表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/24

第13話『新たな目標』

《セレナ=ハーモニック》という人物が《機械のパーツ》のありかを教えてくれた。

もう一度会って、話を聞く必要がある──


そうラースに説明して、2人は《律音の庭》の入り口まで戻ってきていた。


まずはエリア入り口の《刻印の刻まれた石柱》に跳び乗り、ラースに問いかける。

「ラース、この刻印は読めるか?」


ラースが浮かびながら応える。

「これは“律音の庭”と書いてますね!」


『……やっぱり、セレナが言っていた名前と一致してる。

前回会ったとき、訳の分からないヤツだと感じたが…

彼女はただ“話下手”なだけで、ちゃんと答えてくれていたってことか……』


「まずは中央の鐘塔に行ってみよう。

神出鬼没な印象はあるが……運が良ければ、また姿を現してくれるかもしれない」


******


前回来た時と同じく、石造りの扉の上部に設けられた小窓から、鐘塔の内部に入ることにする。

ラースは小窓を通れないサイズだったため、"上"から―最上部の吹き抜けを通って降りてきてもらった。


「セレナーーーー!いないのかーーーー!」

声は滑らかな床で反響し、建物全体に響き渡っていく…が、声を返すものはいなかった。


「…うーん…色々と話を聞きたかったんだが…どうしたものか…」


悩んでいると、何かを思いついたかのようにラースの紋様が緑に明滅し、くるくると体を回転させた。

「3階にある鐘を鳴らせば、気づいてもらえるのではないでしょうか!」

「おぉ…!それだ!


…ラース、体当たりして鳴らすことはできるか?」


ラースの紋様が素早く明滅する。

「お任せください!」


早速塔内の階段を使って3階まで上がり、見上げると──鐘は以前と変わらず、静かにそこに吊られていた。

ラースがふよふよと浮かび上がり、鐘に近づいていく。


「……それでは、行きますよ──」


ラースは鐘から少し距離を取った後、思ったよりも加速して鐘に体当たりをした。


鐘に触れた瞬間、円塔全体に振動が走る。

重低音が空間を揺らし、鐘は深く、静かに鳴り始めた。


──ゴォォォン……ワァァァァァァン……ヒィィィィン…


ラースは反動でくるりと回転しながら、鐘の前でピタリと静止した。


反響音は徐々に薄れてゆき、塔内は再び静寂に包まれていく。


──だめか──


そう思ったとき、背後から腕が回り込んできた。


「わー!ほんとに無事だった!

あああ、この毛並み……柔らかい!…しあわせぇ……スウウウウウウ!」

「うおお!やめろ!!」


慌ててもがくものの、力が強く、なかなか抜け出せない。

背後から突然現れ、抱きついてきたのはやはり──《セレナ=ハーモニック》だった。


******


セレナは変わらず白のマントローブを羽織り、銀縁のメガネの奥で澄んだ紫の瞳が輝いていた。


「この方がセレナさんですか。こんにちは。私はラースです」

ラースが上下に揺れながら挨拶すると、セレナの表情がパッと輝いた。


「こんにちは、ラース!美しい音色が重なって、響きあってるね。思った通り!」


クロは慌ててセレナの腕の中から抜け出す。

「だから、その……“重なってる”って何だ?」


セレナは一瞬ぽかんとした後、笑顔のまま、瞳に魔力紋が浮かび上がった。

「私のスキルはね。音が視覚化されるんだよ。


あなたとラースの声とか振動が、すごく綺麗に重なって響いてて……

光の粒になって、こう、跳ね返って共鳴してるんだ」


クロは眉をしかめて首をひねる。

「……なるほど?で、今の俺はどう見えてるんだ?」


「それはもう──音の粒が理知的で繊細で、ツンとしてて、でも根は優しくて誠実で、

しかも青系の質感と鋭さでバランスが取れてる。まさに君は…

“引き締まった夜空を走る音楽の剣”だね」


「そ…そうか、分かった。よく分かった。


……あと、何だ……

この前は、何を考えてるか分からないやつだと思ったけど──

おかげでラースに会えた。

…ありがとうな。


…それから、“君”じゃなくて、“クロ”な」


セレナは驚いたように目を見開き、瞳の中の魔力紋が消えていく。

そしてすぐさま満面の笑みになって飛びかかってきた。

「きゃー!すごい素直じゃないの!名前も完璧!!」


クロは慌てて身を引く。

「分かった、頼むから、すこし落ち着いて話を聞いてくれ。」

「えぇ〜」

セレナは口を尖らせ、わざとらしく肩をすくめてみせる。

ふくれた表情は、納得してないというより、構ってほしいだけのように見える。


「本当に困ってるんだ。知ってることを色々教えてほしい。

…それと、話してる最中に突然いなくなるのはやめてくれ。」


セレナは目を細めて、いたずらっぽく笑った。

「ん〜…別にいいよ…


…だけど、話をするにはお互いの"信頼"が大切だよね…」


ラースの方にもちらっと視線を送り、何かを企む気配を見せた。


******


セレナは、鐘塔の外に配置された椅子に腰かけて、満面の笑みをしていた。


セレナの"信頼"を得るため、"セレナの膝の上に乗る"、"自由に触らせる"ことになってしまったものの、必死の交渉の末に、何とか"仰向け"だけは回避することができた。


ラースは指定された位置、セレナの左手側にふよふよと浮かび、時折撫でられている。


「まず、他の人間はどこにいるんだ」

「上にいるよ」

当然のように答えながら、耳をむにむにと引っ張ってくる。


『そうだ…こいつは、“話下手”なんだった…』


「えーと…上にいるってことは、ここは地下ってことか?

俺が地上の人間に会おうとした場合、どれくらいかかるんだ?」

「ここは、地下だよ。会いに行くのは無理だと思うなー」

「仮に、行けたとしたら、だよ。歩いたり走ったりして、どれくらいかかるか知りたいんだ」

「うーん…分かんないけど、季節を何回か越えるくらい?

ずーっと歩けば、辿り着けるかも。……しっぽ、ふさふさだね!」


セレナは両手でしっぽを包み込むように撫でながら、笑っている。


「じゃあ、お前はどうやって…


……いや、どういう“手段”でここまで来てるんだ?」

「ふふ。行きたい場所を思い描いて、歌に乗るの。

あとは、いちばん綺麗な音を選んでいくだけで、自然と辿り着けるんだよ」


「…セレナは地上からここまで、どれくらいの時間で来れるんだ?」

「少し歌ってたら、あっという間かな」


セレナはクロの手のひらを取り、指先を柔らかく揉んでいる。

返事の内容よりも、触れている感触のほうに夢中になっているようだった。


「……地上には他にも人間がいるんだよな?

皆、お前と同じことができるのか?」

「人はいっぱいいるよ。

でも、私と同じことをできる人は、見たことないなぁ。」


セレナは首をかしげながら、頬をむにーっと引っ張ってくる。


『なるほど……

地上には人間がたくさんいて、ここは地下深く。

他の人間はここまで来れず、セレナだけは来れる。


恐らく、これまでのやり取りからすると、セレナは嘘をついてない。

何らかのスキルを使って、言葉の通り、“音に乗ってあっという間に"来てるんだろうな…』


「…なるほど。地上では、この場所のことを何て呼んでるんだ?」」


皮膜の下に手を突っ込んでもぞもぞしながら、セレナは答える。


「《巡霊の神座》(じゅんれいのかむくら)って呼ばれてるよ。


ふぅ~、満足!今日は最高だったなー!」


「……えっ? セレナ……さん!?

まだまだ聞きたいことがあるんですけど──!」


セレナはクロを膝からすっと降ろしながら、楽しそうに答える。

「うん、また今度来るからさ!

もし会いたくなったら、これを鳴らしてね。すっっごくキレイな音色なんだよ!」


ポケットから小さな銀細工のベルを取り出し、机の上にコトリと置く。

今にもふらりと姿を消しそうな気配を漂わせるセレナに対し、ラースは素早く回転しながら、慌てて声をかける。


「すすすすみません!私の《パーツ》がどこにあるか、ご存じでしょうか!

セレナさんなら、きっと何か──

そう!きれいな“音”の手がかりが"見えて"いるのではないかと思いまして!」


「あ、そっか…」

ポツリと答えたセレナの瞳の奥に淡い紋様が灯る。

視線は、ラースと出会った《闇の刻印の廃域》とも、アリの巣とも違う──別の方角へと向けられた。

「あっちにいけば──たぶん、5つくらいはあると思うよ」


「おぉ!あっちって……どれくらいの距離なんだ?」


思わず問いかけながら振り返ると──


やはり、そこにはもう誰の姿もなかった。


「なんでだよぉぉぉぉぉぉ!」


クロの絶叫は《律音の庭》に美しく反響した後、静かに溶けていった。


******


セレナが置いていったベルには、透き通る紫の石が埋め込まれていた。

よく見ると、石の表面には小さな音符が繊細に刻まれている。

鑑定によれば、名は《ミューズチャイム》。音は魔力に染み入り、どこまでも澄んで響くらしい。


収納膜にベルをしまいながら、クロはつい愚痴をこぼした。


「あいつは、前に会った時もこうだったんだよ……

突然いなくなるなって、言ったのに……」


ブツブツと呟いていると、ラースの表面に明るい光が走った。

ふわふわと漂いながら、嬉しそうに答える。

「セレナさんは、なんでも教えてくれて、とても親切な人ですね!」


「え……そうか……?


…確かに……そうだな。

ラースの《パーツ》の場所も教えてくれたし…

…次に会ったら、またお礼を言わなきゃな」


「はい、私もお礼を言わなければなりません!」 

ラースは黄色く発光しながら、くるくると回転している。


「──次は、もうちょっと話を聞いてくれるといいけどな……」

ポツリと呟き、2人は次の《機械のパーツ》獲得に向けて歩き出した。


------------


身体強化系:《高速木登り》《高速滑空》《千里眼》

便利系:《サーチ》《鑑定》

皮膜系:《収納膜》《防御膜》

尻尾系:《ファントムテール》

肉球系:《ジャンプスタンプ》《ショックスタンプ》《エアスタンプ》


---

次回2025/9/12、14話を更新予定です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
▼ツギクル
★押してもらえると嬉しいです★
(ランキング集計されてるらしいです) ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ