第百八十三話:魔力供与のやり方
とりあえず、アルマスさんを連れてくるというのは、同意するしかない。
現状、例の精霊に会える可能性が一番高いのはアルマスさんだし、精霊について詳しいニクスがそう言っているのだから、信憑性もそれなりにある。
連れてくる方法にはちょっと同意できないけど、あんまり時間を費やすと、チグラスさんが不安がってしまうだろうから、できるだけ早くというのは徹底しなければならない。
アルマスさんも、そう長くは王都を空けるわけにはいかないだろうしね。
なので、あんまり気は進まないけど、ニクスの案で行くとしよう。
「だったらさっさと行ってこい。我はこいつを見ている」
「いじめちゃ、だめ」
「我がいついじめた? いいから行ってこい」
なんか、ニクスに人間を監視させておくのって凄く不安なんだけど……まあ、他に人もいないし、仕方ないか。
とりあえず、森から脱出し、宿にいる私兵の人達に、無事を確認してもらう。
だいぶ怒られていたけど、こればっかりは仕方ないね。
そちらのことはニクスに任せて、俺達は早速王都に向かうことにした。
『なんだか妙な展開になって来たね』
『そうだね』
元の姿に戻り、高速で飛んでいく。
しかし、元々は、ただ単に人化に慣れるための訓練だったのに、どうしてこんなことになってしまったのか。
首を突っ込まなければ、無関係だったというのはあるけど、いくつかの偶然が重なった結果というべきだろうか。
俺としては、アルマスさんにも、チグラスさんにも、幸せになって欲しい。
どちらも悪い人ではないし、そんな二人がいがみ合う必要はないはずだ。
今回の件で、チグラスさんの心はバキバキに折られてしまったけれど、どうにか立て直してくれたらいいと思う。
『ちなみに、転移何回で行ける?』
『うーん……最大転移で、20回くらいかなぁ』
フェルの転移能力は、本来は短距離にしか対応していないが、魔力を多くつぎ込めば、その分遠くへ転移することもできる。
まあ、それでも、一回で地平線の先まで転移、って言うのは難しいかもしれないけど、普通に飛ぶよりは多分早いと思う。
コスト面を考えるなら、普通に飛んだ方がましだと思うけどね。魔力を結構食うから、人化を維持できなくなる可能性もあるし。
人外姿を見せてもいいなら話は別だけど、流石にそれは混乱が大きくなりすぎるよねぇ……。
『絶対魔力足りないよぉ』
『俺も魔力供与はするけど、どこまで持つかなぁ』
もし、連続転移が途中で切れる場合、どうやって運ぶべきだろう。
そもそも、連続転移自体、人間達には過ぎたる能力である。
転移魔法自体は、大きな国なら魔法陣として設置されているところもあるようだけど、使える人はあまり多くないらしい。
一回転移するだけでも、かなりの量の魔力がかかるから、そんな連続で使用できないらしいんだよね。
だから、転移を見たことがないって人も多くいる。恐らく、アルマスさんだって見たことはないんじゃないかな。
そんな中、いきなり連続転移なんてしたら、絶対に驚くし、下手したら酔って体調を崩してしまう可能性もある。
仮に、馬車などに乗ってもらって、外から馬車ごと転移させていくのだとしても、魔力が切れた場合、普通に馬車で移動するくらいしかなくなってしまう。
俺達の翼で普通に飛んでも、ある程度の日数はかかってしまうから、仕方ないと言えば仕方ないけど、チグラスさんの状況を考えると、できれば一週間以内くらいには戻ってあげたい。
ただでさえ、馬車で一週間かかる道のりを往復で一週間で行こうとしているんだから、とんでもないことだよね。
『ところで、魔力供与ってどうやるの?』
『え? それは、その……』
フェルは、純粋な目でこちらを見てくる。
俺も、魔力供与を実際にしたことはない。
近くにいたのは、ニクスや、その仲間達ばかりだったから、いずれも莫大な魔力を持っていて、そんなことする必要性がなかったからね。
ただ、されたことは何回かあって、子供の頃に、ニクスから受けたことがある。
その方法だけど、簡単に言えば、口づけだ。唇を通じて、直接魔力の塊を相手に流し込むというものである。
まあ、必ずしもそれじゃなきゃいけないわけじゃないみたいだけど、直接交わるとか、そう言うことを除くと、それが一番手っ取り早い方法らしい。
言っていて思うけど、これ、できるか?
確かに、俺とフェルは番だ。ユグドラシルで、フェルを幻獣として生まれ変わらせてもらった時に、事実上はそう言う関係になるとニクスから教えられた。
俺としても、フェルには並々ならぬ感情を抱いているし、番という関係にも、否やはないんだけど、いざ口づけをしろと言われると、恥ずかしいものがある。
『えっと……き、キスとか、平気な感じ?』
『ルミエールと? まあ、してもいいとは思ってるけど』
『いいんだ……』
『だって、女の子同士だし』
『あー……』
確かに、今の俺の性別は女だ。だから、見た目上は、女の子同士であり、特に恥ずかしがる必要もないとのこと。
もっと言うなら、幻獣としての年齢は、どちらもまだまだ子供である。むしろ、フェルなんて、赤ちゃんと言っていいくらいの年齢だ。
であるなら、子供のじゃれあいみたいなものであり、余計に気にする必要がない。
理屈としてはわかるけど、こちとら前世は大人の男だったのだ。気にもする。
フェルだって、一応成人はしていたはずだし、もうちょっと、キスに危機感持ってもいいと思うんだけどな。
『それが魔力供与の方法?』
『う、うん』
『なるほどね。それじゃあ、魔力がなくなったら、お願いね』
『は、はい……』
なんだか、いいように弄ばれている気がしないでもないけど、他の方法は、効率も悪いし、わざわざそちらを選ぶメリットがない。
何度も転移する関係上、魔力は何度か尽きるだろうし、何度もしなくちゃいけないと考えると少し恥ずかしいけど、これもチグラスさんのためである。
ここは腹をくくろう。大丈夫、今の姿なら、そこまで犯罪ではないはずだ。多分。
『あ、王都見えてきたよ』
若干のもやもやを抱えながら進むこと数日。俺達は王都へと戻ってくることができた。
後は、アルマスさんをうまく説得し、一緒に来てもらうだけである。
うまく話を聞いてくれるといいんだけど。
「おお、戻ってきたんだね。どうだった? チグラス君は連れ戻せたかな?」
人化し、フェルと共に屋敷に赴くと、応接室でアルマスさんが出迎えてくれた。
相変わらず、可愛がってくれているけど、今回はフェルも一緒ということで、少しは自重したようだ。
今回、俺だけでなく、フェルも一緒に来たことによって、何かあるというのは察しているのだろう。優しく聞きながらも、その目は真剣だった。
「アルマスさん、こうして話すのは初めてでしょうか。冒険者の、フェルミリアと申します」
「ルミエール君から話は聞いているよ。優秀な冒険者なんだってね」
「いえ、私なんてまだまだです。それより、チグラスさんの件について、少しお話したいことがあります」
貴族に対する言葉遣いとしては少し微妙な気もするが、アルマスさんは怒ることなく話を聞いてくれる。
チグラスさんの現状について話すと、顔をしかめていた。
「……なるほど。それで、わしに一緒に来て欲しいと」
「はい。可能でしょうか?」
「うーむ……」
アルマスさんは、腕を組んで少し悩んでいる様子。
やはり、そんなすぐには王都は離れられないんだろうか。
俺は、フェルの横で話を聞きながら、行く末を見守っていた。




