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第二百話:魔石の状態

 二百話を達成しました、ありがとうございます。

『ニクス、なにかわかった?』


『……』


 話しかけてみるが、ニクスは震えたまま喋らない。

 聞こえていないのかと思って、近寄ろうとした時、不意にニクスの体から激しい炎が噴き出した。


『わっ!?』


『どこまで命を弄べば気が済むのだ!』


 ニクスの炎が、辺りのものを手当たり次第に燃やしていく。

 不気味にきらめく流動体は、炎に当てられて瞬時に蒸発していくが、すべてを取り除くまでは至らない。

 ニクスがここまで取り乱すということは、よくないものではあるんだろうけど、いきなり炎をまき散らすのはやめてほしい。


『はぁはぁ……』


 次第に落ち着いてきたのか、炎が落ち着いてくる。

 辺りは、焦げた臭いが充満し、燃え残りの小さな種火が、ちらちらと辺りを照らしている。

 これだけの炎を浴びながら、魔石を覆っていると思われる液体は未だ健在だ。

 ニクスの炎には、浄化の力もある。並大抵のものなら、今ので全部焼き払われてもおかしくはないのだけど……。


『ニクス、大丈夫?』


『……ああ、取り乱してすまん』


『それはいいけど、何があったの?』


『これは、人共が魔術装甲と呼ぶものだ』


 ニクスの話では、魔石を覆っているこの液体が、魔術装甲らしい。

 魔術装甲とは、魔石を用いて作り出した疑似的な流体鎧であり、纏っている間、攻撃を防いだりする効果があるらしい。

 単純な防御魔法に比べて、手に入りさえすれば誰でも使うことができ、一部の地域では、騎士団の正式装備として支給されているところもあるそうだ。

 それだけだったら、単なる鎧ってだけで、特に問題はないのだけど、問題なのは、この魔術装甲、その効果を維持するためには、多少なりとも、使用者の魔力を吸収する必要があるらしい。

 つまり、身に着けている間、徐々に魔力が減っていく状態になるってわけだ。

 そんなものを、こうして大量にまとわりつかせていたら、当然ながら、魔石の魔力も減っていく。

 これは言うなれば、徐々に命を吸い取っていく、拷問器具に等しい状況だという。


『本来なら、こんなバカげたことはしない。そもそも、魔術装甲は脆弱な人共が身を守るために使うもの、それをこんなでかい魔石に装着しようなどと、誰も考えないだろう』


『じゃあ、なんで?』


『恐らく、本質は身を守ることではなく、魔力を吸収するという点だ。周りの惨状を見てみろ、魔力を吸いに吸って成長した水晶。これはカロンの魔石の魔力を吸って成長したとみて間違いない。そして、魔力を吸って成長した水晶は、魔力水晶として、人共からは重宝がられている』


『ってことは、つまり……』


『何者かが、カロンの魔石を利用して、この水晶山を作り出している。触媒として利用するためか、はたまた売るためかは知らんが、幻獣の命を何とも思っていない鬼畜の所業だ』


 いまいち話が呑み込めないけど、ニクスが言わんとしていることは、誰かがカロンさんを使って、金儲けか何かをしようとしているってことだ。

 しかし、矛盾する点もある。

 ニクスは、もし数百年前から魔力が漏れ出しているのなら、魔石の魔力はとっくに尽きているだろうと言っていた。

 だが、実際には魔術装甲を介して、常に魔力を吸い取られているような状態。

 これでは、普通なら、とっくに魔力を使い果たして、カロンさんは命を落としているだろう。

 見たところ、魔力自体はまだあるように見える。これは一体どういうことだろう?


『とにかく、今すぐにでもこれを取り除かねばならん。貴様も手伝え』


『ま、待って。調べてからじゃないとまずいことになるかもしれないよ?』


『まずいことだと? この状況を見て、これ以上まずいことがあるか?』


『お、落ち着いて? 例えば、ほら、この魔術装甲があるからこそ、カロンさんは生きていられるかもしれないし』


 詳しいことは知らないが、魔術装甲は、本来は身を守るための装甲として機能するはずである。

 つまり、これは魔石を守っているという風にも捉えられる。

 まあ、横取りできないようにという意味があるかもしれないけど、魔術装甲をすべて取り払った瞬間に息絶えてしまいましたじゃ困る。

 いくら、仮死状態に近いとはいえ、ちょっとしたきっかけで本当に死んでしまう可能性は十分にあるし、慎重になった方がいいと思う。


『……ふむ、一理あるか。なら、手早く済ませるぞ』


『う、うん』


 とにかく、辺りを調べてみよう。そう思って、辺りを見回してみる。

 先程のニクスの炎で、魔術装甲は結構剥がれてはいるが、それでも、まだ魔石を覆い尽くす程には残っている。

 魔力を感じ取ろうとして見れば、確かに液体からは魔力を感じ取れるし、これが魔術装甲っていうものなのは間違いなさそう。

 問題は、魔石の状態。

 液体の隙間から覗く魔石は、黒曜石のように黒く、きらめいている。

 魔石は一応見たことがあるけど、これほどきらめいてはいなかったから、恐らく、生きている魔石って感じなんだろう。

 魔物の体内にある状態の魔石は、独特のきらめきがあるのかもしれない。外に取り出してしまったら、それがなくなるってだけで。

 そう考えると、カロンさんの魔石はまだ生きてるってことになる。

 ただ、劣化が激しいようにも見える。

 ところどころに罅が入ったり、欠けたりしているのがわかる。

 これが、以前に人々によって割られた時の後遺症なのか、それともその後についたものなのかはわからないけど、今にも壊れてしまいそうな危うさがある。

 それこそ、魔術装甲がなければ、ちょっと外部の力が加わるだけでも、壊れてしまうかもしれない。

 ニクスが全力で炎を放ったら、まずかったかもしれないね。

 魔術装甲ごと、破壊してしまってもおかしくなかった。


『……これは酷いな』


『ニクスは何かわかった?』


『ああ。恐らくだが、この魔石は、何度か死んでいる』


『え?』


 一体どういうことだろうと思ったけど、文字通りの意味らしい。

 ここに来る前から、とっくに魔石の魔力は尽きているという考察をしていたが、こうして魔術装甲が着けられたことによってそれが加速し、魔石の魔力はなくなってしまった。

 魔石の魔力がなくなるということは、その魔物にとっての死と同じ。本来なら、カロンさんもそのまま死を迎えるはずだった。

 しかし、どういうわけか、この魔石は、すべての魔力を使い切った後も、徐々に大地から魔力を吸収し、復活を果たしているらしい。

 そして、その魔力を再び吸い取られ、なくなり、また吸収して復活するを繰り返しているようだ。

 確かに、魔石は魔力の塊だし、他の魔石を食らうことによって魔石の魔力を増強して大きくすることができるから、魔力を吸収してもおかしくはないが、おおよそ普通の魔物ができる芸当ではない。

 恐らくだけど、海の上を揺蕩い、ほとんど動かない生活をしていたと思われるカロンさんだからこそ、そう言った自己回復ができるのではないだろうか。

 意識が、分体の方にあるというのも関係しているのかもしれない。

 本来なら、魔力がなくなった瞬間に意識も途絶え、命を落とすはずだけど、どういうわけか分かれていて、それも分体の方は本体のことを確認できないようだから、全く別の命としてカウントされているのかもしれない。

 まあ、理屈はわからないけど、今、カロンさんの魔石は、何者かの手によって、無限に魔力を吸収することができる装置として利用されているわけだ。

 どうにかして、助けてあげたいところだけど、どうしたものだろうか。流石に、全力で攻撃したら、魔術装甲ごと魔石がぶっ壊れそうだし……。

 不気味に流れる液体を眺めながら、何かいい手はないものかと思案した。

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