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第百九十八話:探すべき目印

 拠点に戻ると、すでに二人は帰ってきていた。

 ニクスに関しては、心当たりがあるような話をしていたけど、何か見つかっただろうか?


『ただいま。何か見つかった?』


『お帰り。残念ながら、こちらは何にも』


『こちらも、予想していたようなものはなかった。いや、なさ過ぎたというべきか』


『どういうこと?』


 妙な言い回しに、少し首を傾げる。

 ニクスが言うには、カロンさんほどの巨体が陸に上がれば、それこそ地形が変わるほどの変化があってもおかしくない。

 例えば、通ってきた道には巨大な跡があるだろうし、ひれを動かしたのなら、周囲の地形がえぐり取られる可能性もある。

 分体がこの近くにある以上、本体もこの近くにあるのが道理だ。しかし、その痕跡が何一つないのである。


『それって、この近くには本体はないってこと?』


『その可能性もある。あるいは、何らかの方法で跡を残さずにここに連れてこられたか……』


『そんなことできる人いるの?』


『いないことはない。やるメリットもあまり感じられないが』


 俺としては、そんな巨大な体を持ちあげるだけでも無理だと思うんだけど、幻獣の中には、そう言う能力を持つ者もいるらしい。

 俺が知らないだけで、とんでもない力を持つ幻獣ってたくさんいるんだなぁ。


『そっちは何か見つからなかったのか?』


『特に何も。山っぽい地形はいくつかあったけどね』


 一応、蛇のような尻尾を基準に見てみたけど、それらしい場所はなかった。

 もちろん、見落としているだけで、実はあの中にありましたって言う可能性もなくはないけど、ちょっと微妙なところ。

 わずかでも、特徴的な魔力があれば探し出せるんだけどね。

 魔力って、魔物にとっては、匂いのようなもので、魔力の質で仲間と判断する個体もいる。幻獣ともなれば、それ相応の魔力は持っているはずなので、うまく感知できれば、見つけることもたやすい。

 今回は、カロンさんの本体は弱っているだろうから、あまり使えない方法らしいけどね。

 弱っていても、それっぽい魔力があれば話は別なんだけど。


『手掛かりがない以上は、しらみつぶしに探すしかないが、見逃しているのが一番面倒だな』


『そもそも、それっぽい地形を見つけたとして、どうやって判断すればいいの? 尻尾が特徴的って言うのはわかるけど、埋まってたりしたら見分ける術がないと思うんだけど』


 宝探しゲームじゃないから、必ずしも見つけられるようにできているわけではないのは重々承知だけど、それでも、何かこれだという判断材料は欲しい。

 魔力がダメ、身体的特徴がダメとなったら、あとはなにがあるんだろうか?


『確実なのは、頭を見つけることか。分体があるとは言っても、本体も生きているなら呼吸をしている。尻尾と違って、埋まっているということはないだろう』


『頭かぁ……』


 確かに、それは考えてなかった。

 亀なのだから、甲羅に籠っている可能性もあると思ったけど、呼吸をしている前提で考えるなら、そこには空気の通り道があるはず。

 尻尾と比べたら、確かに見つけられる可能性はあるかも。


『じゃあ、明日は頭を目印に探してみるよ』


『私も頑張ります!』


 方針も決まったところで、今日のところは休むことにする。

 さて、これでうまく見つかるといいのだけど。

 そんなことを考えながら、眠りにつくのだった。


 それからおよそ一週間ほど。あらゆる場所を探してみたが、これだと断定できる場所はなかった。

 ニクスの案を聞いた時は、割といい案だと思っていたんだけど、こうも見つからないと、少し疑いたくもなってくる。

 本当に頭が出ているんだろうか? 分体があるから、本体は呼吸していないという可能性もあるんじゃないだろうか?


『もう探してないと言ったら、この辺りくらいしかないけど……』


 俺は、以前訪れた、不気味な水晶が連なるエリアまでやってきた。

 この辺、何となく嫌な気配がするから、避けていた部分でもあるんだけど、これ以上捜索範囲を広げるとなると、ここくらいしか思いつかない。

 相変わらず、魔力は乱れているし、あまり長居したいとは思わない場所だけど、こんなところにあるんだろうか?


『うわ、ここ深いな……』


 しばらく飛んでいると、やがて深い谷が見えてくる。

 谷というか、大穴と言った方が正しいだろうか?

 周囲を高い尖った水晶に囲まれているせいか、余計に深く見える。

 穴の底は見えないくらい深く、不気味な暗闇は、まるでこちらを食い殺さんと狙っているようにも見えた。

 ここ、やたらと魔力が濃いな……。

 恐らく、周りの水晶は、魔力を吸って成長したんじゃないかと思う。

 水晶がそんなもので成長するのかと思わなくはないけど、ここは異世界だし、魔石は魔力によって成長することもあるから、なくはないだろう。

 魔力は、この穴から湧き出ているようにも見える。もしかしたら、この穴の底には、魔力溜まりみたいなものがあるのかもしれないね。


『……ん?』


 見つめていると、吸い込まれそうな気がする大穴を前に、さっさと通り抜けてしまおうと思ったけど、ふと思い至る。

 ニクスの話では、カロンさんは、人々によって背中を抉られ、魔石を奪い取られたという話だった。

 最期の言葉も、もう長くないと悟るようなセリフであり、そのことを考えると、背中の傷はなかなか癒えていなかっただろう。

 つまり、カロンさんの背中には、大きな穴が開いている可能性がある。

 この大穴が、その傷だったとしたら……?

 もちろん、人々の手で開けたにしてはデカすぎる穴だし、そもそもこんな水晶だらけの場所にあるのはおかしい気もするけど、可能性はなくはない。

 もしこの仮説が合っているなら、この近くに頭があるはず。


『ニーシャさん、頭探すの手伝ってくれますか?』


「このあたりってこと? 目視で探すのはあんまり慣れてないんだけど、まあ、了解です」


 ニーシャさんの力も借りて、辺りの捜索を開始する。

 本当なら、底冷えするような独特な寒さがあるこの場所には長居したくはないけど、可能性があるなら探さないわけにはいかない。

 大穴の外周を沿うように、探していると、しばらくして、それらしいものを発見した。


『これが、頭……?』


 そこにあったのは、巨大な水晶。

 巨大すぎて、見上げるほどに大きいけれど、その中をよく見てみると、何かが閉じ込められているように見える。

 ぱっと見で、これが頭かどうかはわからない。あまりに巨大すぎて、目や口などのパーツが判断できないから。

 でも、位置的に考えるなら、ここに頭があってもおかしくはない。

 水晶で覆われている以上、呼吸できているのかという問題はあるけど、可能性としては、十分すぎるだろう。


『……これは、一度報告が必要かな』


 とにかく、俺だけで判断するわけにもいかないし、ニクスやフェルにも話を聞いてみよう。

 俺は、場所を記憶しつつ、拠点に戻る。

 果たして、これは本当にカロンさんの本体なんだろうか。

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