第33話『クレーム対応』
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巡る霊脈の地にて──。
俺は尻尾を左右に揺らしながらリディスの住む小屋へと歩み寄り、魔力を込めた手で勢いよくドアを押し開けた。
「おい、リディス!!」
「うわぁっ!」
机に向かって作業をしていたリディスはわたわたと振り返り、眉をひそめる。
「なにするんだ、ドアに跡がついたじゃないか」
ドアについた肉球型の跡を横目に、ズカズカと中へ入り込みながら答える。
「悪かったよ」
そのまま机の上にぴょんと飛び乗り、仁王立ちをしてリディスを見据えた。
「どうしたんだ急に」
鼻息を荒くして答える。
「どうしたもこうしたも、思い当たるフシがあるんじゃないのか?」
リディスは肩をすくめた。
「何のことかわかんないぞ」
「とぼけるなよ……。
鉄殻の墓所に行ったんだがな。
木に登って周囲を確認してたら、いきなり眠くなって、突然意識を失った。
ラースが助けてくれたからよかったが、危うく地面に叩きつけられて死ぬところだ!」
リディスの瞳が大きく見開かれる。
すぐに平静を装うように口元を引き締めるが、その声には微かに心配の色が滲んでいた。
「そ……それは、少し危なかったな」
「少しじゃない。死ぬところだ。
眠くなったのは毒のせいだろ。
お前、大丈夫だって言ってたよな。
それに、俺には分かるんだ……お前のくれた指輪、効果ないだろ」
リディスは手を止め、少し間を置いてから言葉を選ぶように返す。
「ふぅ……クロ、ちょっと待て。落ち着いてくれ。
こういうのは、事実確認が大事だと師匠から言われているからな」
「師匠……? 師匠がいるのか……?」
「今はもういないぞ。
いいか、まず、今の話だけじゃ毒のせいとは言えないな」
「なんでだよ! 鉄殻の墓所は毒地帯なんだろ。
眠り系のマヒ毒だって言ってたよな」
「そうだぞ」
「じゃあ毒のせいじゃないか!」
リディスは首を振り、少しだけ声を落とした。
「冷静に考えてみろ。そうとは限らないぞ。
最近おまえ……。
睡眠は足りてたのか?」
ふよふよと浮いていたラースが答える。
「確かに睡眠は大事ですね」
「十分寝てるって!」
「急に眠くなることは誰にでもあるぞ。
ごはんを食べすぎたんじゃないか」
「そんなレベルじゃないんだって。
ごはん食べてから時間も経ってたよ」
ラースが小さく光を瞬かせる。
「そういえば、たくさん食べてました!」
「どっちの味方だよ! それでもそんなすぐ眠くならないだろ?」
リディスは思いついたように人差し指を立てる。
「あっ、分かったぞ。
あれだけ言ったのに、現地の貝を生で食べたな?」
「食べてないって! そういうことじゃないんだって!」
よく分からない質問が続くせいで、自然に声が荒くなっていく。
「まぁ落ち着けって。これはあくまで情報を整理してるんだぞ。
……そもそも本当に装備してたのか?」
「装備してて効果がなかったからここに来てるんだろ!」
「じゃあ登った足場に問題は無かったのか」
「足場は関係ない! ね・む・け・で! 足がもつれたんだよ!」
ラースが静かに光を揺らしながら言葉を添える。
「クロ、落ち着きましょう。これは単なる事実確認なんですから」
いつもと変わらない調子のラースを見て、少しだけ平静を取り戻す。
ふぅ──確かにそうだ。うん、まずは落ち着こう。怒鳴ったって仕方がない。
「普段から足がもつれることはないのか?」
「いやだからさ……。
足がもつれたのが問題なんじゃなくて、眠くなったんだって……」
「なるほど。ただ、運動しすぎると眠くなるらしいぞ」
「そりゃそれなりに動いてるけど、いつもと変わらないはずだ」
「本当にだめだったのか? もう一回装備して行ってきたらどうだ?」
「何言ってんだ! だめなら死ぬ可能性があるんだぞ! しかも遠すぎるだろ!!」
怒りのあまり尻尾が逆立ち、勢いのまま机をバンッ!と叩いた。
ラースがふわりと浮き上がり、優しく明滅する。
「クロ落ち着いて。これは再現性の確認だと思われます」
柔らかな雰囲気が場を包み、胸の熱がすっと引いていく。
そうだ、ちょっと質問しているだけじゃないか──。
逆立っていた尻尾は力なく垂れ下がる。
リディスは少し考えるように視線を落とし、やがて口を開いた。
「……確かに危険だな。
じゃあ、指輪を落としたりぶつけたりして、壊してないか?」
「どこにもぶつけてないって。見ればわかるだろ」
「疑ってるんじゃなくて、事実を確認してるだけだ」
「どんだけ確認するんだよ!!」
声を荒げると、リディスは肩をすくめて息を吐いた。
「まぁ待て。
俺も忙しいから、すぐに対応できるわけじゃないんだ。
一回預かってもいいか」
「預かるって、どうしてだ」
「指輪の状態の確認から、刻印の摩耗具合、魔力の流れの偏り、素材の劣化状況……。
そういうのを順番に見ていく必要がある」
「そんなに大変なのか?」
リディスは指を折りながら淡々と続ける。
「他にも、毒耐性の符号が正しく刻まれているか、外部から干渉を受けていないか。
古い文様が残っていないか。
魔力の残量を測るだけでも、符号を照合して、記録を書き取ったり、複雑な手順が必要なんだ」
「聞いてるだけで面倒くさそうだ……。
どれくらいかかるものなんだ」
リディスは少し顎を上げて答えた。
「周囲のルーミナ菌が明るくなって、暗くなるまでを1日として……。
今から作業に集中しても、半日くらいかかるぞ」
「お、おぉ。そんな面倒なのか……」
「面倒だから、預かってやるんだ」
「つまり、待つしかないってことか」
「そういうことだ。大人しく外で待っていてくれ」
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便利系:《サーチ》《鑑定》
皮膜系:《収納膜》《防御膜》《隠密膜》
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肉球系:《ジャンプスタンプ》《ショックスタンプ》《エアスタンプ》《ヒールスタンプ》
ヒゲ系:《ウィズセンサー》《ウィズスピア》
ラースのパーツ:
《言語パーツ》《通信パーツ》《観測パーツ》
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次回2026/1/24、0:05頃、次話を更新予定です




