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第十六話:子の成長

 フェニックスのニクスの視点です。

 子は成長するものだ。

 初めから聡い子ではあったが、それでも自然を生き抜くにしては色々と危なっかしくて見ていられないような子だった。

 だけど、ここ十数年でだいぶ見違えたものだ。

 あっという間に我より大きくなってしまったし、狩りにおいても堂に入ったものだ。無駄がない。

 まだ目を離せないことには違いないが、多少は大人として扱ってもいいだろう。

 ただ日々を生き抜くだけというのは退屈なものだ。たまには足を延ばしていろんなものを見聞きするのも悪くない。

 だから、最近はどこに行こうが特に咎めることもなかったのだが、少し厄介なものに手を出してしまったようだ。

 白竜は言った。人間と友達になりたいと。

 この世界で最も多くの数が存在し、膨大な領域を占拠する種族。力はないが知恵が回り、時にはそれでドラゴンすら屠って見せる。

 魔物からすれば、まさに天敵とも言えるような存在だ。

 そんな奴らと友達になりたいなどと、頭がおかしくなってしまったのかと問い詰めたい気分になる。

 もちろん、白竜の事情が複雑なのは理解している。

 白竜は元は別世界の人間であり、その時の記憶があると言っていた。いわゆる転生者というやつだ。

 我も世界中を回ってきた身の上、転生者の存在は知っている。正確には転移者や召喚者と呼ばれるものだが、別世界からやってきた人間というものは存在している。

 彼らは総じて人間であり、ドラゴンに転生するというのは聞いたことがなかったが、似たようなものだろう。

 元が人間であるが故に、人間の怖さを知らない。いや、気づいているのかもしれないが、認めたくないのかもしれない。

 長らく人間の社会で暮らしていたのだ。十年ちょっと程度では、その記憶を払拭することはできないだろう。

 白竜が人間の身であったならそれもいいだろう。むしろ、それが普通だったはずだ。

 だが、今の姿はドラゴン。人間どもからは恐怖の対象とされ、敵視されるべき存在だ。

 いくら白竜が友達になろうとしたところで、拒まれるのは目に見えている。いや、拒まれる程度ならいいだろう。十中八九敵意を向けられ、攻撃されることになる。

 人間は狡猾だ。一度存在を知られれば、討伐するまでどこまでも追ってくるだろう。そうなれば、安寧の暮らしはなくなる。

 だから、人間に関わるのは止めた方がいいと忠告した。だが、あの目は決して諦めていないだろう。

 子供なりの意地なのかもしれない。どんな障害があろうと、必ず意思疎通を果たすのだという強い意志を感じられた。

 我に隠れて町に行っていたことも知っているし、発声練習と称して意味不明な鳴き声を上げていたことも知っている。

 止めようとも思ったが、言って止まるならこんなことはしていないだろう。だから、我はあえて見て見ぬふりをしてきた。

 言ってわからぬなら体感させるしかない。人とドラゴンは相容れぬ存在なのだとわからせなければならない。

 その点では、先の騒動は役に立った。

 魔物に蹂躙される人間どもを助けた対価は、拒絶の言葉。

 人間と友達になりたいとのたまう白竜には、相当堪えたことだろう。あわよくば、これで人間との交流を諦めてくれればいいと思った。

 だが、白竜は折れなかった。再び会えばまた敵意を向けられるかもしれないのに、人間どもの死体を守っている。

 もう、見ていられなかった。


『こんなところにいたのか』


 偶然を装って白竜の下に舞い降りる。


『ニクス……』


 我の姿に目を丸くした白竜はしばし固まった後、慌てた様に取り繕ってきた。


『あ、あの、ニクス、これは違くて! えっと、その……』


『よい。貴様に人間を殺す勇気がないことくらいわかっている。ここにいる意味が何なのかもな』


 ばれていないとでも思っていたのだろうか。人間と関わっていることに酷く焦っているようだった。

 ぴしゃりと言い放ってやれば、しゅんと肩を落として諦めた様に目を伏せている。

 ちらちらと我の方を見てくるあたり、怒られるとでも思っているのかもしれない。

 まあ、言いつけを守っていないという意味では怒ってもいいのだが、どうせ反省などしないだろう。


『白竜の、どうしてそこまでして人間と関わりたいのだ?』


 理屈はわかる。元人間だったから人間に悪感情を抱いていないのも当然だろう。

 だがそれでも、人間がどういう存在なのかは教えているし、先程も人間に拒絶されたばかりだ。

 無理に関わろうとしたところで辛いことしかない。そこまでして人間と関わりたいのはなぜなのかと疑問に思っていた。


『それは……友達が欲しいから……』


『我では不足か? 貴様は我のことを友だと思っているのだろう?』


 我が友と呼ぶ人物は少ない。昔からの付き合いがある幻獣くらいなものだ。

 時折人間の町に降りる時には知り合いもいるが、奴らは友と呼べるような関係でもない。


『そんなことないよ! ニクスは俺の一番の友達だ』


『ならばなぜだ。友を作るにしても、わざわざ人間である必要もあるまい?』


 確かに友が一人だけというのも退屈だろう。時には新たな友を探すのもいいかもしれない。だが、それが人間である必要はない。

 望むなら我が友を紹介してやることも吝かではない。少し距離は遠いが、白竜も常々世界を見てみたいと言っていたことだし、これを機に世界を回ってみるのも面白い。

 害にしかならないし、意思疎通すら難しい人間を相手にわざわざ歩み寄ってやる理由などないはずだ。


『それは……欲しかったから』


『なに?』


『人間の友達というのが欲しかったから。俺は前世で、そんなふうに呼べる人間に出会ったことがなかったから……』


 白竜は生前、会社という組織に属していたのだという。こちらの世界で言うところのギルドや商会のようなものだろうか。

 その中でも白竜はそこそこ高い地位にいて、部下から頼りにされてきたのだという。白竜はそれに出来るだけ応えてきたし、それ故に信頼も厚かった。

 だが、白竜が望んでいたのはそんな関係ではなかったらしい。

 頼り頼られる主従のような関係ではなく、本心を共に明かせるような親友を欲していた。

 そういう意味ではやはり人間にこだわる必要はないように思う。だが、白竜の中では違うのだろう。

 元人間だったという過去はどうしても人間の考えを呼び寄せる。ドラゴンに生まれたところで、白竜が欲するのは人間なのだ。


『だが、今の貴様はドラゴンだ。ドラゴンと人間が相容れることはないと思うぞ』


『そんなの、やってみなきゃわからないじゃないか。言葉さえ通じれば、わかり合えるかもしれない』


『それは貴様を傷つける結果にしかならんぞ』


『それでもいい。俺は友達が欲しい』


 これは白竜の我儘だ。今まで従順に何でも言うことを聞いてきた子供の初めての我儘。

 親代わりの身としては下手に人間と関わって危険な目に遭ってほしくはない。だが、ここまで懇願している子供を無碍に扱うのも、親としてはどうかと思う。

 ドラゴンと人は相容れない。それは白竜だってわかっているだろう。その上で、人間と友になりたいという。

 仕方がない、か。


『そこまで言うなら試してみるがいい。それほどの覚悟があるのならな』


『ニクス……!』


『我は貴様の友として、親として、共に寄り添うと誓おう。困ったら我を頼るがいい』


『あ、ありがとう!』


 心から感謝するように愛らしい笑みを見せる。

 本当は人間と交流する方法はあるにはある。我もそれを利用して人間と交流することはあった。

 だが、それはまだ後でいいだろう。

 せめて、白竜が自ら頼ってくるまでは。

 感想ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
どうなるか……
献身的になっても一度は人間に裏切られて曇らせて欲しいですな
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