第18話『エコローム②』
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入り口近くに単独で浮遊している、小型のエコロームで実験を開始することになった。
ラースは離れた場所に留まり、観察している。
クロは小声で「…おーい」と言いながら、少しずつエコロームに近づいていくが、反応する様子は見られない。
かなり近づいた後、小石をポイと投げてみた。
すぐそばの地面にコンと当たるものの、小石を攻撃する様子はない。
『単純な音だけに反応しているわけではないのか…』
次は大胆に、勇気をもって、エコロームに石を投げつけてみることにした。
「…エイッ!」
ちゃぽんと音を立ててエコロームに命中した石は、そのまま沈んでいく。
石は水球の下部からポトリと落ちて、地面でコツンと音を立てたが、エコロームの反応はない。
『うーん……全く反応がない。分からん。
まさか寝てるのか、こいつ……?
……ちょっと、ラースに協力してもらうか。』
手招きすると、ラースが無音でふよふよと近づいてきた。
なんとなく、エコロームが攻撃してきそうな距離で止まってもらう。
もう一度小石を拾い、無造作にラースのすぐ近くの地面にポイと投げてみた。
地面に当たり乾いた音を立てた瞬間──エコロームの水棘がラースに襲い掛かった。
慌てふためいて距離を取り、回避するラース。
"自分のせいでラースが攻撃された"と思い、少しだけ尻尾が逆立つ。
『…すまんラース…!』
身振り手振りで謝りながら、もう一つだけ実験するため、ラースを手招きした。
ラースは一度だけくるりと回転して、静かに近づいてくる。
今度は、自分の真横で浮いてもらい、エコロームが自発的に“検知”するまで待つことにした。
しばし待っていると、エコロームがしゅわしゅわと泡を立て始める。
クロはいつでも回避できるよう身構えたまま、緊張を高めていく──
水面でふいに、パチン!と泡が弾けた瞬間、ラースはすでに逃げ出していた。
泡の破裂と同時に生成された水棘は、クロの横をかすめ、すべてラースに向かっていく。
再び背中に水棘を受けながら、ラースは必死にエリアの入り口へ向かっていった。
クロはそっと息をついた。
『おぉ…《隠密膜》、効果バツグンじゃないか。
一度戻って、作戦会議だな。』
再び入り口付近に戻り、状況を整理する。
「新しいスキル《隠密膜》の効果は、"音・振動・魔力痕跡の抑制"らしい。
スキルを使っている間、エコロームは感知できないようだった。」
ラースはくるくると回り続けている。
「はい。クロを無視して、明確に私だけを狙っていました!まったく、ひどいですよね!
またエコロームは、音を発生させた小石ではなく、周囲のものを攻撃しているようです。
しかも、地面や壁、小石には攻撃をしていません。
あくまで推測となりますが、エコロームの攻撃対象は"音の発生源付近の、自然物以外"の可能性があります。」
「うーん…そうなのか…?
…でも、初めにルミラビが叫んだとき、俺たちは攻撃されなかったよな。
叫び声は、俺たちで"反響"してるはずなんだよ」
ラースは考えるように明滅している。
「理由は分かりません。これも推測となりますが…
距離や、エコロームの状態──例えばルミラビに対する捕食行動中であったことや、
エコロームが攻撃可能な水棘の本数の限界であったこと、など、様々な可能性があります。
…もしも付近にたまっていた水が全部エコロームだった場合、襲われていたかもしれませんね!」
クロはその言葉を受け、思わず周囲の水たまりへ視線を向けた。
静かな水面が、急に不気味に見えてくる。
「…付近の水…?
ひょっとして…そのへんに溜まっている水にも、エコロームが潜んでいるんじゃないか…」
『…隠密膜のおかげで攻撃されることは無さそうだが、この先ずっと安全が保障されるわけじゃない。
千里眼で見つけられない敵を検知する手段が"必要"だな。』
イメージとしては、千里眼を強化したもの。
水の中に潜むような、"見えづらいもの"を正確に検知する必要がある──
目や耳、鼻などに集中して意識を高めていくが、スキルを獲得する気配がない。
手、指、皮膜…どこに集中しても、ピンとこない。指先、毛、尻尾…
…今、獲得することはできないものなのかもしれない…
そう思い始めたとき、ヒゲ先から伝わる感覚が鋭くなっていることに気が付く。
ヒゲ先を探るように動かすと、付近の気圧や、微細な魔力の流れのようなものを感じる。
視界に広がる千里眼のグリッド上に、ヒゲ先から伝わる周囲の感覚を乗せた時、脳内に声が響き渡った。
**《ウィズセンサー》──発動。魔力濃度、気流、気圧の感知**
エリア全体に格子模様が広がっていき、同時にヒゲ先で感じる魔力も視覚化されていく。
「いるじゃん…」
エリア中央に目を向けると、水の中に異なる輝度を放つ球体がいくつも漂っていた。
また、よく観察してみると、エコロームは中心部に一際輝く鉱石のようなものを持っているようだった。
『あの輝き…あれを破壊すれば倒せるのかもな』
「さて。あとは、中央部の巨大な水球の中にある《機械のパーツ》をどうやって奪い取るか、だ。
俺にできることは、高度から魔力を込めた《ショックスタンプ》を叩きつけることだけだが…水の塊に通用するのか分からないんだよな。
一旦、小さいやつに通じるか、試してみるか」
「私は水棘を受けてもダメージがないようなので、少し気を引いておきましょうか!」
ラースは楽しそうに明滅している。
「そうだな…《隠密膜》もどこまで通用するか分からないし…念のために、"囮役"を頼めるか?
ラースも、"取り込まれて出れなくなりました"とかならないよう、ちゃんと避けるんだぞ」
「もちろんです!全て避けて見せましょう!」
クロは、『いやさっき全部喰らってたじゃん…』と内心で突っ込みながらも、次第にラースを"頼れる仲間"として認識し始めていた。
******
中央にいる巨大な《エコローム》の中に《機械のパーツ》が存在している。
振動する魔力を叩きつけるスキル、《ショックスタンプ》がどこまで通用するのか──
まずは小さい敵で試す必要がある。
「柱の近くに、単独で浮遊してるヤツを探すか…」
《千里眼》のグリッドと《ウィズセンサー》の感覚が重なり、視界には魔力が網のように広がっていた。
《隠密膜》を展開して、気配を完全に遮断したまま、静かに洞窟の中央へと進んでいく。
柱の傍に単独で浮かぶ、比較的小型の──といっても十分巨大だが──《エコローム》を発見した。
周囲には他の個体の気配はない。
『よし…条件は揃った。こいつで《ショックスタンプ》を試してみるか』
エコロームを見下ろせる位置まで柱に登り、拳に魔力を込めていくが、エコロームは反応する気配を見せない。
予定通り、クロは、囮役の開始を合図した。
ラースは一回転して応え、エコロームと距離を取りながら、無音で周回を始める。
そして、タイミングを見計らって、声を上げ始めた。
「地域住民の皆様!大変お騒がせしております!私、ラースと申します!ただいまより、命をかけた囮ショーを開始いたします!皆様には、今しばらく私の音声にお耳をお貸しいただけますと幸いです!」
突然の叫びに、思わずクロは吹き出した。
その声に反応したエコロームは、即座に無数の水棘を生成。
周回するラースに向けて、容赦ない攻撃を繰り広げていく。
ラースは器用にかわしつつ、時折水棘を喰らいながらも、叫び続けていた。
「本日は晴天なり!水球日和でございます!私がラースです!本日の目玉は、私が何発水棘を喰らうかでございます!あっ、痛い!まだまだいけます!皆様、どうぞご安心ください!正直、効いていません!」
叫びながら周回を続けるラースに、イラついたかのようにエコロームの攻撃は苛烈さを増していく。
その異様な光景に、周辺で休んでいたアクアフォクスたちも目を丸くして見上げていた。
「本日も鋭く、速く、あっ、痛っ!でもまだ笑顔です!よろしくお願いいたします!!」
呆気に取られていたクロはふと我に返った。
『…よく分からんが、完璧な囮だ…!すごいぞ、ラース!』
拳に魔力が満ちているのを確認し、《ジャンプスタンプ》で柱を蹴り出した。
エコロームに向けて飛びながら、《ショックスタンプ》の発動を確認すると、僅かに掌がバチバチという音を立てていることにきづく。
《隠密膜》で隠せているのか不安になった、その瞬間──
2本の水棘がクロに向けて放たれた。
『うっ、バレてる!』
空中で一度、二度と体を捻り、水棘をかわしながら、エコロームへと突っ込んでいき、《ショックスタンプ》を叩き込んだ。
ラースは、ノリノリで叫んでいる。
「さぁ!今フィナーレです!!」
魔力を帯びた拳が水球の表面に叩き込まれた瞬間、「ズバァン!」という重低音が空間全体に響き渡った。
衝撃がエコロームの身体を揺らし、広範囲の水が爆ぜ、飛沫が弾ける。
だが、拳はコアに届かず──あとわずか、というところで止まったかに思えた。
目の前で水棘が生成され始めた瞬間、クロの身体が無意識に反応する。
《エアスタンプ》で背後の空気を蹴り、クロの体は弾かれるように水の中を加速した。
衝撃とともに拳がコアに叩きつけられ、「パキン」と硬質な音を立てて、コアが砕け散った。
その瞬間、エコロームのかたどる魔力の輪郭がほどける。
水の塊は重力に従って落下し──「バシュアッ…!」という鈍い破裂音と共に、地面に広がった。
そのままふわりと滑空し、クロはラースのもとに着地した。
「作戦成功ですね、クロ!」
「ラースの“囮”がなかったら、危なかったよ。助かった。
…“痛っ”とか言ってたけど、大丈夫か?」
「あれは冗談です!どこも問題ありません!」
くるくると回るラースを見て、クロは息を吐いた。
「……でも、今回はギリギリだった。
コアには届いたけど、中央のやつはデカすぎて、ちょっと厳しいかもしれないな」
ラースは明滅しながら答える。
「さきほどクロが攻撃した直後、水球の形状は即座に元に戻るわけではありませんでした。
時と共に回復すると思われますが、何度か攻撃してみることは有効かもしれませんね。
試してみる価値はありますよ!何事も、迷ったらまずやってみることが大切です!」
ラースの前向きな言葉に、クロは目をぱちくりとさせた。
「そうだな…とりあえず、やってみるか」
視線を中央の巨大な水球に向け、クロはゆっくりと歩き出した。
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身体強化系:《高速木登り》《高速滑空》《千里眼》
便利系:《サーチ》《鑑定》
皮膜系:《収納膜》《防御膜》《隠密膜》
尻尾系:《ファントムテール》
肉球系:《ジャンプスタンプ》《ショックスタンプ》《エアスタンプ》
ヒゲ系:《ウィズセンサー》
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次回2025/10/17、19話を更新予定です




