第17話『エコローム①』
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青白く煌めく神秘的な空間には、大小さまざまな水球が無数に浮遊していた。
それら──響震の捕食者、《エコローム》は、周囲の生物を静かに取り込み、溶解し吸収しているようだった。
ラースに目を向けると、音も光も発さず、空中でぴたりと静止している。
『…ラース…器用なヤツだな…。
だが、この敵──《エコローム》は、無差別に襲ってきているわけじゃなさそうだ。
ルミラビの鳴き声、叫び…つまり“音”に反応していたように見える。
入り口で襲われなかったのは、検知範囲の外だった、ってことか……?』
少し考えたのち、クロはゆっくりと身振り手振りでラースに対し、エリア入り口へ戻るように促す。
ラースは理解してくれたようで、一度だけ静かに回転し、ふわふわと移動を始めた。
目を凝らすと、周囲の煌めく水球の中には、何かの生物の断片や千切れた器官のようなものが浮かんでいる。
先ほどまで幻想的に見えていた光景が、一転して異様なおぞましさに変わり、背筋が冷えていく。
漂う水球から可能な限り距離を取り、音を立てないよう細心の注意を払いながら、慎重に入り口へと歩を進めていった。
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入り口まで、あと少しのところだった。
視界に漂う水球のひとつが、ふいに、しゅわしゅわと微細な気泡を放ち始めた。
不穏な気配を察し、反射的に身を引いた次の瞬間──
水球の表面でひときわ大きな気泡がパチンと弾け、水棘が空間を裂いて襲いかかってきた。
『うおぉっ!?』
わずかに距離を取っていたため、間一髪で回避に成功する。
続けざまに水球が棘を形成しはじめるのを目にして、迷う暇もなくクロは走り出していた。
『音を出してないのに、なんで攻撃してくるんだよ!』
水棘をかいくぐり、入口へ向かって駆ける中──
視界の端でいくつもの水棘がラースに直撃し、その都度、バシュンという音と共に水しぶきが飛び散っていた。
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ようやく、《響震の洞窟》の入り口まで戻ることができた。
ラースは嬉しそうに回転している。
「危ないところでしたね!」
「いや、危ないところ…というか、普通に背中に喰らってたみたいだが、大丈夫なのか…?」
ラースの背面を見せてもらうと、苔が綺麗に取れてピカピカに輝いていた。
「こっ、これは……!顔が映りこんでる…!
ラース……むしろしばらくあそこにいた方がいいんじゃないか…?」
「絶対嫌ですよ!」
笑いながら、念のため、ラースの表面についているエコロームの水分を鑑定してみる。
結果はあくまで"水"であり、魔力反応もなく、付着しても害はないようだ。
クロは洞窟の奥へ視線を向け直した。
「冗談はさておいて…中央にある《機械のパーツ》を回収する方法を考えないとな。
あの水球…《エコローム》というらしいが、生物の“音”に反応してると思うんだ」
ラースは空中でくるりと回転しながら、得意げにうなずく。
「そうですね!初めのウサギさんは、声を出した瞬間に攻撃されていましたからね!」
クロは眉をひそめながら、先ほどの違和感を思い返す。
「だけど…入り口の近くの個体は、こちらが音を出していないのに、なぜか攻撃してきたんだよなぁ…」
ラースは小刻みに左右交互に明滅しながら、考え込むように浮遊している。
「あの時、水球の表面で、大きな気泡が弾けていました。
ひょっとすると、その反響音で攻撃対象を区別しているのかもしれませんね。」
クロは腕を組み、爪先をトントンとしながら、思考を巡らせる。
「なるほど…反響か。ってことは、跳ね返ってきた音で獲物を認識してるってことだよな?
…だったら、“音を反射しない体”になれば、攻撃されずに済むんじゃないか?
ひょっとして、そんなスキルが手に入れば、突破口になるのかもと思ったんだが…」
ラースは少し間を置いてから答える。
「…残念ですが、効果があるかは断言できません。
反響音には、波形や強度、歪み、時間差など、複雑な要素が絡んでいます。
それをエコロームがどう判断しているかは、まだ分かっていません。
仮に“音を反射しない体”になるスキルを使ってエコロームの前に立った場合、空間の一部に“反響の欠落”が生じます。
それが“異常”として認識されるなら、逆に攻撃される可能性もあります。
…とはいえ、確実な対策がない以上、試してみる価値は、あると思いますよ!」
クロはゆっくりと息を吐く。
「なるほど、効果があるかはエコローム次第か。でも他に方法はない。
よし…だったら、やってみるか!」
クロは、薄く目を閉じてイメージを深めていく。
『エコロームに気付かれないように、気配を遮断したい。いや、遮断しなければならない。
今も、シュワシュワという泡の音が聞こえている。
あの音も、俺に当たって、反射しているはずだ。
音を出さない。反射させない……!』
集中し、自身の精神が研ぎ澄まされた瞬間──脳内に、静かに言葉が響いた。
**《隠密膜》──発動。音・振動・魔力痕跡の抑制**
薄目を開き、身体の様子を確認する。
「…被膜の青みが増している。
けど、他のスキルみたいに光を放つわけじゃないんだな。
これで、音・振動・魔力痕跡を抑制してるってことらしい。
…効果があるかどうかは、実際に試してみるしかないか。」
ラースは上下にふわふわと漂いながら、不思議そうに答える。
「クロ、今何かおっしゃっていますか?口を動かしているように見えますが……」
クロは目を見開き、思わず声を上げる。
「おおっ、隠密膜の効果で音が遮断されてるのか!?
ラース!聞こえるか!?おーい!」
手を叩きながら叫んでみるが、ラースにはまったく届いていない。
空間に響くはずの音が、まるで吸い込まれるように消えているようだ。
コミュニケーションが不便なものの、音が遮断されていることが分かり、少しだけ安心する。
大げさに身振り手振りをしながら、実験しに行くことをラースに伝える。
「"問題ない"、"少しだけ"、"行こう"!」
意図が伝わったようで、ラースはくるりと一回転した。
「スキルで音を抑制することに成功しているようですね!
分かりました!」
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身体強化系:《高速木登り》《高速滑空》《千里眼》
便利系:《サーチ》《鑑定》
皮膜系:《収納膜》《防御膜》《隠密膜》
尻尾系:《ファントムテール》
肉球系:《ジャンプスタンプ》《ショックスタンプ》《エアスタンプ》
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