第二十話:希望の光
あー痛かった。
実質的なダメージはあまりないけれど、鱗の防御を抜いてくる人がいたせいで、気分的にはリンチに遭った気分だ。
ドラゴンが人間にリンチされるとかおかしくない? いや、ドラゴン同士でもおかしいけども。
一応自分に治癒魔法をかけて、細かい傷を癒しておく。
これくらいだったら自然と鱗が生え変わって治るとは思うけど、地味に痛かったからね。
治癒魔法のおかげで痛みは取れた。便利だよね、治癒魔法って。
さて、これからどうしようか。
文字を書いて意思疎通を図ろう大作戦は大失敗に終わったわけだけども、何も絶望する必要はない。言葉は通じずとも心が通じそうな相手がいたからね。
あの女の子。名前はわからないけど、あの子だけは俺のことを攻撃しないでいてくれた。
治癒魔法をかけてあげたのが効いているのかもしれない。あの子だったら、もしかしたら意思疎通ができるかもしれない。
ただ、問題はどうやってあの子に会うかだよね。
町に行けば会えるだろうけど、俺が町に行ったら大騒ぎになってしまう。隠密状態でこっそり近づいて、人気のないところに運ぶというのは、なんか誘拐みたいでいやだしなぁ。それで怖がられてしまったら元も子もないし。
できれば向こうから会いに来てくれるのが理想だけど、そううまくいくとは思えない。
そもそも、向こうには俺に会いに来る理由がないしね。
俺のことを変わったドラゴン程度には見てくれているかもしれないけど、所詮はその程度だろう。わざわざリスクを負ってまで会いに来るわけがない。
文字で伝えるにしてもなぁ、そもそも伝わるかどうかわからないし、どうやって見せるんだって言う問題もある。
今回みたいに森に来てくれるとかしない限り無理だ。街中じゃ書けないし。
うーん、この届きそうで届かないこの感覚。とてももどかしい。
それに、それ以外にも考えなければならないこともある。
あの冒険者達、明らかに俺を殺そうとしてきた感じだったよね。しかも遭遇戦とかじゃなくて、しっかりと準備をした上で。
まあ、ドラゴンは問答無用でギルティな世界観みたいだし、当然と言えば当然だけど。
あれが俺のために組まれた討伐隊なのだとすると、今後町に近づけば出張ってくる可能性が高い。そうでなくても、俺を討伐するために森に分け入ってくるかもしれない。
俺の住処は崖にある洞穴だし、そもそも町から相当離れているからそう簡単には見つからないだろうけど、絶対とは言いきれない。
住処まで見つけられて、押し入られた日には、おちおち寝てもいられないだろうし、あそこはニクスの住処でもあるから、侵略されるのはとても困る。
憂いをなくすなら殺すか……いやいやダメだろ。そんなことしたら。人間と仲良くなるなんて夢のまた夢になる。そもそも、あの討伐隊を殺したところで新たに組まれるのがおちだ。意味がない。
安全を買うならこれ以降はもう町に近づかず、森の奥で静かに暮らしていくということだけど、それだと人間と仲良くなるという目標が果たせなくなる。
人間と仲良くなりつつ、討伐隊をどうにかする……普通に無理じゃね?
なんで殺そうとしてくる相手と仲良くなれるのか。
まあ、殺そうとしてくる相手と仲良くなろうとしてる相手が違うのが救いか。
出来ることならいろんな人と仲良くなりたいんだけどね。初めから殺そうとしてくるならしょうがない。
さて、ひとまず住処に戻ろうかな。
ニクスにあんなこと言われた手前、すごすごと逃げ帰るようでちょっと居心地悪いけど、遺体を返還した以上、あの場に留まる必要ももうない。
久しぶりの我が家で羽を伸ばすとしよう。
『帰ったか。その様子だと失敗したようだな』
住処ではニクスがいつも通り鎮座していた。
俺の顔色を見ただけで結果がわかるらしい。そんなに顔に出やすいかなぁ、俺。
『まあ、はい。速攻で襲われました』
『だろうな。人間がドラゴンに歩み寄ろうとするはずもない』
ニクスはあまり人間に対していい感情は持っていないようだった。
そりゃあ、魔物からしたら人間なんて天敵みたいなものだけど、ニクスはどちらかというと、人間の本質が気に入らないような感じがする。
ただ敵対しているからというわけではなく、人間の狡猾さや貪欲さが嫌なんだと思う。
でも、あんまり関わってない割には詳しいよね。これも世界を見て回ってつけた知識なのだろうか?
『でも、きっかけは掴めたと思うよ』
『ほう、そんな稀有な人間がいたと?』
『多分。ニクスが言うような感情は持ってないと思う』
まあ、会う手段がないんだけどね。
また討伐隊の一部としてくる可能性はあるけど、それだとまた戦闘になってしまうし、意思疎通を図るなんて無理だ。
理想は一対一で落ち着いた場所で話せることなんだけど、ドラゴンがいるような危険な森に冒険者が一人で来るとかないよねぇ。
『ニクス、自然と二人きりになれるような方法ないかな』
『ふむ。まあ、ないこともないが……』
『え、ほんと!?』
ほとんどダメ元で聞いたんだけど、まさかの脈あり?
思わず飛びついた俺をニクスが翼でやんわりと押し返す。
ニクスの翼は炎みたいだけど、別に熱くはないんだよね。不思議。
『だが、本当にそいつは信用できるのか? 貴様の勘違いではないのか?』
『絶対とは言いきれないけど……興味は持ってくれてるんじゃないかなと思うよ』
あの少女の目から読み取れたのは、未知への好奇心だった。
俺が何なのかはわからないけど、だからこそ知りたいみたいな。
まあ、俺はそんな鋭いタイプじゃないから、勘違いかと言われたらそうかもしれないんだけど、少なくとも敵意は持ってなかったように思う。
始めから敵意をもって接してくる相手と敵意を持ってない相手だったら後者の方が交流はしやすいだろう。
『……いいだろう。なら後日、機会を作る。ただし、そいつが貴様に敵意を向けたり、討伐隊を扇動するようなことがあれば、容赦なく焼き尽くすからな』
『ありがとう! ニクス大好き!』
思わず抱き着いた俺をニクスは迷惑そうにしながらも振りほどくことはなかった。
やっぱりニクスは頼りになる。いくつかは知らないけど、本当に親のような存在だ。
『ならば貴様は食事をとれ。この数日間、何も食べていないのだろう?』
『あ、そうだね』
初日は熊を食べたけど、それ以降はずっと見張りをしていたから、狩りにも出ていなかった。
数日間断食したのにお腹があんまりすいてないのはちょっとびっくりだけど、食べられる時に食べないと後々困るだろうからね。食事はしっかりとりましょう。
『人間どもの醜い争いに巻き込まれて疲れただろう。今日は我がとってきてやる』
『え、いいの?』
『我もちょうど小腹がすいてきたのでな。貴様は休んでいるといい』
そう言ってニクスは住処から飛び去って行った。
ニクスはかなり小食で、いつも俺が狩ってきた獲物を少し摘まむだけで満足しちゃうんだけど、よく持つよね。
それにしても、ニクスの狩りか。一体どんな風なんだろう?
なんか一瞬で相手を消し炭にしそうな勢いがあるんだけど。
気にはなるけど、休めって言われたんだし休んでおかないと怒られそう。
俺は奥に置いてある殻を見ながら丸くなる。
すっかり入れなくなってしまったけど、こうして近くにあるだけでも落ち着くのだ。
少し休むだけのつもりだったのだが、妙に眠い。少しくらい寝てもいいかな。
そう考えている間にも瞼は落ちていく。
俺はニクスの帰りを想いながら静かに眠りについた。




