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幕間:古巣の珍客

 フェニックスのニクスの視点です。

 久しぶりに古巣に帰ってきてみれば、ドラゴンの子供が住み着いていた。

 そんな意味不明な状況に遭遇し、我はしばし状況を理解するのに時間を要した。

 確かに、使わなくなった巣を、後に別の誰かが利用することはあるだろう。

 今までにもそういうことはなくはなかったし、別にそれだけなら珍しくはない。

 ただ問題なのは、それがドラゴンの子供であるということだ。

 ドラゴンという種族は幻獣の中でも相当子煩悩な種族である。

 親のみならず、種族全体で全力で保護するのが基本であり、こうして子供が一人でふらついているなどほぼあり得ない。

 もしあるとしたら、それこそ何らかの理由ではぐれてしまった場合であり、大抵の場合はすぐに見つけられて、親の元へ送り届けられることだろう。

 だから、子供がたった一匹で、こんな場所に住み着いているなど、どう考えてもおかしいのだ。

 事情を聞いてみると、産まれた時から一人きりだったのだという。

 卵泥棒にでも盗まれた? いや、ドラゴンの巣から卵を盗み出すなどできるはずがない。

 ドラゴンの巣はドラゴン特有の魔力が充満しており、それは大抵の生き物に対して威圧を与える。

 人間などならいるだけでも恐怖に囚われ、尻尾を巻いて逃げだしていくことだろう。

 同じ幻獣であれば、ある程度軽減できるかもしれないが、幻獣が卵を盗む理由などないだろうし、本当に謎である。


『転生者、か』


 その謎に迫る理由と思われるのが、奴が別の世界からやってきた転生者であるという点。

 この世界には、確かに別の世界からやってくる者はいる。

 まあ、彼らは転生というより転移と言った方がいいかもしれないが、転移があるなら転生があってもおかしくはないだろう。

 元は人間だったと言うし、別の世界の神が何かしらの干渉をして、こちらの世界に魂を移動させ、肉体を作り出してそれに魂を入れた。そう考えるのが一番丸いだろうか。

 恐らく奴は別の世界では特別な存在だったのだろう。こちらの世界で言う巫女や大神官のような存在だったのかもしれない。


『何かの使命を持っているのか、それとも一時的に魂を保存するためにやったのか、流石に神の思惑は読めんな』


 神は基本的に気まぐれだ。他の世界は知らんが、この世界の神々はたまに地上に干渉しては問題を残していく。

 もちろん、人々にとってはそれは救いでもあるようだから、全く歓迎されていないというわけでもないだろうが、魔物にとってはいい迷惑でしかない。

 というのも、大抵の場合、強力な魔物が現れたから勇者を呼ぶだとか、厄介な魔物が出たから強い武器を授けるとか、とにかく人を贔屓する。

 神のシナリオとしては、魔物を敵役にして人々を発展させるのが狙いなんだろうが、同じ神が作り出した種族だというのに贔屓もいいところだ。

 一部の地域では、未だに幻獣が神聖化されているのがまだ救いか。体よく使われているだけとも言うかもしれんが。

 まあ、それはともかく、ここで放り出してしまっては我の責任となるだろう。だからこそ、我はこのドラゴンを育てることにした。


『幸いなのは、必要最低限の知識はあるということか』


 稀有な産まれ方をしたせいで、奴は親から教えを乞うことができなかった。

 しかし、前世とやらの記憶があったから、ある程度狩りの知識を有していたし、生きるために何をしたらいいかを理解していた。

 だが、確かに大抵のことはできるとはいえ、まだまだ幼いことに変わりはない。

 聞いてみれば、まだ生まれてから半年も経っていないという。

 そんなの、乳飲み子の段階だ。ドラゴンは消化器官が強いから赤子だろうが消化はできるだろうが、普通は柔らかいものや液状のものを食べさせるべきである。

 しかし、奴はすでに慣れてしまっていたのか、普通に狩りをしたり、木の実を取ったりしていた。

 別に生きるだけならそれでも問題はないが、赤子の頃に飲む乳は免疫を上げる効果もある。だから、できることならそれも飲ませなければならない。

 だから、我は知り合いを頼り、乳を入手しては飲ませていった。

 奴は『これ美味しい!』と暢気に笑っていたが、これを入手するのも結構大変なのだ。こちらの気も知らないで暢気なものである。

 まあいい。子は親に甘えるものだし、親は子を守るものだ。育てると決めた以上、これくらいはやらなければならないと理解している。


『さて、どのように育てたものか』


 生憎と、我は子育ての経験はない。

 子を預かったことならあるが、適当に餌を取ってくる程度のものだった。

 だから、どのように育てるのが正解なのかわからない。

 ドラゴンに聞くのが一番だろうが……この辺りでぱっと思いつくのはイグニスか。

 奴は子を持ったことはないと聞くが、果たして役に立つだろうか?

 ……いや、いい。奴に聞きに行くくらいなら自分で考えた方がましだ。

 いい奴ではあるが、子育ての面では役に立たないだろう。

 さて、となると……。


『……ひとまず、様子見が丸いか』


 幸いにも、奴は本当に生まれたばかりである。

 ドラゴンが成体になるには100年近くの時間が必要となるから今すぐに何かする必要はないだろう。

 今は最低限生き抜く術を教えていくのが一番堅実である気がする。


『できることなら、健やかに育ってほしいものだ』


 種族が違うとはいえ、子が可愛らしいのは変わらない。

 成体になればすぐに我など追い抜くほどの巨体になるだろうが、今は吹けば飛ぶような小さな体だ。

 ドラゴンが過保護になる理由もわかる。こんな小さな存在なら、守りたくなるのも当然だろう。

 我は我にできる限りのことをして奴を育てる。これも経験だ。


「きゅぅ!」


『どうした、白竜の。腹でも減ったか?』


 と、そこに件のドラゴンがやってきた。

 ドラゴンにしては甲高い声をしているが、これもすぐに落ち着いた声に変わっていくだろう。

 ドラゴンは舐められるわけにはいかない。声が可愛らしいなんて言う理由で舐められでもしたらドラゴンのプライドが傷つくというものだ。


「きゅぃっ!」


『ほう、連れていきたい場所があると。珍しいものでも見つけたのか?』


「きゅっ!」


『見てからのお楽しみ? はぁ、面倒だがいいだろう、付き合ってやる。ほれ、案内しろ』


 白竜のに連れられて住処を後にする。

 どこへ連れて行く気なのかは知らないが、この森のものであれば我は大抵のことを知っているのだがな。

 まあいいだろう。子が目新しいものを親に見せたがるのは珍しいことでもない。

 もしかしたら、ここ数十年の間に変わっていることもあるかもしれぬし、付き合ってやるのも一興だろう。

 我は翼を広げて住処を飛び立つ。

 さて、何を見せてくれるのかね。

 感想ありがとうございます。

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