第二話:食料確保
一話に二話がくっついていたようなので改めて投稿します。
あちこち歩きまわって感じることは発育のよすぎる木々や草花だ。
いずれも大木であるし、生えている草花の葉はどれも大きい。
ここは日本ではないのだろうかと考えて、地球にドラゴンがいるわけないと思い至る。
もしかしたら地球という可能性もなくはないが、この世界は地球とは異なる世界。つまり異世界である可能性が高い。
自分がドラゴンであるということもそうだが、ちょくちょく見かける動物達が見たことのないものばかりだからだ。
中にはスライムっぽいものもいた。動物というよりは魔物って呼んだ方がいいのかもしれない。
大丈夫かなぁ。こんな大自然のど真ん中に放り出されて子供が生きていけるとは思えないんだけど。
そういえば親らしきものを見かけない。俺はドラゴンだから親も当然ドラゴンなのだろうが、いれば近くにいそうなものだけどな。
卵は巣で産むものだろうけど、俺が生まれた場所は別に巣というわけではなさそうだったし、何かの拍子に巣から転げ落ちた卵が俺だったのかもしれない。
そうなると親なしで生き抜いていかなくちゃならないんだけど……まあ、何とかなるか。
何はともあれ必要なのは食糧だ。人は食べなければ生きていけない。それはドラゴンでも同じことだろう、多分。
きょろきょろと辺りを見回しながら歩いていると、ちょうど目の前の木にリンゴっぽい物が生っているのに気が付いた。
多分食べられるよね? とはいえ、俺の身長では全く届かない。
この森の木々はデカすぎるからあまり参考にならないかもしれないが、多分俺の身長は50センチメートルあるかないかくらいだと思う。だいぶ縮んだものだ。いや、生まれたばかりと考えればでかい方か?
ドラゴンの平均身長なんて知らないからよくわからない。
ふむ、どうしたものか。とりあえず揺らしてみようか。
小さな手で木の根元を押さえる。そして、思いっきり力を込めて揺らしてみた。
ベキベキベキベキ!
その瞬間、ものすごい音を立てて木が折れた。
え、え? 俺そんなに力強いの?
いかにも頑丈そうな大木があっけなく折れたことに少し困惑する。
そりゃまあ、ドラゴンは強いイメージがあるけど、まだ子供だよ? それでこんなに力があるのか。規格外にもほどがある。
うーん、まあ、結果的に果物を手に入れられたからよしか。倒れた木から果物をもぎ取るとぱくりと口に運ぶ。
甘酸っぱい味が口の中に広がった。うん、これリンゴだ。
もしゃもしゃと咀嚼しているとあっという間になくなってしまう。生っている実はすべて食べつくしてしまった。
ふぅ、意外と美味しかった。また見つけたら食べるとしよう。とはいえ、毎回木を倒すわけにはいかないから別の方法を考えないとな。
ガサリ。
そんなことを考えていると、ふと背後の茂みが揺れた。
振り返ってみると、そこには巨大な狼の姿が。
え、ちょっと待って、でかくない? いや、俺が小さいのか? いや、だとしても大きすぎるような……。
狼はグルルと唸りながらじりじりとこちらに近づいてくる。
これもしかして、獲物と思われてる?
そう思った瞬間、飛び掛かってきた。
とっさのことで体が動かず、思わず目を瞑って縮こまる。
ああ、短い人生だった。生き残る確率がどうのというのは何だったのか。自分の運の悪さを呪うしかない。
がぶりと巨大な口が俺の身体を飲み込む。丸のみは流石に無理だったようだが、上半身を丸々食べるくらいはできたようだ。
目を瞑っていてもなんとなくわかる。ああ、今口が閉じられて、鋭い牙が俺の身体を食いちぎって……。
……あれ?
今間違いなく口を閉じられたよね? 現にお腹のあたりに牙の感触がある。でも、なぜだろう。全然痛くない。
狼は食いちぎろうと俺の身体を大きく揺さぶる。でも、やっぱり痛くない。むしろくすぐったいくらい。なんだこれ?
とにかく、いつまでも食べられたままというわけにもいかないので脱出を試みる。幸い、口の中という弱点をさらした狼を撃退するのはそう難しいことではなかった。
口の中から解放されて周囲の景色が戻ってくる。
うわ、唾液でべとべとだ……。
噛まれた辺りを確認してみたが、跡すらついていない。完全に無傷だ。
これって、鱗が硬すぎて効いてないってことでいいのかな?
あの狼の攻撃力がどのくらいかは知らないけど、顎の力って相当強いだろうし、それに対して無傷を誇れるならだいぶ硬いのでは?
思わず自分の肌をさすってみる。すべすべとした質感はとても触り心地がいい。癖になりそうだ。
と、そんなことをしている場合じゃない。
引きはがされた狼は依然としてこちらを睨みつけている。しかし、先程のように噛みついては来なかった。
しばし睨み合い、両者の間に緊張が走る。
く、来るか? それならこっちだって抵抗させてもらうぞ。
威嚇するようにこちらも睨みつけてやると、やがて狼は踵を返して去っていった。
どうやら諦めたようだ。硬い鱗に感謝だな。
危機が去って安心したせいか力が抜けてしまい、その場にへたり込む。
今のは危なかった。ドラゴンじゃなければ死んでいただろう。
ここは前世の様に安全な場所じゃない。弱肉強食がルールの大自然のただ中だ。
頭の中ではわかっていたつもりだったけど、まだ認識が甘かったのかもしれない。
食事をしていて油断していたというのは言い訳にはならないだろう。これから先もこういったことは起こるはずだ。
今回無事だったからと言って次も無事な保証はない。次はもっと強力な相手が現れるかもしれないし、その相手は俺の鱗を貫いてくるかもしれない。
いつ何時も襲われる覚悟を持っておこう。せめてとっさに抵抗できるくらいの力は身につけなければならない。そうでなければ、大自然の中で生き残れるとは思えないから。
ひとまず今は水辺を探すことにしよう。流石にこんな唾液まみれのままでいたくない。
ぽてぽてとたどたどしい歩き方で歩き始める。
この体、意外と歩くのが難しいのだ。歩けないわけではないが、蟹股で歩いているような違和感がある。
体の使い方にも慣れないといけないな。そのためには行動あるのみだ。
幸いにも水場はすぐに見つかった。
森の中を流れる川は澄んでいてとても冷たい。魚の姿も見えるが、あれも恐らく魔物って呼んだ方がいいのだろう。
やたらとでかいし口にはギザギザとした歯が生えている。鮫じゃないんだから。
噛みついてこないよね? ちょっと心配になりながらも水浴びをして唾液を落とす。
そういえば、俺ってどんな顔してるんだろう。
一度川から上がり、流れの穏やかな場所を覗き込んでみる。
水面に反射した俺の顔は……なんというか、綺麗だった。
いや、別にナルシストとかそういうわけではない。そもそも俺は人間だったわけで、ドラゴンの顔の良しあしがわかるわけもない。
でも、綺麗としか言いようがなかった。顔立ちが整ってるとでも言えばいいのか、ドラゴンのはずなのにあまり厳つい感じはしなかった。
控えめに生えた角、縦割れした金色の瞳、すっと伸びたマズル。かっこいいというよりは可愛いという感想が出てきてちょっと困惑する。
おかしいな、ドラゴンってこんなんだっけ? いや、本物を見たことあるわけもなし、実際のところはこんなものなのかもしれないけどさ。
きっと赤ちゃん補正という奴だろう。生まればかりだからそう見えているだけで、きっと成長したら厳つくなっていくに違いない。
ドラゴンの寿命ってどれくらいなんだろう。やっぱり長いのかな。だとしたら成人ってどれくらいになるんだろうか。
そんなことを想いながら水を飲む。
こういうのって煮沸とかして除菌した方がいいんじゃないかとか思ったけど、ドラゴンだし今さらかと思って特に気にしなかった。