第百九十二話:見つけてきたもの
それからしばらくして、フェルが帰ってきた。
すでに辺りはすっかり暗くなり、見通しも悪かったけど、フェルは火の玉を自分の周りに出現させて、明かりにしていたようだ。
まあ、フェルの適性は火と風だし、火の玉を出現させるくらいは訳ないか。
『お帰り』
『ただいま。遅くなってごめんね』
正確な時刻はわからないけど、少なくとも日没は過ぎていると思う。
よっぽど住処が見つからなかったんだろうか。それとも、夢中になりすぎて時間を忘れていたんだろうか。
今のフェルなら、後れを取ることはそうそうないとは思うけど、ちょっと心配にはなるよね。
『小娘、住処は見つかったか?』
『いえ、それが、見つけたは見つけたんですが……』
そう言って、少し言いよどむ。
ニクスが怪訝な顔をしながら聞き出すと、フェルは少しずつ話し始めた。
まず、フェルは、ニクスの言いつけ通り、条件に合う住処を探していたらしい。
最初は、空から探していたけれど、下はほとんど森の木々で隠れてしまっていて、これではこっちの方が効率が悪いと悟り、地上に降りて探し始めたのだとか。
地上には魔物の反応もほとんどなく、探すこと自体は特に苦労せず、しばらくして、それっぽい場所を見つけた。
恐らくだが、そこは鉱山か何かの跡地のようで、人工的に掘られたと思われる洞窟があり、割と広かったことから、ここは条件を満たすと考えた。
ただ、そこには運悪く先客がいて、侵入してきたフェルに対して、威嚇を行ってきたらしい。
フェルも、流石に先客がいるのに横取りするのは違うと思い、退散しようと思ったのだが、フェルに攻撃の意思がないと悟った相手は、とあることを持ちかけてきたようだ。
『とあることって?』
『主を助けてほしい、って感じだったよ』
どうやら、その魔物達は、元々この鉱山跡地っぽいところに住んでいた魔物に、住まわせてもらっている形なんだという。
条件としては、食料の調達や、侵入者の排除などを行うといったもので、その魔物達も、行く当てもないことから、その条件を受け入れたようだった。
ただ、ここ最近、主の体調が思わしくないらしく、どうにか薬草を煎じて飲ませようにも、そう言った知識はあまりない。
だから、パッと見高位の魔物っぽくて、話の通じるフェルに、助けを求めたんだとか。
『小娘、まさかとは思うが、その主とやらを助けようとしたのか?』
『は、はい。もし助けてくれたら、一緒に住んでもいいように交渉してくれると言ってくれたので、住処を得るならいいかなと』
『また面倒そうなものに手を出しおって……』
ニクスはため息をつきながら、ジト目でフェルの方を見ている。
しかし、魔物が共生するとは、珍しい。
確かに、一部の魔物は、そう言う持ちつ持たれつみたいな関係を築くこともあるけど、話を聞く限り、その主って魔物は、全く知らない魔物を迎え入れたってことだよね。
そもそも、初手で会話を仕掛けようという魔物自体少ないし、もしかしたら、名前持ちの魔物なのかもしれない。
ちょっと気になるね。
『ちなみに、その魔物ってどんな姿だったの?』
『えっと、迎え入れてくれたのは、緑色の体色をして、耳のとんがった人型の魔物で、主の方は、亀っぽい魔物だったかな』
『緑の方はゴブリンだろうな。どこにでもいる奴らだが、きちんと会話できるとなると、上位の個体も混ざっているのかもしれんな』
『主の方は?』
『わからん。エメラルドタートルを始めとした宝石亀なんかが主な亀の魔物だが、ゴブリン共の主となる器か?』
宝石亀は、その希少性から人々から乱獲されており、滅多に人前には姿を現さないらしい。
まあ、場所が場所だし、可能性はあるけど、だとしても、危険を冒してまで他種族を迎え入れるようなことはしないだろうとのこと。
ゴブリン達が従っているところを見ると、それなりに強い魔物だろうし、強さ的にはそこまででもない宝石亀だとは考えにくい。
『まあ、いい。それで、助けてやったのか?』
『それが、体を見てみても傷らしい傷はなくて……。その人が言うには、背中が痛むって言うんですけど、見ても全然わかりませんでした』
『甲羅の中が痛いってこと?』
『もしかしたらそうかも。私も、治癒魔法とかが使えるわけじゃないし、薬草もなかったから、ひとまず何か手段を探してみるってことでいったん帰ってきたんだけど、どうにかできないかな?』
『うーん……』
亀の甲羅の中に傷があるとしたら、普通の方法じゃ治すのは難しいだろうけど、俺の治癒魔法なら、多分治せると思う。
あれは、加減ができない代わりに、すべての傷を治すものだからね。
問題なのは、普通、甲羅の中に傷がつくかという話。
某ゲームの亀みたいに、甲羅が脱げるとかでもない限り、普通は甲羅の中に傷がつくことはないはず。
ちょっと気になるところではあるね。
『おい、まさか助けに行こうなどという気じゃないだろうな?』
『え? そのつもりだけど』
『やめておけ。そいつを助けたところで見返りが少なすぎる。仮にそこを住処とできたとしても、いいように使われるだけだろう』
ニクスとしては、助けた暁には一緒に住めるように交渉してくれるというのも、信用していないらしい。
仮に一緒に住めたとしても、それはもしまた問題が起こったら、頼ろうとしているという証拠であり、その時には見返りすらなくなる可能性もある。
余裕があるなら、他者を助けることも悪くはないが、それは一時のものでなくてはならず、優しさに付け込まれて利用されることなど、あってはならないとのこと。
まあ確かに、話が通じるとは言っても、ゴブリン達が攻撃してこない保障はないわけだし、真に安全な住処というわけではないのかもしれない。
一応、複数で固まって住むというのは、安全面を考えるといいことではあるんだけど、それは信頼の上で成り立つものである。
先程会ったばかりの魔物の言い分を信じるには、確かに時間が短すぎるかもしれない。
『でも、このまま放っておくのも……』
『目的をはき違えるな。よく考えてみろ、そいつらが仮に野垂れ死んだところで、こちらに何の不都合がある? むしろ、全滅してから住処を奪った方が効率的まである』
『ニクス、流石にそれは……』
『野生では、最終的に信じられるのは自分だけだ。他者と共生するというのは、弱者が身を守るためにするか、圧倒的強者が戯れにすること。そうでなくても、貴様は後に白竜のと暮らすのだろう? その時に、邪魔者がいては不都合ではないか?』
『それは、確かに……』
確かに、今後のことを考えると、見知らぬ他人がいるのは都合が悪いのかもしれない。
とはいえ、今回の探している住処は、あくまで仮拠点。今後も使うとは限らないし、都合が悪いのなら、捨ててしまっても問題ない場所である。
であるなら、助けても問題ないんじゃないかと思うけどね。
『様子を見るだけでも行っちゃダメ?』
『そんなに行きたいなら勝手にしろ。だが、我はどうなっても知らんからな』
そう言って、プイッと顔をそらすニクス。
ニクスの意見もわからないことはないけど、俺もその主というのは気になるし、様子を見るだけでも行ってみる価値はあるんじゃないかな。
とはいえ、今日はもう遅い。行くとしたら、明日になるだろう。
さて、どんな相手だろうか。
そんなことを考えながら、食事の準備を始めるのだった。
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