二
遠くの校舎からチャイムが鳴り響いた。周永はレジでお菓子の数を確認しながら、つい外を盗み見てしまう。今日は水曜日。こっそり写した彼女の時間割によれば、この時間に授業が終わるはずだ。もしかしたら来るかもしれない。
彼女の足音がドアの電子音と共に聞こえた時、周永はこれまでで一番美しいチャイムだと思った。夕暮れのコンビニを、彼女の活気が一瞬で明るく照らした。香澄は冷蔵ケースの前で飲み物を選んでいて、レジから注がれる視線には気づいていないようだった。
「うーん、やっぱりイチゴミルクにしよう!」元気な声が近づいてくる。周永の心臓が高鳴った。平静を装って商品をスキャンし、会計を済ませようとしたが、支払いを終えた香澄は突然目を丸くした。「えっ、周永君?!」
顔が熱くなるのを感じ、普段使い慣れた日本語さえも口から出てこない。彼女を直視できず、ただうなずくだけだった。
「でも周永君、どうしてここに?紹介したバイト先、確かあなたの高校の前のコンビニじゃなかった?なんで…私の学校の前に!?」香澄は笑いをこらえきれない様子だった。
「俺は…クラスメートに会いたくないから」周永はあらかじめ考えておいた言い訳を口にしたが、やはり彼女の目を見られなかった。「それに、ここも俺の高校から遠くないし」
「そうか…確かに歩いて15分くらいだよね?ごめん、私が考えが足りなかった。プレッシャーかけてたかも」香澄は心配そうに言った。周永は首を振り、背中で指を絡ませた。本当の理由なんて、言えるはずがなかった。
突然、冷たい声が夕焼けの残り温もりを奪った。「遅い。まだか?」いつの間にか、入口に背の高く整った顔立ちの男子が立っていた。光が視界をぼやけさせ、周永にはその表情が読み取れない。
その声に引き寄せられるように香澄が振り向いた。「あ、神崎先輩、今行きます!」
「『拓斗』だよ。」男は顔を背けた。
「じゃあ、周永君、頑張ってね!用事があるから行くよ、また今度!」香澄は最後の笑顔を残し、鞄を提げてその人影に向かって駆け出した。
周永は二人が視界から消えるまで見送り、握りしめたレシートが粉々になるまで静かに力を込めた。