表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
210/276

第百九十三話:亀の主

 翌日。俺は早速、その主とやらに会いに行くことにした。

 ニクスは機嫌が悪く、特に会話することもなかったけど、止めることもなかったところを見るに、どちらでもいいと思っているのかもしれない。

 まあ、仮にその主がフェルのことを騙していて、襲い掛かってくるようなことがあったとしても、多分大丈夫だとは思う。

 いざとなれば、魔法で応戦することもできるし、最終手段のブレスもある。

 ユグドラシルでの修行で培った強さは今も生きているからね。そうそう遅れをとることはないだろう。


『で、どこにあるの?』


『こっちだよ』


 フェルの案内の元、森の中を進んでいく。

 森には雪が降り積もっており、歩くとサクサクと雪が沈み込んでいく。

 この感覚も懐かしいなと思いつつ進んでいくと、しばらくして洞窟が現れた。

 確かに、人工的に掘られたもののようで、入り口には支えしていたと思われる柱の残骸が転がっている。

 なんか、大きな衝撃を与えたら崩れそうな雰囲気ではあるけど、まあ、多分大丈夫だろう。


『ギギ、フェル、来た』


『待ってた、待ってた』


 入り口に差し掛かると、洞窟の中からぞろぞろとゴブリン達が出てくる。

 いずれも、汚れた服を着て、手には錆びた剣やこん棒などの武器を持っている。

 なんか、ゴブリンにしてはちょっと上等な装備な気がする。

 普通のゴブリンは、もっとぼろぼろの服だし、武器に関しても、木切れとかを持っていることも多い。

 武器を持っているというだけでも、それなりに知能が高いのがわかる。


『フェル、そいつ、誰?』


『この子はルミエール。私の、そ、その、伴侶だよ』


『よろしく』


 改めて伴侶という言葉を聞くと、なんだか恥ずかしいな……。

 まあ、ユグドラシルで幻獣の試練を受けたあの時から、いや、もっと前からフェルのことは大切な存在だと思っているし、そう言われるのは悪くない。

 俺も、それが当然といった態度で返事をする。


『ギギ、よろしく』


『ルミ、主、助けられる?』


『それは見て見ないとわからないかなぁ』


 一応、治癒魔法は使えるよと、軽くゴブリン達の傷を治して見せる。

 魔物の中で、傷を負っていない者はかなり少ないからね。

 まあ、傷は今までの経験の証という意味もあるから、安易に治したのはよくなかったかもしれないけど、ゴブリン達は嬉しそうだった。


『これなら治せるかもしれないし、主のところに案内してくれる?』


『わかった、わかった、ついてこい』


 そう言って、洞窟の中へと戻っていく。

 この洞窟、かなり広くて、本来の姿のフェルですら余裕で通れる広さがある。

 人が作ったにしてはやけに広いけど、一体何のための洞窟なんだろうか。

 鉱山っぽいと言えばそうだけど、その割には道具が見当たらないし。

 全部風化しちゃったのかな? まあ、気にすることではないかもしれないけど。


『こっち、こっち』


 案内されるがまま、洞窟の中を進んでいく。

 途中、若干狭いところもあったけど、特に引っかかることもなく進んでいき、やがて、行き止まりに出た。

 そこには、一匹の亀がいる。

 いや、これを亀と言っていいのか?

 確かに、背中には立派な甲羅を持っているし、容姿も亀っぽい。

 ただ、普通の亀と違って、二足歩行である。

 片手に杖を持ち、妙に人間臭い表情見せるその亀は、フェルと俺の姿を見て、にこりと笑った。


『ほっほっほ、また来てくれたんじゃな』


『うん。まだ背中は痛い?』


『うむ。こればかりは、仕方のないことじゃが、最近はあまりに痛みが酷くての。誰かに縋りたい気分だったんじゃよ』


 そう言って、片手を背中に回す亀。

 全然届いていないのは置いておいて、これ、なんの魔物だ?

 宝石亀、ではないのは確かだろう。甲羅も普通の甲羅だし。

 特徴があるとすれば、尻尾だろうか?

 なにやら細長く、その先端には口らしきものがついている。

 遠くから見れば、蛇か何かに見えるかもしれないけど、それが尻尾のように生えているのである。

 尻尾が蛇の亀? ますますわからない。


『それにしても、ここにきてドラゴンを連れてくるとは。おぬしの協力者というのは、随分と珍しい種族なのじゃな』


『協力者って言うのは別にいるんですけど……この子はルミエール。私の伴侶です』


『おお、番じゃったか。ならば、わしも改めて自己紹介をしようかの』


 そう言って、こほんと咳払いを一つした後、名乗りを上げた。


『わしはカロン。元は、遥か東に住んでおったが、わけあってここに移住してきた爺じゃよ』


 亀改め、カロンさんは、そう言って頭を下げる。

 名前持ちじゃないかとは思っていたけど、本当に持っていたか。

 見た目はそんなに強そうには見えないけど、魔力的なことを言うなら、かなりのものを持っている。

 年を経て、蓄積してきたものもあるかもしれないけど、ゴブリン達を束ねる器であるのは間違いないようだ。


『フェルが紹介してくれましたけど、俺はルミエールです。背中が痛いって聞いたんですけど、何か怪我でもされたんですか?』


『うむ。怪我、のようなものではあるかの。いや、どちらかというと呪いか? わしにもよくわかっとらんが、背中にできものができたように、痛みが溜まっていっての』


 カロンさんが言うには、この地に移住してきた時から、そう言う痛みはあったらしい。

 ただ、その時はそこまで痛みは激しくなかったらしく、これも定めと受け入れていたようだった。

 しかし、最近になって、痛みが増してきて、耐えられなくなることも多くなってきた。

 だからこそ、ゴブリン達を通じて、助けを求めたのだという。


『背中、見せてもらってもいいですか?』


『見るのはいいが、この体の背中を見たとて意味はないじゃろう。この姿は、仮の姿のようなものじゃからな』


『え、そうなんですか?』


 初耳だと言わんばかりに、フェルが声を上げる。

 仮の姿か。つまり、この姿は何らかの魔法や能力によって作られたもので、本体は別の場所にあると?

 確かに、それなら傷がないのは納得できるかもしれない。

 そもそも、そんなことができるだけでも凄いことだけど、世界は広いし、そう言った魔物がいても不思議はない。

 しかし、となると、治すためには本体を見る必要があるわけだけど。


『本体はどこに?』


『それが思い出せなくてなぁ』


『思い出せない?』


 どうやら、カロンさんの本来の姿はとてつもなく大きいらしく、基本的には動かずにじっとしていることが多いらしい。

 そのせいか、甲羅の上にいつの間にか自然が生成されることも多いらしくて、そのせいで、本体の場所を見つけることができないんだとか。

 いや、これが仮の姿なら、本体に操作権を移して動かせばいいじゃんと思うけど、どうやらそれもできなくなっているらしく、ただ痛みだけが伝わってくるから、どうしたものかと悩んでいるらしい。

 自分の体なのに、どこにあるかわからないって、ちょっと怖いね。


『この近くにあるのは間違いないんじゃが、断定はできん。もしよければ、探してくれると嬉しいのじゃが』


『なるほど、それなら、探してみましょうか』


 なんだか妙なことになってきたけど、乗り掛かった舟である。

 さて、カロンさんの本体はどこにあるだろうか。

 まずは特徴を知らなければと、質問をするのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ