第百二十一話:道案内
宴はまあ、楽しかった。
案外、と言ったら失礼だけど、料理はそこそこ美味しくて、思わずバクバクと食べてしまったものだ。
まあ、それでもフェルの料理には負けるけどね。
コロポックル達も気さくな人が多く、俺の体が小さいおかげもあって結構フレンドリーに話しかけてくる人も多かった。
こんなの、元の大きさだったら絶対に味わえない感覚だよね。
彼らの大きさは、俺の元の大きさからしたら爪一つ分程度にも満たない。
そりゃ目の前に何人も通ったら気づくだろうけど、そうでないならこんな森の中で見つけるのはほぼ不可能だろう。
そう言う意味では、この姿でよかったと言えるかもしれない。
まさかとは思うけど、ルーナさんはこれを見越して? ……いや、ないな。
確かにコロポックル達はカーバンクルと共存関係ではないけれど、隣人のような関係のようで、カーバンクルがコロポックルを餌として食べる、なんてことはないようだ。
だから、カーバンクル達はコロポックル達のことを知ってはいると思うけど、害にならない隣人程度のものであって、そこまで興味を惹かれる対象ではないだろう。
ルーナさんも多分知ってはいると思うが、まさか俺がその里に入り込むなんて思っているはずもない。
『それではルミエール様、また機会があればお越しください。歓迎いたしますよ』
『うん、機会があったらね』
宴の間に日は暮れて、外に出ようとしたら真っ暗だったので、結局一夜を明かすことになった。
俺が持っていたニクスの羽根はコロポックルの中でも結構な貴重品のようで、できれば譲ってほしいと言われてしまったので、代わりにコロポックル達の服と武器一式を引き換えに渡していくことにした。
まあ、多分釣り合っていないけど、宴まで開いてもらったのだから、これくらいは問題ないだろう。
ニクスには、飛ばされた時に無くしてしまったとでも言えばいいと思う。
まあ、多分そんな気にされないと思うけどね。
『ルミエール様、こちらです』
『うん。案内よろしく』
翌朝、日が昇ったタイミングで出発する。
ログレスさんは約束通り、湖の場所を教えてくれるようだった。
ただ、ここから結構な距離があるらしく、最後まで付き合うことはできないらしい。
まあ、彼らにも活動範囲というものがあるだろうし、あんまり離れすぎては危ないだろう。それに関しては仕方のないことだ。
案内役の二人が歩き、俺がその後を低空飛行で着いていく形である。
背中に乗せて飛んでいけば早いのではないかとも思ったけど、今の俺の体ではせいぜい乗せられて一人である。
それに、多分一人でも飛ぶのが安定しない可能性もあるので、あえて言いだすことはしなかった。
二人もそれをわかっているのか、それともドラゴンに対してそんなことを言い出す勇気がないのか、特に言い出すことはなかったしね。
ただ、一日経ったとはいえ雨上がりの森である。
ところどころには池のようになった水溜まりがいくつも点在し、なかなかまっすぐ進ませてはくれない。
一応、コロポックル達はそんな中でも移動する術があるのか、葉っぱを船代わりに進んでいくこともあるけれど、この森の葉っぱはそれなりに重いので船にはあまり適さない。
だから結局、ごく短い距離しか使えないので時間がかなりかかることになった。
『ねぇ、その湖までどれくらいかかる?』
『そうですね……普段であれば二日もあれば着けるかと思いますが、こう水溜まりが多いとさらに一日かかるかと……』
てっきり一日もあれば着くと思っていたら、まさかの三日である。
これは流石に予想外だなぁ……。
まあ、小さいイコール移動距離が延びるということでもあるし、仕方ないと言えば仕方ないのだけど、三日も移動するとなるとかなり大変である。
こんなに食料を持っていたのはそのためか。いやまあ、ついてくるのはもっと短い距離だろうけど、そりゃ食料や野宿のための装備は必要だよね。
『大丈夫? 方向さえ教えてくれればこっちで何とかするけど……』
『いえ、きちんと案内します……と言いたいところですが、我々に合わせていてはルミエール様の移動速度が無駄になってしまいますね』
歩きと飛行では飛行の方が圧倒的に速い。それも、ドラゴンの飛行能力ともなれば、人間の何十倍という速さで移動することもできる。
コロポックルもその大きさを考えれば人間と大差はないだろうし、実際かなりスピードを落として飛んでいるから、きっちり案内されると逆に時間がかかる可能性もある。
まあ、確実に帰るのであればきっちり案内してもらった方がいいのは確かなんだけど、三日という時間を聞くとちょっと考えちゃうよね。
『方向としてはあちらです。このまままっすぐ進むことができれば、湖に辿り着くことができるでしょう』
『そっか。じゃあ、ここからは飛んでいくことにするね』
『お役に立てず申し訳ありません……』
『ううん、方向を教えてもらっただけでも十分だよ』
方向さえわかれば、飛んでいく場合なら障害物を気にする必要はあまりない。
まあ、木が巨大だからそれを避ける必要はあるにしろ、そこまで邪魔になることもないだろう。
湖に近づきさえすればフェルの反応も拾えるはずだし、そこまでくれば帰れたも同然だ。
コロポックル達には感謝しなくてはいけないね。
『それじゃ、ここまでありがとう。気を付けて帰ってね』
『はい。ルミエール様もお気を付けて』
コロポックル達に別れを告げ、教えられた方向に向かって飛んでいく。
見た限りでは湖は見えてこないけど、まあ、森の住人であるコロポックルが言っているのだから間違ってはいないだろう。
後は三日かかると言ったところをどれほど短縮できるかだけど、本気で飛べば一日くらいにはできるかな?
この姿で本気で飛んだことはないんだけど、大丈夫かな。
一応現状を確認する。
食料に関しては問題ない。アイテムボックスに色々入っているから、現地調達する必要はない。
雨風を凌ぐのも問題はないだろう。いざとなれば、土魔法でまた簡易的な小屋を作ってしまえばいいのだから。
火も起こせるし、飲み水だって出せる。
なんか、そう考えると俺って結構便利な生き物なのかな。厳密には魔法が凄いってことだけど。
これならば、たとえ本気を出して万が一スタミナが尽きても問題はないだろう。
一刻も早く合流したいし、さっさと飛んで行ってしまおう。
『さて、それじゃあ、勢いをつけて……』
一応、ぶつからないように視界を確保してから、勢いよく飛び出す。
ドラゴンの飛行速度が正確にどのくらいかは把握していないけど、俺の体感だと、本気ならスポーツカーにも負けないんじゃないだろうか。
ここまで速度を出すと、距離が開いていると思っていた木々も結構早く通過することができる。
その度に、当たらないように位置を調整して、というのを繰り返さなければならないのでちょっと大変ではあるけど、慣れてくればゲームをしているようで少し楽しい。
このままスピードを出しまくってハイスコアを狙うのもいいかもしれないね。
『……っと、これはゲームじゃないから』
あんまり調子に乗って木に激突でもしようものならもしかしたら死ぬ可能性もある。
いや、俺の鱗なら多分耐えられるけど、気絶でもしようものなら方向を見失う可能性もあるし、気を付けなければならないだろう。
スピードは出しつつ、でもぶつからないように控えめに。
大丈夫、そこまで急がなくても、そのうち辿り着くことは確定しているのだから問題はない。
流石にルーナさんが帰ってくるまでには帰りたいけど、それにはまだ猶予があると思うしね。
『……うぉっ!?』
そんなことを考えながら飛ぶことしばし。不意に何者かが視界に入り込んできた。
控えめとは言っても、速度はかなり出している。それに、こんな森の中で障害物が飛び出てくるなんて想定しているはずもなく、俺は成す術なくそれに激突することになった。
感想、誤字報告ありがとうございます。




