幕間:学ぶべきこと
主人公のパートナー、フェルミリアの視点です。
幻獣の姿には、だいぶ慣れてきた。
当初は、邪魔が入って体を奪われかけたり、人化することができず、冥界までわざわざ降りることになったりと、困難も多くあったが、ニクスさんやルミエールの協力のおかげもあって、使い方も把握してきた。
まあ、人化に関しては、まだちょっと安定していないところもあるけれど、頑張れば元の姿を維持することもできるし、多くの問題は解決したと言っていいだろう。
だからこそ、今の問題は、野生での生き方を知ることである。
『遅いぞ。指定時間を二分も過ぎている』
『す、すいません……』
元々は、人化の練習をするために、少し変わり者が多い町へとやってきた。
元々、ある程度意識すれば元の姿を維持することはできたが、気を抜くとすぐにルミエールと同じような子供の容姿になってしまうので、そこを安定させるのはなかなかに難しい。
しかし、日々人化を維持しているおかげもあって、だんだんと慣れてきて、元の姿でも苦にならないようになってきた。
これならば、どこかの町でルミエールと一緒に暮らすことも夢ではないだろう。
最も、ニクスさんは、町で暮らす気はあまりないようだけどね。
だからこそ、野生の生き方を学ぶべきなのだが、これが意外と難しい。
食料の確保、寝床の確保、傷の癒し方、不測の事態に陥った時の対処など、学ぶべきことは多い。
食料の確保、言うなれば狩りだが、それ一つとっても、なかなか上手にできないのである。
いや、これに関しては、ニクスさんが厳しすぎるというのもあると思うけど……。
『獲物がなかなか見つからなくて……』
『そんなことは関係ない。やり直しだ、もう一度行ってこい』
『は、はい……!』
王都の近くにある森。
普段から、多くの冒険者が出入りしているらしく、魔物の間引きもある程度されているようで、まともに魔物と会おうと思ったら、奥地まで行かなくてはならない。
しかも、警戒心が強いのか、なかなか姿を現してくれなくて、思うように狩れないのだ。
一応、時間をかければ狩れないことはないのだけど、ニクスさんは、制限時間を設けてくる。
確かに、食料も一から用意しなくてはならない野生では、その数分の遅れが命取りになる可能性もあるかもしれないけど、要は食料を確保することは、生きるための活力を得る行為だと思う。
だから、あまりに狩りに全力を出しすぎて、エネルギーを使い切ってしまっては、それこそ本末転倒というものだ。
別に、そんな大きく遅れているわけではないし、別に構わないと思うんだけど……これには一体どんな理由があるんだろうか。
『また時間を過ぎているぞ。こんなこともできんのか?』
『す、すいません……』
ニクスさんには、ルミエールと引きわせてくれた恩がある。それに、こうして幻獣の姿になれたのも、ニクスさんがいたからこそだ。
まあ、幻獣の姿になってまで、と思ったけど、すでにルミエールなしの生活など考えられなかったし、寿命という大きな壁を取り払ってくれたのだから、感謝してもしきれないことだと思う。
しかし、こうも理不尽に怒られては、少しは腹も立つ。
一体、この訓練は、どういった意味があるんだろうか?
『何か言いたげだな、小娘』
『い、いえ、そういうわけでは……』
『大方、制限時間など必要ないと思っているんだろう。野生に置いて、毎日飯が食える方が稀だ。時には食えない日もある。であるなら、多少遅れたところで、問題はないと、そんなところか?』
『え、えっと……』
その通りである。
人間のように、畑を作っているわけでもなければ、家畜を育てているわけでもないのだから、安定した食料源はないに等しい。
季節が変われば、冬眠などで出てくる獲物も少なくなるだろうし、もしかしたら、一か月とか食べられない時も来るかもしれない。
もちろん、私達は人化ができるから、お金さえ稼げれば、人の町で食料を買うと言った選択も取れるけど、普通はそうじゃないだろうからね。
さっきも言ったけど、食べるという行為は、活力を得るための行為。だから、極端なことを言うなら、活力を失わないなら、食べなくてもいいということになる。むしろ、全力を出しすぎて活力を多く消費しすぎて、食べても取り返せないとなった方が問題である。
だから、深追いはせず、堅実に狩りをする方がいいと考えてしまうのだ。
『それくらいは自分で気づけと言いたいが、そんなに不服なら教えてやろう』
『お、お願いします』
『まず言うが、貴様は魔力の制御がなってなさすぎる』
『えっ……?』
予想外の言葉が飛び出してきて、少し困惑する。
どうやら、私の魔力は、幻獣になった影響もあって、飛躍的に伸びているらしい。
まあ、ユグドラシルでは、ユグドラシルの実を食べたって言うのもあるし、人の頃と比べたら、魔力は上がっているというのは理解できる。
ただ、だからこそ、その使い方がなっていないという話だったようだ。
魔力が多すぎると、周りの生物を威嚇してしまう効果があるらしい。特に、殺意に敏感な弱い魔物や、魔力の制御に長けた強い魔物は、それを感じ取りやすいらしく、魔力の制御がなっていないだけで、あちらから発見される確率が上がるとのこと。
『今の貴様は、カーバンクルの加護によって、幸運にも獲物を捕らえられているだけにすぎん。もっとうまくやれば、これくらいの制限時間など、余裕でクリアできるはずだ』
『つまり、無茶振りしているわけではなく、私の魔力制御を鍛えるためにってことですか?』
『そうだ』
確かに、魔法の練習は繰り返してきたけど、魔力を意図的に抑えようとは考えていなかったかもしれない。
人化すると、ある程度は勝手に収まるらしいから、今まで不便は感じたことはなかったかもしれないけど、無駄に発見されるリスクを負うべきではないのは確か。
ニクスさんも、きちんと理由を持って試練を課していたんだね。
『制御の仕方はわかっているはずだ。後は、それを意識できるかどうかにすぎん。まさか、できないとは言わんな?』
『わかりました。制御してみせます』
これでも、魔法の扱いに関してはかなり勉強してきたつもりである。
と言っても、本格的に学んだのは、ユグドラシルで幻獣になった後であり、学ぶと言っても、実戦形式でこんな感じかなと感覚で掴んでいただけだけど、それでも、何をどうやれば制御できるかどうかくらいわかる。
よくよく考えてみれば、ルミエールも、ニクスさんも、あんまり威圧感は感じないし、制御しているんだろうね。
元から幻獣だったなら、これくらいは当たり前なのかな。
頑張って慣れて行かないと。
『では、もう一度行ってこい。今度は遅れるんじゃないぞ』
『はい!』
私は、意識すべきことを考えつつ、再び狩りに出る。
この滞在で、きちんと制御できるようになって、いつかはルミエールと肩を並べられるようになりたいね。




