 いくら身を守るためとはいえ、リスキーすぎる気もする。

 それほど切羽詰まってたってことなんだろうか。

 当時のことはよくわからないけど、なんだか悲しいね。


『剥がすには、装着者の魔力がなくなるか、装甲分の魔力を使い切らせる必要がある。だから、攻撃しまくるのが手っ取り早い』


『でも、今そんなことをしたら……』


『ああ、魔石ごと壊れるだろう。早まらなくてよかった、止めてくれて感謝するぞ』


『ああ、うん、それはいいんだけど……』


 無理矢理剥がすのがダメだとなると、もう一つの方法、装着者の魔力がなくなるまで待つという手段を取ることになる。

 しかし、魔石の魔力がなくなるということは、死ぬことも同義である。

 本来なら、絶対に取れない選択肢ではあるけど、どうやらこの魔石は、魔力がなくなった後も、大地の魔力を吸収して、復活をしている様子。

 であるなら、魔力がなくなった時に魔術装甲を剥がし、また復活するまで見守れば、安全に助けることが可能なのではないだろうか。


『ねぇ、魔力がなくなるまで待つとしたら、どれくらいかかると思う?』


『わからん。復活の過程で、どれほど魔力を吸収できているのかがわからないからな。復活してすぐに吸収されているとしたら、それほど多くはなさそうだが、元々の許容量を考えると、数年から数十年かかってもおかしくはない』


『幅が大きすぎるね……』


 まあ、待とうと思えば待てるかもしれないけど、その間、ずっと見守るのはかなり難しいと思う。

 そもそも、大地の魔力がまだ残っているかどうかすら不明なのに、悠長に魔力がなくなるのを待つというのも、怖いところだしね。

 できることなら、今すぐにでもこの装甲を何とかしたい。

 何か手はないんだろうか。


『……現状ではどうにもならん。これを施した不届き者の件も考えなければならんし、一度戻るぞ』


『うん、わかった』


 目の前にあるのに、助けられないのは残念ではあるけど、現状では俺達にはどうにもできない。

 ひとまず、フェルにも伝えないといけないし、まずは元凶を絶つ必要があるだろう。

 翼を広げ、外を目指す。

 ちらりと、眼下に見える魔石を見やったが、そのきらめきは、すぐに流体に阻まれて見えなくなった。

 再生能力があるわけではないと思うけど、無事に解決できるといいんだけど。


『あ、戻ってきた。お帰りなさい』


『ただいま、フェル。何か問題はあった?』


『ううん、特には何も。そっちはどうだった?』


『それがね……』


 俺は、フェルに魔石のことを説明する。

 魔術装甲に関しては、よく知らない様子だったけど、魔力を強制的に吸収されているということには何となく共感したのか、少し辛そうな顔をしていた。


『……なるほどね。酷いことをする人もいるもんだね』


『まったくだ。見つけたらすぐにでも焼き払ってやる』


『お、落ち着いて?』


 気持ちはわかるけど、そもそもこんな場所に来る人なんているんだろうか?

 この辺りは割と捜索していたけど、道らしき道はなかったように思える。

 ニクスの説が合っているのなら、この水晶を採掘して、魔力水晶として利用しているんだと思うけど、人里からはかなり離れているし、そう簡単には持ち運べないはず。

 何か運び出せるルートでもあるんだろうか?


『多分だけど、その仕掛けを施した人は、もういないんじゃない?』


『どういうこと?』


 俺の疑問に、フェルは考えを説明する。

 それは、この仕掛けが施されたのは結構昔のことであり、現在はすでに放棄されているんじゃないかという話。

 確かに、あの魔術装甲がいつ施されたものなのかははっきりしていない。

 俺はてっきり、水晶採掘は今でも行われていると思っていたけど、とっくにできる人がいなくなって、時間が経っているなら、道がない理由もわかるし、その考えは割と的を射ているかもしれない。


『つまり、利用するだけ利用して、ほっぽりだしたってこと?』


『つくづく反吐が出るな』


 魔力水晶がどれほど貴重なものかは知らないけど、利用するだけ利用して、後はポイとは、ちょっと無責任すぎるよね。

 せめて、放棄するなら魔術装甲を外せばよかったのにと思うけど、当時に何があったかはわからないし、普通の方法じゃ外せないなら、そのまま放棄するのも頷ける。

 ワンチャン、今なら剥がす方法も確立していて、そいつらが知っているんじゃないかと期待もしていたけど、そう言うのは無理そうだな。

 確定ではないけど、対処すべき事案が一つ減ったのはまあ良しとしよう。

 問題は、結局魔術装甲が剥がせないという点だけど、どうしたものか。

 俺は、怒りに燃えるニクスを落ち着かせながら、いい手はないかと思案した。

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