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第百八十六話:精霊と対面

 累計200話を達成しました。ありがとうございます。

「俺はチグラス。こいつと同じく、デザイナーを生業としていた」


 自己紹介から入り、事の経緯を説明する。

 この精霊は、昔、アルマスさんの前に現れ、一枚の絵を託した。

 アルマスさんは、それを天啓と捉え、王都改造計画という大一番に、その案を採用し、王都の形を作り替えた。

 チグラスさんは、それを盗作なのではないかと疑ったけれど、肝心の証人は、精霊しかいない。

 だからこそ、チグラスさんは、こうして精霊を探してきたのだ。


「だが、この際そんなことはどうでもいい。それよりも聞きたいのは、なぜ、アルマスを選んだのかだ」


 盗作疑惑は、それが真実か否かによって、チグラスさんの人生を左右する割と重要なものだけど、肝心なのはそこではない。

 チグラスさんとて、アルマスさんがそんな見え透いた嘘をついているとは思わないし、精霊と会ったというのも少なからず本当だろうと考えた。

 しかし、結局のところ、なぜ、精霊がアルマスさんを選んだのか。ひいては、なぜ自分は選ばれなかったのか。そこがずっと引っかかっていた。

 王都改造計画という、国を巻き込んだ大規模な事業に呼ばれながら、その責務を果たすことができなかったチグラスさんは、自分に何が足りないのか、アルマスさんには何があるのかがわからなかった。

 だからこそ、影響を与えたと思われる精霊に、問いただそうとしているのである。

 その答えに、あまり意味はないとしてもね。


「ふむ、人間はおかしなことを考えるものだね。目についた人と話をするのに、理由がいるかい?」


「人は理由を求めるものなのだ。そもそも、どうしてアルマスが目についたのか、それを知りたい」


「うーん、強いて言うなら、雰囲気、かな」


「雰囲気、だと……?」


 上級精霊にとって、人間、というよりも、周りを包む環境は、どれも興味の対象である。

 普通の精霊には、そこまでの興味が沸かないものでも、上級精霊は、その内容をそれなりに理解できるが故に、興味の対象となる。

 人は特に興味を惹かれるものであり、だからこそ、その言葉を学び、仕草を学び、それを自分の趣味にする。

 この精霊の場合、絵描きが趣味となったのだろう。どこで影響を受けたのかはわからないけど、場所的に考えて、あの町だろうか?

 とにかく、元々、絵描きに対して、興味があった。

 そして、そこに現れた、アルマスさん。絵描きとデザイナーという違いはあれど、心の中にある景色を形にするという意味においては、通ずるものがあった。

 だからこそ、ちょっと話しかけてみようと、姿を現したのだという。


「僕達精霊は、特定の者に興味を持つことは少ない。僕らの役割はメッセンジャーであり、自分の趣味というものを持たない。けれど、仕える者がいなくなり、その在り方は変わった。僕がこうして絵を描くのは、そうした変化の表れだね」


「何を、言ってる……?」


「ああ、ごめんね、こっちの話。とにかく、たまたまその人が波長が合ったとでも言えばいいのかな。これでは納得できないかい?」


「……」


 この精霊、もしかして結構長生きしてる?

 元々、精霊の役割は、神の遣いである幻獣に情報を伝えるというものだった。

 人から姿が見えない精霊達は、興味の赴くままに人里に出向き、そこで見聞きした情報を幻獣へと伝える。

 幻獣は、それによって人の願いを知り、それを叶えるべく動く。

 幻獣自身も、人化の術を使うことによって、直接交流していたこともあったようだけど、そうして精霊を介して情報を拾っていた者もいただろう。

 そのことを知っているということは、この精霊は、幻獣が神の遣いと呼ばれていた頃から生きていた可能性がある。

 もしかしたら、結構有名な精霊なのかもしれないね。


「ならば、もし、その時に俺がこの森に迷い込んでいたら、あなたは声をかけたか?」


「かけないだろうね。だって、好みじゃないもの」


「……そうか」


 はっきりと言われ、静かに俯くチグラスさん。

 これで、自分は精霊に認められるような存在ではないということがはっきりしてしまったわけだし、チグラスさんとしては、決定的な一言だっただろう。

 でも、これはどうしようもない。

 精霊も言っていたように、精霊が人の前に姿を現すかどうかは、興味を惹かれるか否かだ。

 贈り物という、餌で釣ることはできても、実際に姿を現すかどうかは、その精霊の個性による。

 アルマスさんは、精霊に認められる個性があった。チグラスさんには、それがなかった。ただそれだけのこと。


「理由は……いや、これ以上は聞くまい」


「波長が合うかどうかなんて、その精霊次第だよ。もしかしたら、君と波長が合う精霊もいるかもしれない。でも、君の無駄を省こうという姿勢は、あまり精霊には受け入れられないかもね」


「ど、どうしてそれを……」


「そう言う雰囲気をしていたから。その人とは、全然違う」


 精霊は、見ただけで、チグラスさんの個性を見抜いたようだった。

 確かに、チグラスさんのデザインは、機能性重視。アルマスさんのように、華やかさを求めるものではなく、あくまで実用的かどうかで建築をする。

 それは言い換えれば、無駄を省いているという言い方もできるけれど、精霊は、その無駄を楽しむ生き方をしている。

 遥か昔、幻獣が神の遣いと呼ばれていた頃ならば、もしかしたら可能性があったかもしれないけど、今の多くの精霊は、趣味に生きている。

 ニクスのように、あえて贈り物をして、専属となる精霊もいるとは思うけど、故郷の近くで起こった出来事を見聞きし、それを基に自分の趣味を決めるのが、今の精霊の在り方だ。

 確かに、無駄を一切省いた、機能性重視のものも、見ようによっては美しく映るかもしれない。けれど、精霊には合わない。

 生きる場所が違えば、感性も変わる。運が悪かったと言えばそれまでだけど、初めから、チグラスさんが精霊に認められる可能性はなかったってことだね。


「俺は、間違っていたのか? 機能美を追い求めて、無駄を省き続けたのが行けなかったのか? 俺は、いったい何のために……」


 チグラスさんは、膝から崩れ落ち、手で顔を覆っている。

 ちょっと可哀そうではあるけど、ここで慈悲を出して、認めるなんてことは、精霊は絶対にしないだろう。

 あくまで、興味を惹かれたからこそ手を貸すだけであって、それ以外に手を貸す理由なんて一つもない。

 好みに合わないというのなら、冷たく突き放されるだけだ。


「ねぇ、君は心の中の景色を持っていないの?」


「心の中の、景色……?」


「そう。君が心の底から造りたいと思うもの。その機能美とやらは、君が本当に作りたいものなの?」


「それ、は……」


 言葉に詰まるチグラスさん。

 心の中の景色、本心とでも言えばいいのかな? チグラスさんは、心の底から、今の道を選んだんだろうか。

 俺は、その様子を、後ろから静かに見守っていた。

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