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幕間:刺激的な体験

 デザイナー、アルマスの視点です。

 ここ最近、とても刺激的なことが多かった。

 きっかけは、町の広場で、ポツンと佇んでいた一人の少女に声をかけたところだろうか。

 少女というより、幼女と言った方がいいような年齢の子供。

 確かにこの町は治安はいい方だし、一人で歩いても問題はないとはいえ、流石にそんなに幼い子が一人でいるのが気になって、声をかけた。

 その時は、舌ったらずな喋り方も相まって、親とはぐれてしまったのかと思い、思わず家に招待してしまったが、結局、そう言うわけではなかったようで、いらぬおせっかいを焼いてしまったようだ。

 彼女は、本当に不思議な子だった。子供とは思えぬほど礼儀正しいし、かと思えば、木彫りの人形を作ってプレゼントしてくれるなど、子供らしい一面もある。

 まるで、孫でもできたようだと、一人ほくそ笑んでさえいた。

 ただ、調べてみると、どうもただの子供というわけではないらしい。

 どうやら、冒険者の保護者二人と共にふらりとこの町にやって来て、借家を契約し、日々冒険者ギルドに通っているらしい。

 彼女は、そんな保護者が帰ってくるのをいつも待っているらしく、一人きりになっていたようだ。

 随分と無責任だなと思ったが、どうにも、その冒険者はただ者ではないらしく、日々多くの功績を上げていたようだ。

 本人はCランクを名乗っていたようだが、実力的にはさらに上、下手をすればAランクにも匹敵するような実力だという。

 関係性が気になったが、流石に、そこまではよくわからなかった。

 それから、時折気にしつつ見守っていたが、そこにやってきたのが、チグラス君である。

 チグラス君とは、ちょっとした縁があり、王都改造計画の時に、共に仕事をしたことがあった。

 あの時は、色々とわしに突っかかって来たものだが、その意見はそこまで間違ったものというわけでもなかったと思う。

 王都を芸術の都に押し上げるために、華やかさは必要だが、同時に機能美も必要だとは思っていたからね。

 だから、お互いのいいところを取り入れつつ、よりよい街を目指して行こうと考えていたが、陛下はわし一人に計画を任せてしまった。

 チグラス君は失意の底に沈み、王都を離れ、その後は音沙汰なかったのである。

 だから、久しぶりに顔を出してくれたのは、素直に嬉しかったが、どうにも、何か勘違いしているらしく、わしが盗作をしているのではないかと疑ってきた。

 思い当たることがあるとすれば、精霊様にいただいた絵を使ったことだが、あれは授かったものであり、盗んだものではない。

 確かに、人の作品をそのまま自分のものとして発表するのはよくないことかもしれないが、精霊様は、その絵を心の景色を写しだしたものだと言った。

 普段は決して人前に現れることのない精霊様が描いた、理想の景色。であるなら、それを再現するのは、人の務めと言えるだろう。

 だから、わしはこれを盗作とは思っていないし、むしろ、誇らしいこととさえ思う。

 結局、チグラス君は話を聞かずに飛び出して行ってしまったが、それはそれで、昔を思い出すようで少し嬉しかった。


「それにしても、ちょっとした考え方の違いで、ここまですれ違うとはね……」


 チグラス君は、悩んでいた。

 世に言われる、機能美に溢れるデザインは、チグラス君が望んだものではないらしい。

 それはそれで、素晴らしいものだとは思うが、本当に作りたいものは、別にあったようだ。

 だからこそ、それに近かったわしの作品を、妬むようになった。

 どうしてあいつは認められて、自分は認められないのかとね。

 その違いは、本当に些細なこと。精霊様の言う、心の景色の在り方を、どう示したかだ。

 確かに、デザイナーは、顧客の要望を叶え、より住みやすい家を造ることである。

 しかし、要望を叶えるだけでは、面白くない。わしは、仕事でも、楽しんでやらなければ、長続きはしないと思っていた。

 だからこそ、自分なりのルールを決めた。

 それは、ちょっとした間取りの配置だったり、玄関の形だったり、階段の手すりだったり、様々な場所に、自分の好きを忍ばせること。

 もちろん、顧客の要望は叶える。その上で、ちょっとアレンジを加えることを、楽しんでいた。

 それが受けたかは知らないが、わしは有名になることができた。

 わしにとって、それはほんの些細なことでしかなかったが、チグラス君は、その些細な違いで苦しんでいたようである。

 わしも、考え方が少し食い違えば、チグラス君のようになっていたかもしれない。

 そう思うと、他人事とは思えないね。


「ルミエール君達のおかげで、チグラス君はようやく解放されることができた。感謝してもしきれないね」


 なんやかんやで、精霊様と再び出会い、その胸の内を聞くことができた。

 わしですら気づいていなかった、わずかな違いも、精霊様にとっては、お見通しと言ったところだろうか。

 しかし、そもそもの話、精霊様に会うなど、普通はできない。

 わしも、修行時代の時に、一度お会いしただけで、それ以降は全く音沙汰がなかった。

 それを、こうも簡単に会わせることができるとは、やはり、ただ者ではない。

 ルミエール君の正体は、ドラゴンであり、共にいた冒険者も、幻獣に連なる者だと言っていた。

 幻獣。確か、昔、神の遣いとして人々に崇められていた存在だと、どこかの書物で読んだ気がする。

 と言っても、解釈は様々あるらしく、神の依り代だったり、突然変異した魔物だったり、様々な説があるようだけどね。

 しかし、ああやって人に擬態し、町を訪れることができたということを考えると、神の遣い、あるいは神の依り代というのは有力かもしれない。

 すでにこの町を発ってしまったが、いつかまた、会えるといいね。


「わしも、まだまだ生きねばな」


 チグラス君に託された、一枚のデザイン画。

 それは、チグラス君の心の景色を写しだした、まさに理想である。

 また一からやり直すと言っていたが、果たしてまた大成することはできるだろうか。

 いや、チグラス君なら、どこへ行ってもまた一花咲かすことはできるだろう。

 理想を思い出した彼に、もはや敵はいないのだから。


「戻ってくるのが楽しみだね」


 わしは、メイドに頼んで、額縁にこの絵を飾ってもらうことにした。

 これほど立派なデザインなのだから、保護しておかなければ失礼というもの。

 いったい何年後になるかはわからないが、わしも志を忘れぬよう、自分の部屋に飾っておくことにする。

 一息つきながら、今後を楽しみにしていくことにした。

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