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第九十七話:金の亡者

 翌日。まだ残党がいるかもしれないと昨日は受付の建物に泊ったが、特にダンジョンから魔物が溢れ出すこともなく、何事もなく夜を明かすことができた。

 朝になってから数名がダンジョン内に潜って調査もしたが、それでも生き残りを見つけることはできず、スタンピードは完全に収束したとみていいだろう。

 まあ、また後で詳しく調査する必要はあるだろうが、とりあえずの脅威は去ってほっと一安心である。


「ニクス様、この度は守護者の討伐を請け負っていただきありがとうございます。もしニクス様がいなければ、この町は大変な被害を被っていたことでしょう。深く感謝いたします」


 そう言って頭を下げるメリアさん。

 今回のスタンピード、かなり動きが早かったらしい。

 本当なら、スタンピードの兆候が見られた時点で対策を行い、間引きや防衛のための戦力を整えたりするので、たとえ起こったとしてもそこまで大きな被害にはならないようだが、今回はかなり唐突にスタンピードが始まったこともあって後手に回ってしまった。

 というのも、スタンピードの兆候である初心者殺しの報告はよく上がっていたが、それで間引きのために送り込まれる冒険者の数が少なく、あまり間引きがうまくいっていなかったこと、さらに言うなら、一時ダンジョンを閉鎖してきちんと調べるところを収入が減るからと町から認められなかったこともあり、正確な魔物の数を調べられなかったことなどが重なり、結果としてこの唐突なスタンピードを引き起こしたわけだ。

 今回の件で誰が悪いかと言われたら、町を運営している町長だろう。

 ダンジョンで栄えている町なのだから、ダンジョンの入場を制限したら収入が減るというのはわからないでもないけど、言うなればそれはメンテナンスを怠っているということである。

 公共施設とかに置かれている消火器とかだって、いざという時に使えなければ意味がないだろう。だからこそ、定期的にメンテナンスが行われ、必要とあれば取り換えられたりするわけである。

 いくら数十年もの間スタンピードが起きなかったとは言っても、だからと言って今後も起こらない保証なんてない。

 それを甘く見て、メンテナンスを怠り、さらに言えばメンテナンスを行う人員すらも削減していたのだから起こるべくして起こった災害だと言える。

 そもそも、ニクスがダンジョンマスターを倒す依頼を受けた後も報酬をケチったり、案内役の貸出料を払えと言ってきたり、とにかく金のことしか考えていないのがよくわかる。

 恐らく、町のことよりも金の方が大事なのだろう。いったいどんな奴なのか顔が見てみたいところだ。


「ところで、案内役の方が見当たりませんが、どちらに?」


「そんなものはいない。案内役が欲しければ貸出料を払えなどと寝言を言っていたから自力で探しただけだ」


「それは……申し訳ありません。まさかそこまで不快な思いをさせてしまうとは……」


 確かに、役場に行くように言ったのはメリアさんだし、あんな目に遭ったのはメリアさんのせいと言えなくもないけど、呼びつけたのは向こうだし、メリアさんは全く悪くないと思う。

 というか、そんな大事な交渉の場で自分で言うのではなく部下に言わせる当たり、こちらを舐めているのがよくわかる。

 二コラさんには同情するよ。


「元々期待していないから問題ない。それより、面倒事を相手にする覚悟をしておいた方がいいぞ」


「? それは一体……」


「噂をすれば来たようだな」


 ニクスはそう言って町の方を見やる。

 そこには、数人の人物がこちらに歩いている場面が見て取れた。

 そのうちの一人は二コラさんらしい。そして、中心を歩くのは、やたらと宝飾品を身に着けた背の低い男だった。

 それを見て、メリアさんは居住まいを正して頭を下げる。

 その態度から偉い人なんだとわかるけど、誰だろう?


「メリア、貴様何をやっている!」


 到着するや否や、成金趣味の男はメリアさんを怒鳴りつける。

 その叫び声に何事かと冒険者達が集まってきたが、誰も事情を理解できていないらしい。首を傾げながら遠巻きに見守っている。

 いきなり来て怒鳴りつけるとかいったい何なんだ。俺はフェルを庇うように少し前に出ながら様子を見る。


「この惨状はなんだ!? 魔物が急に溢れ出して店がめちゃくちゃにされたとクレームがあったぞ! 貴様がいながらなんという体たらくだ!」


「……申し訳ありません」


 唾を飛ばしながら怒鳴りまくる男。

 二コラさんが付き従っているのを見るに、もしかしてこの人が町長だろうか?

 ただただ頭を下げているメリアさんに町長らしき男はなおも怒鳴りつける。


「しかも無断で別の町の冒険者を呼びつけたそうだな。しかも町の経費として! 貴様町の金を勝手に使うなど何をしたかわかっているのか!?」


「スタンピードによる緊急事態でしたので……。それに、スタンピードによる被害が出た場合、報酬は町が払う決まりとなっています。ですから……」


「貴様の言い分など聞いていない! 私は貴様が町の金を無断で使ったことを問いただしているのだ!」


 メリアさんの言い分を聞く限り、町のお金を勝手に使ったというよりはこういう場合の報酬は町が払うことになっているようだから別に勝手に使ったわけではなさそうだけど……頭に血が上っているのかそれに気づいていないらしい。

 流石は金の亡者というべきか、金に対する情念は相当なもののようだ。

 ちらりと二コラさんの方を見てみると、冷や汗を流しながら申し訳なさそうな顔をしている。

 無茶なことを言っている自覚はあるのだろう。二コラさん以外の職員っぽい人達も似たような表情をしていた。


「無断で呼びつけた冒険者への報酬、それに被害を受けたという露店を始めとしたダンジョン設備の復興、これにどれだけの金がかかると思っている!? なぜスタンピードなど起こした!?」


「……それに関しては、Sランク冒険者に依頼しました」


「はっ、こうしてスタンピードが起こるまで解決できなかったところを見るにSランク冒険者というのもただの肩書だけだろうよ。このような惨事を引き起こしておいてさらに報酬を貰おうとしているなどばかばかしい。むしろ賠償金を払ってもらいたいくらいだ」


 ついにはニクスのことすら馬鹿にする始末。

 なんかもう、呆れてものも言えないね。


「ニクス様はきちんと守護者を倒してくれました。正当な報酬は支払うべきかと」


「何が正当な報酬だ! そもそも、案内役もなしに守護者を倒せるものか。あそこには案内役がいなければ入ることすらできんのだからな。当然、銅貨一枚たりとも払わんからな!」


 あれだけ報酬をケチっておいてさらに踏み倒そうとするとかどんな頭してるんだろう。

 この分じゃ、復興にかかる資金も払う気はなさそうだ。

 本来なら、ダンジョンに関わる資金は町が払うべきものなんだろうけど、冒険者が勝手にやったことだから、とか言って踏み倒そうとするだろうね。

 町長だから町のことに関しては自由に決められるんだろうけど、これに関してはもはやただの暴君である。

 一言言ってやろうと思ったけど、ニクスが手で止めてきた。

 関わるなってこと? 確かに上司から理不尽なことを言われるのは慣れているけど、これに関しては一言モノ申してもいいと思うんだけど。

 あまり納得できずにむくれていると、メリアさんが顔を上げた。

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