第97話 影の魔術師、ルドヴィク
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影の波が王都の南門を包み込むように広がった。
まるで生き物のように蠢く黒い霧が、蓮たちの視界を奪う。
「っ、影の魔法障壁……!」
イリスが素早く魔法を発動し、周囲を覆うように光の魔法を展開する。しかし、それでも影の広がりを完全に抑え込むことはできなかった。
(この影……普通の魔法とは違う。まるで意思を持っているようだ)
蓮は剣を構え、周囲の気配を探る。
その時、足元の影が急激にうねりを増し、まるで触手のように伸びてきた。
「来るぞ!」
蓮が叫ぶと同時に、シャムが素早く短剣を振るい、迫る影を切り裂く。
しかし、切られた影はすぐに再生し、再び襲いかかってきた。
「チッ……! これじゃキリがねぇ!」
シャムが苛立ったように叫ぶ。
「聖属性魔法ならどうかしら……!」
リーナが前へ出て、杖を掲げる。
「《聖光の洗礼》!」
純白の光が炸裂し、周囲の影を一瞬で払う。しかし、それでも完全に消し去ることはできなかった。
「ほう……やるな」
ルドヴィクの冷静な声が影の中から響く。
彼の姿はすでに消え、完全に闇の中に紛れていた。
「なるほど、聖なる光は影にとって脅威となる……だが、それも一時的なものだ」
その言葉と同時に、影が再び集まり、ルドヴィクの姿を浮かび上がらせる。
「本当の影とは、光と表裏一体のもの。お前たちが光を放つ限り、影は決して消えない……むしろ、より深く、濃くなる」
彼が手を広げると、その影がさらに強く脈動した。
「《影獄の檻》」
次の瞬間、蓮たちの周囲に影の壁が生じ、完全に四方を封じ込めた。
壁はまるで生きているかのように波打ち、僅かな隙間さえも許さない。
「くそっ、これじゃ動けねぇ!」
シャムが壁に短剣を突き立てるが、影は瞬時に吸収し、まるで何事もなかったかのように再生する。
「魔法障壁とは違う……これは影そのものを操る魔術か」
イリスが冷静に分析する。
「どうする、蓮……?」
リーナが不安げに蓮を見つめる。
「突破口を探るしかない」
蓮は手を伸ばし、自らの影の力を解放した。
自身の足元から黒い波紋が広がる。
彼の影が、ルドヴィクの影と交じり合い、互いに押し合う。
「ふん、影を操るか……だが、まだ未熟だな」
ルドヴィクが指を鳴らすと、影の檻がさらに狭まり、まるで蓮たちを押し潰そうとしてきた。
(くそっ……! このままじゃやられる……)
その時――
「……っ!?」
影の壁にわずかな揺らぎが生じた。
「なんだ……?」
ルドヴィクが訝しげに目を細める。
(今のは……?)
蓮は集中し、自らの影の力を増幅させる。
影の壁の一部が、まるで拒絶するように歪んだ。
(なるほど……この影、俺の力で干渉できる!)
蓮は剣を握り直し、さらに影の力を解放する。
「《影喰らい(シャドウ・イーター)》!」
蓮の足元から影が広がり、まるで生き物のように動き始めた。
影は壁へと伸び、まるで捕食するように溶け込んでいく。
その瞬間、影の壁が小さく揺らいだ。
「なに……?」
ルドヴィクが僅かに動揺する。
「俺の影の力……こいつを喰えるってことか」
蓮は剣を振るい、影の壁へと叩きつける。
彼の影が壁を飲み込み、次第にその範囲を侵食し始めた。
「馬鹿な……!」
ルドヴィクの表情に初めて焦りが浮かぶ。
「お前の影の力……まさか、俺の影を喰うというのか!?」
「……試してみるか?」
蓮は影を増幅させ、一気にルドヴィクの影へと向かわせた。
「《影喰らい》!」
次の瞬間、ルドヴィクの影が大きく削られた。
彼は一歩後退し、影を再構築しようとするが、蓮の影がそれを阻害する。
「クッ……!」
彼は歯を食いしばり、再び影を操ろうとする。
だが――
「蓮、今よ!」
イリスが叫び、リーナが聖なる光を放つ。
「《聖光爆破》!」
閃光が影の空間を切り裂き、ルドヴィクの影を大きく削り取る。
その隙を逃さず、蓮が影を収束させる。
「終わりだ――!」
蓮は影を駆使し、ルドヴィクの影を完全に抑え込んだ。
彼は膝をつき、肩で息をする。
「……まさか、俺が……敗れるとはな……」
ルドヴィクは自嘲気味に笑った。
「影の力を持つお前ならば……いずれ、真実に辿り着くかもしれん」
「真実……?」
蓮が問いかけるが、ルドヴィクはそれ以上語ることはなかった。
――戦いは、終わった。
しかし、この影の力の奥には、まだ何かが隠されている。
蓮はそれを感じながら、静かに剣を納めた。
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