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第百九十七話:知りたいこと

 やがて、奥地へと辿り着く。

 待ち構えていたカロンさんを見て、ニクスはわずかに目を見開いた後、ふっと息をついた。


『……久しぶりだな、カロン。まさか生きているとは思わなかったぞ』


『おお、よくおいでなすった。お主がルミエールが言っていたフェニックスか? うむうむ、確かに何となく見覚えがある気がする。久しいのぅ』


『貴様、記憶がないのか?』


『年のせいか、記憶が朧気でのぅ。しかし、わしの長話に付き合ってくれたフェニックスはお主のはずじゃ、間違いない』


『……』


 何となく嬉しそうなカロンさんに対し、ニクスは少し複雑そうな表情でカロンさんのことを見つめている。

 忘れられたことがショックだったのかな?

 まあ、数百年以上経っているんだから仕方ないと言えば仕方ないと思うけど。

 むしろ、ニクスが記憶力が良すぎな気がする。カロンさんのことも、しっかり覚えていたようだし。


『……色々言いたいことはあるが、まずは貴様のその体だ。分体を作り出す術など、どこで習った?』


『うむ? さあ、よく覚えておらんの。どこかで習ったのか、それとも自力で獲得したのか、記憶が定かでない』


『なら背中の傷は? あの状態では、到底癒しきれぬものだったはず。こうして生きているだけでも、奇跡のようなものだぞ』


『すまんのぅ、わからんのじゃ。本体に戻れれば、もしかしたら記憶が蘇るかもしれんが……』


『……そうか』


 ニクスは、若干前のめりになった体を戻し、深呼吸する。

 一度目を閉じた後、再び開けると、いつもの調子に戻っていた。


『貴様は、本体の場所がわからんから探してくれと依頼したようだな』


『依頼と言っても、ちょっとしたお願いのような物じゃがな。何かのついでに探してくれるだけでいい。もし見つからなくても、なにも文句は言わんよ』


『こいつらは、我が修行をさせている最中でな、余計な雑事に首を突っ込まれては面倒なのだ。特に、そこの小娘は幻獣になったばかりの新参者、色々と未熟なことが多く、学ぶ時間は黄金より価値が高い』


『おお、そうじゃったか。なら、わしのことは捨て置いて構わんよ。久しぶりに話せたから、痛みもだいぶ和らいだ。また落ち着いた時にでも、顔を出してくれたら嬉しいぞ』


『……やはり変わらんな』


 そう言って、ニクスはふっと笑う。

 この調子だと、協力を申し出るどころか、撤退させられそうなんだけど、大丈夫かな。


『雑事にかまけている時間はないが、貴様のことを放っておくのもしのびない。どこにあるかもわからぬ本体を探すのは、野生において獲物を見つける訓練にもなるだろう。であれば、協力してやるのも吝かではない』


『おお? いいのか?』


『貴様には色々と聞きたいことがある。それを明らかにするためにも、貴様には記憶を取り戻してもらわねばならん。本体に戻ることで記憶が戻るのなら、少しは手を貸したくなるというもの』


『お主もなかなかにお人好しじゃのぅ。こちらとしてはありがたいが、無理はせんようにな』


『安心しろ、我はこいつに比べたら冷徹と言われる方だ』


 その後も、しばらく話し、洞窟を後にする。

 なんだかんだ、ニクスも協力してくれるのは嬉しいけど、なんだか妙なことも言っていた。

 ニクスの言っていた、聞きたいことって何だろう?


『というわけだ。不本意ではあるが、我も捜索に協力してやろう』


『それは嬉しいけど、何か聞きたいことがあったの?』


『大したことではない。ただの胸騒ぎのようなものだ』


 ニクスとしては、色々と気になることがあるらしい。

 あの姿にしても、元々は持っていなかった能力だということらしいし、記憶がないのも、年のせいという理由はあるにしてもちょっとピンポイントで忘れている気もする。

 本体に戻ることで、本当に記憶が蘇るかは知らないけど、少しでも可能性があるなら、試す価値はあるだろう。

 確かに、俺もどうやって生き永らえたのかは気になるしね。


『それじゃあ、さっそく探しに行こう。手分けすればいいかな?』


『それでいい。あの時のままだとするなら、奴の魔力はかなり減っているはず。魔力による感知はあまり当てにしない方がいいだろう。見るべきは、やはり地形か』


『やっぱり、山のようになっている地形を探すべき?』


『だろうな。海の方角を考えると、あっちの方角が怪しいが』


 そう言って、一方を見つめるニクス。

 まあ、心当たりがあるなら、そちらを探ってもらえばいいだろう。

 俺とフェルは、引き続き辺りを捜索し、それっぽい場所がないかを確認する。

 さて、うまく見つかるといいのだけど。


『夕方になったら拠点で落ち合おう。ぬかるなよ』


『わかってるよ』


 それぞれ、別々の方角に飛んでいき、俺一人になる。

 さて、今日はどこを探しに行こうか。あの山は見てみたけど、多分違うと思うんだよね。

 地形を見ろと言っていたけど、普通に考えて、島と見まがうほどの大きさの山なんて、見てわかるものじゃない気がする。

 わかるとしたら、相当離れないといけないかな。

 とりあえず、あの山までは探したから、そこからさらに探索範囲を伸ばしてみることにする。


『この辺りにも、結構山があるのかな?』


 山の頂上から見てみると、辺りには山のように盛り上がっている丘や、遠くの方には大きな山脈も見える。

 地形だけで考えるなら、いずれも可能性はありそうだけど、ただ見てみただけじゃわからないよねぇ。

 ヒントになるとしたら、尻尾の形。

 特徴的な蛇のような尻尾は、もし露出してればすぐにわかるはず。

 まあ、埋まってしまっているとなったらどうしようもないけど、魔力で感知できない以上、特徴を頼りに探すほかない。

 まずは、それらしい場所がないか、確認するところから始めるべきだろう。

 俺は、翼を広げて見える範囲の候補を見回してく。

 蛇のような尻尾、蛇のような尻尾……うーん、なかなか見当たらない。


『なんか、変なところに迷い込んじゃったなぁ……』


 しばらく夢中で探していたけど、途中から、妙な場所に来てしまった。

 辺りには、水晶のような、結晶質の岩が点在しており、まるで巨大な剣山のようである。

 色も、透明ではなく、少し泡の入ったようなオレンジや紫と言った色が多い。

 これが宝石だったら、かなりのお宝な気がするけど、不思議と俺のお宝センサーには刺さらなかった。

 いつもなら、綺麗な石とかには惹かれるんだけど、何か違うんだろうか?

 まあ、確かに、泡が入ったような模様があるせいか、若干汚く見えるけども。

 魔力も少し乱れているようだし、もしかしたら、何かしらの戦いがあった場所なのかもしれない。

 そろそろ日没だし、気味の悪い場所だから、さっさと退散することにしよう。

 俺は、水晶地帯を背に、拠点へと帰還する。

 カロンさんの本体、本当にどこにあるんだろうか。

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