第6話『静かな庭』
※5.5話に、補足としてスキル検証や入手の流れをあげています。読まなくても本編に支障はありません。
『いくつか検証することで、「逃走手段」と「対抗手段」を確保することができた。
次に探すべきは、安全で落ち着ける場所だ——』
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警戒を怠らず、洞窟内のゆるやかな傾斜をゆっくり下っていた。
足元には細かい砂礫が混じり、踏むたびに乾いた音がして、緊張が走る。
石壁から染み出した水分はところどころで光を反射し、鼻先に湿気を感じる。
しばらく進むと、前方にかすかな青白い光が見えてきた。
——そこには、密閉感のあった道中とは異なり、静かで整った印象の人工的な空間が広がっていた。
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洞窟の出口に《刻印の刻まれた石柱》が一つ立っているが、相変わらず何を書いているか分からない。
そこから、開けた空間全体を眺めてみる。
中央付近に、白灰色の石造りの円塔が一本、静かに建っている。
その塔から外周へ向けて、滑らかな白石材が放射線状に敷かれており、その上に低い柱が規則的に設置されている。
地面には幅の狭い水路が交差し、床材の間から小さな光の反射が見える。
天井付近には凹凸のない石材が組まれていた。
周囲の様子を伺いながら中央の円塔へ近づいてみるものの、生き物の気配は感じなかった。
観察しながら建物の周囲をぐるりと回ってみる。
基部はやや太く、外壁は装飾のない白灰色の石材で整えられているようだ。
「──今のところ危険は無さそう、か。
ついでに、何か役立つ情報があればいいんだけどな…」
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石造りの扉の上部に設けられた小窓から入ると、内部の空気はひんやりとしており、静けさに満ちていた。
1階は円形の広間になっており、床の中央には幾何模様を刻んだ石のタイルが敷かれている。
壁面と天井は白灰色の石材で構成され、均一に整えられていた。
足元から頭上まで視線を移しながら、壁の継ぎ目や構造の不自然さを探すが、特に重要な情報があるようには見えない。
中央に立って上を見上げると、最上部に吊られた鐘の一部が視界に入った。
壁面沿いの通路の奥に上階へ続く螺旋階段があったため、2階へ進んでみる。
2階は、建物内周に沿って回廊のような通路となっており、中央の吹き抜けを見下ろす形になっていた。
外壁側にいくつか小部屋が並んでおり、各部屋の内部をくまなく確認していくが、特に違和感がない。
さらに階段を上がり、3階へと足を運ぶ。
そこには中央吹き抜けがあり、わずかな手すりが設けられていた。
吹き抜けを見下ろしながら、下へ向けて「おーい」と声を出してみると、
塔全体に音が広がり——数拍遅れて、澄んだ残響が返ってきた。
「ハァ…誰もいないのか…」
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収穫がないまま、1階の円形広間へ降りてきて、改めて壁や床を観察する。
爪でカリカリと表面を触ってみたり、ウロウロと角度を変えて見上げてみたりするが、やはり有益な情報は見つからなかった。
「結局、何も得られず…」
そう呟いた時だった。
──コツ──コツ──。
硬質な足音が、背後の階段からゆっくりと響いてきた。
「……!」
息を飲み、慌てて警戒態勢を取る。
通路から出てきたのは一人の人間だった。
白いマントローブに薄紫色の髪。瞳には文様が淡く浮かんでいる。
『人間…?ここで何を…!?…いや…そもそも…』
──上には、誰もいなかったはずだ。
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身体強化系:《高速木登り》《高速滑空》
便利系:《サーチ》《鑑定》
皮膜系:《収納膜》
尻尾系:《ファントムテール》
肉球系:《ジャンプスタンプ》《ショックスタンプ》
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次回2025/7/25、7話を更新予定です。