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第百七十九話:自己満足

 町に戻り、取っていた宿に泊まる。

 チグラスさん達と別れ、宛がわれた部屋に入ると、さっそく相談を始めた。


「それで、どう?」


「どうとは」


「せいれい、いる?」


 今回、探索したのは森のごく一部である。

 ニーシャさんの索敵範囲を考えると、それなりの範囲はカバーできたとは思うが、流石に、それだけで森すべてを見られるわけじゃない。

 隠れていたら見つからないとは言っていたけど、そもそも、相手に隠れる理由がないわけだし、それは考えないものとして、今の状態で、見つかる確率はどれほどのものなんだろうか?


「そいつが誰とも契約していないなら、故郷である森に留まっている可能性はあるだろう。まあ、出てくるかどうかはわからんがな」


「確か、前に王都の近くの森に様子を見に来ていたんだよね? だったら、契約してるってことはないんじゃないかな」


 精霊は、基本的には故郷である場所から離れようとはしない。

 上級精霊にもなると、好奇心から他の場所に出向くこともあるが、それでも、ホームは変わらないはずだ。

 変わるとしたら、誰かと契約していた時だけど、ニーシャさんの話を聞く限り、その精霊は、アルマスさんのことを見に来た可能性が高い。

 であるなら、誰かと契約している可能性は低いだろう。

 もちろん、契約していて、たまたま立ち寄ったのが王都の森だったという可能性もなくはないけど、精霊と契約できる人なんてそうそういないだろうし、いたとしたら、それは幻獣とかの特殊な存在だけだろう。

 精霊と心を通わせ、契約まで持ち込むような人がいるなら話は別だが。


「やっぱり、おくりもの?」


「本人が来るとは思えんが、まあ、森の精霊に話を聞くことはできるだろう。ただ、聞けたとしても、そこの精霊が感じ取った以上のことはわからんと思うがな」


「精霊同士で、馴れ合ってるわけではないからねー。上級精霊なら、多少のお付き合いはあるかもしれないけど、普通の精霊は、たまたま一緒になるくらいしかないんじゃないかな」


 精霊が興味を惹かれるのは、純粋な魔力であり、仲間だからと言って、何か特別な感情を抱くことはあまりないらしい。

 一応、同じ故郷の精霊同士なら、多少の繋がりはある可能性もあるけど、そもそも上級精霊以外は、言葉を発することができない。

 仮に関係があったとしても、その真意を知るのはなかなか難しいだろう。

 結局、探すなら上級精霊を見つけなくちゃいけないわけだけど、贈り物をしたからと言って、必ずしも上級精霊が来るとは限らない。

 ニーシャさんの索敵にも引っかからなかったわけだし、普通にやったんじゃ、無駄に贈り物が増えるだけな気がする。


「なにか、いい、ては……」


「いっそのこと、そこの精霊に変装でもさせたらどうだ?」


「へんそう?」


「どうせ奴は自分だけ精霊に認められていないのが悔しいだけだ。だったら、形だけでも整えてやれば、納得するだろう」


 つまり、ニーシャさんに例の精霊の格好をさせて、無理矢理納得させようって話か。

 流石にそれは、無理じゃないかなぁ。

 アルマスさんは、出会った精霊を青年と称していたし、ニーシャさんは見た目は子供の女の子だから、姿が違いすぎる。

 魔法である程度誤魔化すとしても、限界があるだろうし、流石にチグラスさんだって気づくだろう。

 そもそも、それではチグラスさんが可哀そうだし、できればちゃんと会わせて上げたい。


「どうして貴様は、そう面倒な方向にばかり進むのだ」


「らくなみち、えらぶ、だめ」


「人が言う、苦労は買ってでもしろという話か? 馬鹿を言え、目標のために努力するならともかく、ただの苦労を背負うなど馬鹿のすることだ」


「ちぐらすさん、なっとく、ない」


「知ったことか。そもそも、会って何をするんだ? 馬鹿正直に、あの絵を利用されているが、盗作とは思っていないかと聞いて、精霊がまともに答えると思うか?」


 仮に、精霊に会って、盗作の是非を問いただしたとしても、精霊にとっては、どうでもいいことだろう。

 そもそも、その精霊が絵を描くのは、心の景色を写しているだけで、それに価値を見出そうとしているわけではないはず。

 せいぜい、後から見返して、こんなこともあったなと思い出に浸るくらいだろう。

 そこに、お宅の絵がパクられてますけどいいんですか? って聞かれても、だから? としかならない。

 少なくとも、それは盗作だから、早々に取り下げてほしい、とは絶対に言わないだろう。

 元々、これはチグラスさんの自己満足ではあるのはわかっているが、会ったところでって話ではあるよね。


「精霊を探したいなら、好きなだけ探させてやればよかろう。こちらのメリットが皆無だ」


「でも……」


「あの、それでも探してあげませんか?」


「……ほう、小娘も同じ意見か。何か我らにメリットがあるとでも?」


「メリットはないかもしれませんけど、精霊に触れるのって、凄い新鮮なことだと思うんです。ほら、私は幻獣になったばかりで、他の幻獣について、ほとんど何も知らないですから」


 フェルは、そう言ってニクスを説得する。

 確かに、フェルは幻獣となってから、まだ日が浅い。

 人間時代に出会った幻獣もいるものの、それはごく一部であり、世界から見れば、まだまだ出会ったことのない幻獣はいるだろう。

 精霊は厳密には幻獣ではないが、見たことがないという意味では当てはまるし、フェルとしては、そう言った存在に触れることで、知見を広げたいと言っているようだ。

 説得するにしてはちょっと理由が弱いけど、確かにそれくらいしかメリットがないのは確か。

 順当に問題を解決できれば、アルマスさんやチグラスさんから多少感謝されるかもしれないが、本当にただそれだけである。

 どう考えても、リスクとリターンが見合ってないけれど、でも、人の助けになることは、間違いではないはず。


「……まあ、いいだろう。急ぎすぎてもいけないというのは、白竜のの考えでもある。寿命の問題がなくなった今、多少寄り道するくらいはいいだろう」


「では……」


「だが、やるなら貴様らだけでやれよ。冒険者としての目付け役として一緒にいるくらいはかまわんが、手は貸さんからな」


「ありがとうございます!」


「ありがと。にくす、だいすき」


「……ふん」


 なんだかんだ、ニクスは最終的には頷いてくれる。

 それに甘えすぎるのはよくないけど、これからも何度も甘える羽目になりそうだ。

 せめて、日頃の働きで返して行ければいいね。


「ならば、今日はもう休むぞ。どうせ、朝一で出かけるだろうからな」


「はーい」


「それじゃあ、おやすみなさい」


 それぞれのベッドに潜り込み、目を閉じる。

 結局、具体的にどうしたら会えるのかという方法は浮かんでいないけれど、ニーシャさんの索敵能力があれば、近くに来れば、感じ取ることはできるはずだ。

 一日では無理でも、何日も続けていれば、いずれヒットする日が来るかもしれない。

 早めに見つかってくれたらいいなと思いつつ、眠りにつくのだった。

 感想ありがとうございます。

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