第百九十六話:ニクスの協力
まず、考えたのは、ニクスとその亀の幻獣の関係性だ。
聞いた限りでは、ちょっと会った程度の関係のようにも思えたけど、それにしては、最期の姿を目撃しているというのもあって、少しおかしい気もする。
確かに、ニクスは人に対しては冷徹な一面を持つが、同族である幻獣に対しては、寛容なことが多い。
特に、カーバンクルの森にいたルーナさんなんかは、直接助けたこともあるようだし、ただ単に最期の姿を見た、で終わったとは思えない。
実は、その後に何があったのかを知っているんじゃないだろうか?
『我がそれが最期の姿だと思ったのは、本人の口から、もう長くないと聞いたからだ。そして、もう一人にして欲しいとも言っていた。だから、我はその瞬間から、関係性を断ったのだ』
『そんなあっさり手を引いたの?』
『いくら幻獣が神の遣いだったとはいえ、死に分かれることなどいくらでもある。奴が自分の死期を悟り、なおかつ一人にして欲しいと願うのなら、我がそれ以上何かしてやれることはない。復讐すべき相手も、すでに全滅していたしな』
確かに、それが最期の言葉だと受け取ったなら、身を引くのも間違ってはいないのかな。
ちょっと薄情な気がするけど、一人にして欲しいと言っている相手に、べたべたと世話を焼くのも少し違う気がするし、ニクスを責める理由にはならない。
しかし、そうなると、本当に死にかけていたんだな。
自分でも、もう長くないと言っていたってことは、傷は致命的だったはず。そこから生き残ることなんてあるだろうか?
『なら、もし生きていたら、会いたいとは思わないの?』
『気持ちがないわけではない。再び会いたいと請われるなら、会いもするだろう。だが、自ら探しに行こうとは思わない。奴の生きざまを、我の手で汚したくはないからな』
『そっか……』
ただ単に、薄情な気持ちで会いたくないわけではないと。
となると、カロンさんの方に確認を取って、もしニクスと会いたいという言葉を引き出せれば、会ってくれるってことかな?
そうなると、まず落とすべきはカロンさんか。
『じゃあ、あっちに確認を取って、もしニクスのことを知っていて、会いたいと言ってくれたら、会ってくれる?』
『本当に奴だったなら、考えておいてやろう』
『よし、言質取ったからね』
さて、そうと決まれば早く確認に行かなくては。
と言っても、今日はもう遅い。行くなら明日がいいだろう。
俺は、晩御飯の後片付けをした後、早々に眠りにつく。
ニクスは、呆れたようにジト目を向けていたけど、ニクスの手が借りられるかもしれないというのなら、やる価値は十分にある。
早く明日にならないかなと思いつつ、目を閉じるのだった。
翌日。少し早い時間に起きてしまったが、さっそく向かうことにする。
同じ考えだったのか、フェルも起きていたので、二人で洞窟に向かうと、ゴブリン達に迎え入れられた。
さて、カロンさんは起きているかな?
『おお、お前さん達、こんな朝早くにどうした?』
『おはようございます、カロンさん。ちょっと、聞きたいことがありまして』
『探し物の件じゃろうか? 生憎と思い出せることは少なくてのぉ』
『いえ、それではなくてですね……』
俺は、さっそくニクスについて話す。
ニクスは、世にも珍しいフェニックス。もし会っているなら、絶対に忘れることはないだろう。
仮に、カロンさんが幻獣ではなかったとしても、ニクスに会っていて、会いたいという気持ちがあるなら、条件は満たすし。
せこいって? ニクスは色々と頼りになるから、味方に引き込めるなら全力で引き込みに行くさ。
まあ、あんまりやると怒られそうだから、引き際は見極めないといけないかもしれないけど。
『ふむ、ニクスというフェニックスか。名前はわからんが、フェニックスになら、会ったことはあるぞ』
『ほんとですか!?』
『あれはいつじゃったか……少なくとも、数百年以上も前の話じゃ』
そう言って、カロンさんは当時のことを語りだす。
その時、カロンさんはまだ海の上にいた。
海流に身を任せながら、のんびりと海を漂うだけの生活。
彩もなかったが、気が長いカロンさんは、それを幸せと感じていたようだ。
そんな時、フェニックスがやってきた。
最初は、少し挨拶する程度の関係だったが、海の上では休む場所が少なく、休憩所として重宝すると言って、しばらく通い詰めていたらしい。
娯楽も何もない生活は、さして苦というわけではなかったが、フェニックスとの会話は楽しく、いつしか、やってくるのを楽しみにするようにさえなったという。
『あの頃は楽しかったのぅ。こんな年寄りの話を聞いてくれるだけでも、ありがたいことじゃった』
『その後はどうなったんですか?』
『それが、途中から記憶が飛んでおっての。そのあたりからここに来るまでの間の記憶が思い出せんのじゃ』
『そうですか……』
ニクスの話では、背中で暮らしていた人々に背中を抉られ、魔石を奪い取られたという話だったけど、そのあたりの記憶がないってことなんだろうか?
まだ確定というわけではないけど、海の上にいて、フェニックスと話していたというだけでも、確証に近いものはあるだろう。
カロンさんは、ニクスの言っていた、亀の幻獣で間違いない。
『カロンさんは、もう一回そのフェニックスと会いたいですか?』
『そうじゃのぅ、もしまだ生きているなら、会ってみたいのぅ』
『その言葉が聞きたかった』
よし、これでニクスを呼び出す口実はできた。
ふふふ、ここまで来たらニクスにも協力してもらって、カロンさんの本体を見つけ出してやろう。
俺は、一度確認に戻ると言い、拠点へと帰る。
行く時は寝ていた様子のニクスも、すでに起きているようで、毛づくろいをしていた。
『ニクス、確認したらニクスのこと知ってたし、会いたいって言ってたよ』
『はぁ、貴様のその情熱はどこから来るのだ?』
『さあ、本能のままに生きてるけど』
『まあ、貴様の本質を考えれば、わからなくはないが……』
なんだかもごもごと言っていたけど、あちらから会いたいと言われたら行くという約束がある手前、ニクスも覚悟を決めたようだ。
ニクスを伴って、再びとんぼ返りする。
ゴブリン達は、ドラゴンに続いてフェニックスまで現れて、慌てふためいていたけど、仲間だと知らせると、すぐにいつもの調子に戻った。
確かに、ドラゴンとフェニックスって、種族名だけ聞くとものすごく強そうに聞こえるよね。
実際、ニクスはめちゃくちゃ強いし、ここにいるゴブリン達くらいだったら、瞬殺できそうだけど。
『はぁ、まさかこんな形で出会うことになるとはな』
『昔の知り合いに会えるんだから、いいじゃない』
『知り合いだからと誰でも彼でも会いたいものではない。敵対していたとしても、知り合いと言えるぞ?』
『ニクスは幻獣とはそうそう敵対しないでしょ』
まあ、口調から、敵対しているように取られる可能性はあるけど、ニクスの方から直接手を上げることはあまりないんじゃないかな。
これは、俺に対してもそうだし、フェルに対してもそう。
いや、フェルに関しては、途中から幻獣になったから、ちょっと事情が違うけど、今まで会ってきた幻獣達の様子を見ても、ニクスは大抵友好的な関係を築いている。
敵対しているとしたら、相手は相当な極悪人だろうな。
『……まあいい。ここまで来たなら、さっさと会って帰るぞ』
『こっちこっち』
ゴブリンの案内の元、再びカロンさんが待つ奥地へ行く。
さて、どんな反応をするかな?




