第百八十五話:条件を揃えて
それから、何度か休憩を挟みつつ、転移を続けていくと、ようやく町に辿り着くことができた。
日付にしたら、ほんの一日程度だったんだけど、やはり、魔力供与が恥ずかしくて、地味に長く感じた。
フェルは特に気にした様子もなく、いつも通りに接してくれたんだけど、恥じらいとかないんだろうか?
それとも、言っていたように、女の子同士だから恥ずかしくないって奴?
女の子同士だとしても、キスは普通に恥ずかしいと思うんだけど……。
まあ、それはともかく、これでアルマスさんを連れてくることはできた。
後は、件の精霊と会うだけである。
「来たか。それなりにかかったじゃないか」
「これでもだいぶ急ぎましたよ。もう魔力すっからかんです」
「少し休めば大丈夫だろう。それより、さっさと用件を済ませるぞ」
そう言って、チグラスさんを呼びに行くニクス。
チグラスさんは、ここ数日、大人しくしていたようだけど、本当に精霊に会えるのかどうか、そして、会えるとしても、アルマスさんの手を借りてというのはどうなのかと、ずっと考えていたらしい。
アルマスさんの姿を見た途端、若干目つきが鋭くなっていったが、言葉にはしなかった。
「チグラス君、話は聞いたよ。どうにも、精霊を探しているらしいね」
「……ああ。貴様が、その精霊から作品を盗み、利用したのではないかと確かめるためにな」
「あれは盗作ではないと言ったはずだよ。あれは、精霊から託されたもの。盗んだつもりなどない」
「だろうな。貴様は、そんなちゃちなことをするような小さい男ではない。それでもあえてそうしたのは、貴様を認めたくなかったからだ」
「チグラス君……」
チグラスさんは、胸の内を暴露していく。
天才デザイナーともてはやされながらも、王様からの要望を果たせなかった。
いくら方向性が違うとは言っても、それはチグラスさんにとって、重要な意味を持つ。
その上で、アルマスさんだけが、精霊に愛されているなどという事実があったら、自分はどれほど惨めな存在なのかと思うところだろう。
チグラスさんとしては、アルマスさんが精霊に認められているのなら、当然ながら自分も認められる素質を持っていると考えた。
けれど実際は、どうやっても会うことはできなかった。
もはや、アルマスさんとチグラスさんの間には、埋めようのない差があることは事実である。
実際は、努力によって、完全とはいかずとも、近づくことはできていると思うけど、チグラスさんにとってはそうだった。
本当なら、こんな形で再会などしたくなかっただろうけど、精霊に会うためには、どうあってもアルマスさんの手を借りるしかない。
会ったところで、結果が良くなる保障もないけれど、それが、チグラスさんの最後のプライドだった。
「精霊に会い、貴様が精霊に認められた存在だとわかったならば、その時は貴様のことを認めよう。俺にその素質がなかったことも、認めたくはないが認めよう。しかし、それがわかるまでは、断じて貴様を認めたりはしない」
「つまり、精霊本人に確認をして欲しいということだね」
「そうだ」
「うーむ、わしも精霊に会ったことがあるのはあの時の一回だけだ。また出てきてくれるかどうか……」
確かに、一度会ったからと言って、その後にまた現れてくれる保障はない。
しかし、ニクスが言うからには、何かしらの方法があるはず。
一体、アルマスさんに何をさせるつもりなんだろうか?
「まずは森に向かうぞ。一緒に来い」
「行くって、今からかい? もう夕方だが……」
「その方が都合がいい。安心しろ、魔物の露払いくらいはしてやる」
そう言って、さっさと歩きだすニクス。
夜の森に入るなど、危険にもほどがあるけど、まあ、ニクスがいるなら、問題はないだろう。
いざとなれば、俺が治せるしね。
「ニーシャ、準備はできてるな?」
「もちろん。それにしても、精霊使いが荒くない? 私のご主人様はルミエールなんだけど」
「奴は我の子だ。問題ない」
「まあ、報酬が貰えるなら別にいいけどね」
森に分け入ると、ニーシャさんとニクスが何やら話している。
ニーシャさんは、俺と一緒に来ようとしていたけど、ニクスに止められたんだよね。
この様子だと、何かやってくれたようだけど、一体何をしたんだろうか。
そのまま進んでいき、やがてちょっとした広場に出る。
何の変哲もない場所。ただ、若干魔力が濃いような?
「ここでいいだろう。白竜の、鱗を渡せ」
「おくりもの?」
「そうだ。ただの贈り物では、どの精霊が出てくるかはわからんが、ここにはアルマスがいる。この森に奴がいるのなら、出てくるはずだ」
まあ、確かに、精霊が気に入った人物がいて、その人物が贈り物をしたなら、出てきてくれる可能性は高いのかな?
ただ、今までさんざん探して、反応すら見つけられなかったのに、そんな簡単に出てくるんだろうか。
そりゃ、この森にいるなら出てくるかもしれないけど、ワンチャン、どこか遠くに行ってしまった可能性もあると思うんだけど。
「問題ない。早く渡せ」
「まあ、うん」
俺は、見えないように一部人化を解除して、鱗を引き抜く。
剥がれかけのものだから、そんな大したものじゃないけど、それでも、ドラゴンの鱗というだけで、魔力が込められている。
贈り物としては十分すぎる代物だ。
ニクスは、受け取った鱗をアルマスさんに渡し、目の前の切り株の上に置くように指示する。
「これでいいかい?」
「ああ。後は少し待てば……」
よくわかっていなさそうなアルマスさんに特に説明することもなく、少し待つ。
すると、森の奥から、何者かが歩いてくるのが見て取れた。
薄緑色のローブを身に纏い、藍色の瞳でこちらを凝視しながら、ゆっくりと歩いてきたその人物は、人間に限りなく近くはあるものの、明らかに雰囲気が違う。
その姿を見た瞬間、アルマスさんは目を丸くして、思わず声を上げていた。
「おお、あなたは……」
「誰かと思えば、君だったんだね。久しぶり、と言った方がいいかな」
よく見ると、腰元には大きな筆を佩いている。
言っていたような、キャンバスは持っていないようだけど、これが、アルマスさんの言っていた、件の精霊であることは間違いなさそうだ。
「姿を現す気はなかったけど、ここまでされたら仕方ないね。それで、こんなにたくさんのお友達を連れて、一体何の用かな?」
「それは……」
「俺の我儘を聞いてもらったのだ」
そう言って、チグラスさんが前に出る。
精霊は、若干目を細めながらチグラスさんを見ていたけど、特に何も言うことなく、続きを促した。
さて、チグラスさんは、これを機に答えを見つけられるだろうか?
その様子を眺めながら、行く末を見守った。
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