表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/24

第15話『オムニア』

オムニアは疲れていた。


思わず、ぽつりと声がこぼれる。

「…たまにはルミネア様の声を聴きたいなぁ…」


完全なる創造神、《オムニア》──

静かに浮遊する姿は、構造美の象徴のようだった。


小柄で、中性的な美しい顔立ち。瞳の中心には星型の微光が宿っている。

腰まで届く銀紫色の髪が空中を漂い、時折青白く光が煌めく。

目元には、慢性的な睡眠不足の影が薄く滲んでいた。


そこはオムニアの管理する空間で、周囲は無数の星々に包まれていた。

中央には光塔が立ち、星群の座標・軌道の演算情報を放射状に立体投影している。

一角には淡い光をまとったベッドが置かれているが、乱れも歪みもなく、まるで誰にも触れられたことがないように整っていた。


オムニアの創る星は、重力分布、エネルギー輸送構造、表層放射スペクトルまで──すべてが美しく、常に正確だった。

設計された星々は、軌道誤差0.00001%以下の精度で空間にとどまり続ける。

調律から運行制御、監視まで一手に担い、同時に複数の天体を“完璧な構造美”で創り続けている。


──それでも、何かが足りなかった。


ふと手が止まり、空中に浮かぶ星群の軌道補正図が一瞬だけ静止する。

休むべきだとわかっていても、「完璧」には程遠い。


「…軌道図、再確認…重力場、正常…放射強度、最適化済み…

ルミネア様は元気かなぁ。」


小さくつぶやきながら、ふと上を見上げた。

「少しだけなら、話しかけてもいいんじゃないか…よし!」


そして、虚空へ向かって、意を決したように呼びかける。

「ルミネア様、聞こえますか…」


しん、とした空気が張り詰める。


「ルミネア様、やはり多忙なのかな…」


沈黙の後、遥か彼方の空間にて──銀色に輝くベッドがわずかに揺れた。

布の擦れる音とともに、光の神、《ルミネア》が顔を上げる。髪がゆらりと浮かび、柔らかな声が空間を撫でた。

「…ふごっ…あ、オムニア…どうしたの…?」


「あっ、ルミネア様!最近声を聴いていなかったので…。お元気でしょうか。

…周期調整、完了…光度、定義済…」

作業を続けるオムニアに、ルミネアは半分呆れたように笑った。


「…ふわぁ~…オムニア、相変わらず忙しそうね。クマができてる。昨日は何時間寝たの?」

「…15分です。ごめんなさい…軌道誤差0.03%の修正に時間を使ってしまいまして…」


「ハァ…。あのね、理想は12時間寝ないとダメよ。だって、神ってそういう“構造”なの。たぶん。」

「なるほど、神の“構造”なのですね」

「それとね、"何かをする"よりも、"何もしない"ことが大事なんだよ」


急いでメモを取りながら、その言葉が染み渡っていくように響いて、思わず笑みがこぼれた。

「さすがはルミネア様です…」


──後日。再び声を届ける。


「ルミネア様、ルミネア様。

…教わった通り12時間寝ようとしたのですが…20分も眠れず…

私はいつも完璧を求めて時間を費やしてしまって、ルミネア様のようにうまくできなくて…

ルミネア様は創星の際、何を一番大事にしていますか?

どうすればルミネア様のようになれますか…?」


ルミネアは目を細めて頷いた。

「ふふ…私に聞いて正解ね…

大事なのは“感性”だよ!ズバッと決めるの。」

「なるほど…“感性”で“ズバッと”ですね。」

オムニアは、"ルミネア様の言葉"ページにメモをしていく。


ルミネアは小さく首をかしげながら続けた。

「すぐにできるようになるよ。最近は、同時に20ずつ設計してるんだっけ?」

「今は30程ですが…ルミネア様のように“一筆設計”できるようになりたいです!

周回軌道を計算していたらいつも朝になってしまっていて…」


ルミネアは銀色のベッドの上でゆっくりと伸びをする。

「だから言ってるでしょ。“6割やったら寝なさい”って。寝ることで仕事の質を上げるの。

この星、どう思う?“寝ながら自動設計”で作ったの」

「すごいです!回転周期も、バランスも…!

あれ…ルミネア様、またこの星、軌道がずれてますよ。前回と微妙に…」


その指摘にルミネアは目をそらした。

「あっ、それはね、敢えてズラしてるの。わかる?“不完全さ”がだいじなのよ!」

「うわぁ…!さすがルミネア様です!…私の星は100万年軌道が安定します。

…でも、どうしてもルミネア様のような美しい“ズレ”が生まれなくて……

どうやって、その“ズレ”を計算してるんですか…?」


わずかに息を止めて、オムニアは答えを待った。


ルミネアの唇の端に、いたずらっぽい笑みがかすかに浮かぶ。

「“ズレ”は偶然から生まれるの。計算してちゃダメね。」

「計算してはいけない…!それも、“感性”ということですね!」


光図に視線を移しながら、問いを重ねる。

「ルミネア様、この星は作成中ですが、どうでしょうか。

力学的平衡、エネルギー輸送構造、温度・密度分布の最適化、どこを見直すべきでしょうか?」

「この星、ちょっと味気ないわね。スパイスが足りないかな。」

「…スパイス?星に香料を…!?」


ルミネアは軽く指をひらひらさせて言った。

「もっと“気まぐれな紫”を入れてみるといいかも。」


「…あっ!そ、そうか!

表層温度を1万K以上に高めて放射スペクトルを偏らせて…了解しました!」

オムニアの調整により、星の表面が淡い紫色に包まれていく。


「ふふ、それでも星がうまく回ってない時は、チョコをひと粒食べるの。そうしたら、見方が変わるよ」

「さすがルミネア様です…!」


メモをしながら、ふと呟く。

「でも食べると眠くなってしまいますので、私はまだその段階に達していません…。


ルミネア様、この星も見てください。

私にとって100%の精度で仕上がっています。

…でもどうしても、何かが足りない気がして…」


ルミネアは微笑んで頷いた。


「その"何か"はね、寝てる間に舞い降りてくるの。寝なさい。


星も、あなたも、芽吹くから。」


「ルミネア様…」

その言葉が響き渡り、オムニアの胸にかかっていた霧がすっと晴れた気がした。


------------


身体強化系:《高速木登り》《高速滑空》《千里眼》

便利系:《サーチ》《鑑定》

皮膜系:《収納膜》《防御膜》

尻尾系:《ファントムテール》

肉球系:《ジャンプスタンプ》《ショックスタンプ》《エアスタンプ》


---

万年寝不足のオムニアさんです。

挿絵(By みてみん)


次回2025/9/26、16話を更新予定です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
▼ツギクル
★押してもらえると嬉しいです★
(ランキング集計されてるらしいです) ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
》それとね、"何かをする"よりも、"何もしない"ことが大事なんだよ 宇宙の真理かもしれないですw 神の気まぐれなんて言葉が一番似合うルミネア様⋯
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ