幕間:二人でデート
主人公の相棒、フェルミリアの視点です。
私は今、ザナディエルという町にいる。
詳しい場所は聞いていないからよくわからないけど、以前私がいたルクスの町があるラクトー王国とは別の国だと思う。
初めてこの町に来た時、私は思わず感嘆の声を上げてしまった。
元々、冒険者ではあったものの、そこまで大きな範囲を動いたことはなく、ラクトー王国から出たことはなかった。だから、こうして別に国に飛び出してきたんだと思うと思わずテンションが上がってしまった。
こんなんじゃおのぼりさん全開だけど、ルミエールも似たような感じなのかきょろきょろと辺りを見回していた。
なぜ、私がこの町にいるかと言えば、とある事件があったからである。
詳細は省くが、とにかく私のためを思って離れていこうとしたルミエールに強引についてきた形だ。
人間とドラゴンでは住む世界が違いすぎる。だから一緒にいるべきではないというのはわからないでもない。
だけど、すでにその時、ルミエールは私にとってなくてはならない存在になってしまっていた。
散々渋られたけど、ルミエールの親であるニクスさんも手を貸してくれるということになり、結局ルミエールは私と一緒にいることを選んでくれたというわけだ。
あの時は嬉しかった。求愛もどきをされるくらいには交流を深めていた自覚はあったけど、まさかそんな無理難題を解決する方向で動いてくれるだなんて思わなかったから。
その結果、ニクスさんの正体がフェニックスであるということだったり、ルミエールは人の姿にもなれ、さらにその姿が年端も行かない幼女であるということだったり、割と衝撃的な事実を知ることになったけど、今ではいい思い出である。
「さて、しばらく待っていろと言われたけど、どうする?」
この町に来た理由は、私の修業のためだ。
ドラゴンと人間では住む世界が違いすぎる。その差を埋めるためにも強さは必要であり、それは今の私にはないものだった。
だからこそ、ダンジョンがあり、多くの魔物と戦えるこの町へやってきたというわけだ。
修行はかなり厳しく、寝る間もないくらいだけど、それでも私はこの生活を気に入っている。
だって、このまま頑張っていけば、ルミエールと一緒に暮らすことができるというご褒美が待っているから。
でもまあ、流石に連日の連戦で疲労がとんでもないことになっているから、こうしてニクスさんに用事ができて、図らずとも休息日になったのは運がよかったと言えるかもしれない。
「ねる?」
「うーん、それもいいけど、せっかくなら外に行きたいかな」
ニクスさんは一人で用事をしに行ったらしく、今は私とルミエールの二人だけである。
こうなってくると、せっかくだからルミエールと一緒にいろんな場所を見てみたいと思っていた。
確かに、連日の疲れによって体の調子はそこまでよくないかもしれない。けれど、ここを逃したらルミエールを独り占めにできるタイミングはないかもしれない。
流石、親というだけあってルミエールはニクスさんにかなり懐いている。理不尽な命令をされても淡々とこなすし、絶対の信頼を置いているって感じだ。
もちろん、私に対してもかなりの信頼を置いてくれているのはわかるけど、親と友達ではやはり親には勝てない。
だから、今のうちにルミエールとデートしたっていいでしょう?
「だいじょうぶ?」
「うん、大丈夫だよ。ルミエールは行きたいところある?」
「んー、とくには」
「じゃあ、適当にショッピングでもしようか」
私のことを気遣ってか、ルミエールは少し乗り気でなさそうだったけど、私が外に出たいと言ったら特にぐずることもなく頷いてくれた。
子供のドラゴンだとはわかっていたけど、人間に換算するとルミエールはかなり幼いらしい。
大体5歳くらいだろうか、不思議な布地の服を着ているけど、どうやらこれは魔力で作っているものらしい。
色々と着せ替え人形にして遊びたいところだけど、そう言う能力を持っているとやりづらいよね。
一応、留守の間はこれで何とかしろと結構な大金を渡されているから、買おうと思えば結構いろんなものが買えるのに。
「ふぇる、まもる」
ルミエールはそう言って私の手を取ってくれる。
その姿は、姉にいい格好を見せようと頑張る妹のようにしか見えなかった。
ルミエールと姉妹か、それはそれでありかもしれない。
思わず想像してしまったが、子供の成長は早いというし、恐らくすぐに抜かれることだろう。
私の身長はそこまで高い方ではないしね。
「いろんなものが売ってるね」
「うん」
さて、さっそく外に出てみたわけだが、この町はダンジョンで栄えているというだけあって、ダンジョン入り口にある出店の他にもダンジョン関連のものが多い。
武器屋や防具屋、雑貨屋など、どこを見てもそれらしい店ばかりだ。
でも、少し大通りまで行って見ると、別の店も増えてきて、軽食を扱う店も出てくる。
歩いているだけでも、いろんないい匂いがして結構楽しめる。
せっかくだし、何か買っていこうか?
「ルミエール、何か食べたいものある?」
「んー、やさい?」
「や、野菜?」
何を希望するかと思ったら、まさかのチョイスだった。
確かに、野菜を扱う店もないことはないが、それはまんま野菜であって、軽食というわけではない。
少なくとも、料理しなければ苦くてまともに食べることはできないだろう。
なんでそんなものを欲しがったんだろうか?
「いつも、にく、だから、やさい」
「えっと、お肉が嫌いになったの?」
「ちがう、ばらんす、だいじ」
どうやらあんまり肉だけ食べすぎるとバランスが悪くなるらしい。
何のバランスが悪くなるかは知らないけど、いろんなものを食べてみたいということでいいのかな?
そう言うことなら、何か料理をしてみようか。
一応これでも、パーティメンバーの中では料理番を務めていたのだ。それなりに料理のレパートリーはある。
と言っても、そんな本格的なものは作れないけど。
「それじゃあ、いくつか野菜買っていこうか」
「うん」
すでにお昼は食べているから作るとしたら晩御飯かな。
ニクスさんは数日は戻ってこないと言っていたので、しばらくはルミエールと二人っきりの晩御飯である。
ニクスさんも私の料理の腕は認めているらしく、調理を任されるくらいには信頼されているけど、あんまり笑ったところを見たことがないのが気になる。
まあ、結構厳しい人だから安易に笑顔は見せないのかもしれないけど、ちょっともったいないよね。
なにせかなりの美人だ。私なんか足元にも及ばないくらいの。
きっと微笑むだけで何人もの男性が釣れることだろう。ハニートラップは女の武器とまで言う冒険者もいるくらいなのに、それに頼らないのは流石だなと思う。
まあ、実際は単純に人間を信用していないからみたいだけどね。
「ふぇる?」
「あ、何でもないよ。行こうか」
少し考え事をしていたらいつの間にか足を止めてしまっていたようだ。
手を引くルミエールが不思議そうに見ているのを手を振って返して、また歩みを再開する。
この先、ニクスさんが戻ってくれば再び地獄の修業の日々が再開されることだろう。
だけど、それは私にとってどうしても必要なことなのは理解している。
だからこそ、絶対に強くなってルミエールの隣を勝ち取るのだ。
そんな思いを胸に、町を歩いて回るのだった。
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