第96話 襲撃、迫る闇
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警鐘の音が王都の静寂を引き裂いた。
蓮はリーナ、イリス、シャムと共に王城へと駆ける。街の通りでは、状況を把握しようと家の窓を開ける住人の姿があったが、すぐに兵士たちが「家の中に留まれ!」と指示を飛ばしていた。
(何が起きている? この警鐘は、ただの騒ぎでは鳴らないはずだ)
王城の正門に到着すると、すでに多くの兵士たちが槍を構えていた。その中心には宰相マティアスの姿がある。
「宰相、何が――」
「蓮殿! よくぞ来てくれた。状況が緊迫している!」
マティアスの表情には緊張が走っていた。
「敵の襲撃か?」
「その可能性が高い。だが、詳しいことはまだ分かっていない。我々の偵察隊が魔の森周辺で異常を察知し、王城に報告を上げた直後、連絡が途絶えたのだ」
蓮の眉が僅かに寄る。
(魔の森……まさか、古代竜が封印されていた影響か? だが、今のところ竜からの警告はない)
「それだけではない」
マティアスの口調がさらに重くなる。
「王城の南門に、黒衣の集団が現れた。彼らは武装しており、警備隊が近づこうとした瞬間に姿を消したそうだ」
「姿を消した?」
イリスが怪訝そうに呟く。
「……影の力かもしれないな」
蓮は自身の手を見つめる。先ほど得た影と光の力――もし敵が影を操る存在ならば、戦いは容易ではない。
「すでに斥候を出したが、戻ってこない。慎重に動くべきだが……何が起きているのか把握する必要がある」
マティアスが苦渋の表情を浮かべる。
「ならば、俺が行く」
「蓮……!」
リーナが不安げに彼を見つめる。
「俺は影の力を得た。相手が影を操るならば、同じ力で対抗できる可能性がある。むしろ、俺が行くのが最適だ」
「俺も行く」
シャムが前に出た。
「こういう時こそ、仲間を助けるのが相棒ってもんだろ?」
「私も行くわ」
イリスが即座に申し出る。
「私の魔力なら、相手の隠れた動きを探れるはずよ」
「私も同行します」
リーナがしっかりとした眼差しで蓮を見つめる。
「あなたが危険な目に遭うのを、黙って見ているわけにはいかないわ」
蓮は三人の決意を感じ取り、深く頷いた。
「分かった。なら、四人で偵察に向かおう」
マティアスもそれを認め、最低限の護衛をつけるよう兵士に指示を出した。
「だが、無理はするな。敵の正体を掴むことが最優先だ」
「承知した」
蓮たちは王城の南門へと向かった。
南門に到着すると、そこは異様な雰囲気に包まれていた。
(空気が重い……いや、違う。魔力が歪んでいる)
「この感覚……まるで影が漂っているようだわ」
イリスが静かに呟く。
「……何かがいるな」
シャムが腰の短剣に手を添え、警戒を強める。
蓮は影の力を発動し、周囲を探る。しかし、ただの暗闇ではなく、そこには明らかに「作られた影」の気配があった。
「気をつけろ。何かが潜んでいる」
リーナが神経を研ぎ澄ませる。
その時だった。
突如、影の中から黒い刃が飛び出した。
「っ!」
蓮は咄嗟に剣を抜き、その刃を弾く。しかし、相手の攻撃は止まらない。次々と影から現れる黒い刃が彼らを襲う。
「数が多い……!」
イリスが素早く魔法を展開し、影の刃を防ぐ魔法障壁を作る。リーナも聖属性の魔法を発動し、影の波を押し返した。
「ちっ、面倒だな!」
シャムが短剣を振るい、接近してくる影を斬る。しかし、影はすぐに形を変え、また攻撃を仕掛けてくる。
(このままじゃ、じり貧だ……!)
蓮は自身の影の力を活用し、地面に影を広げる。そして、影の刃の発生源を逆探知するように力を流した。
(いた!)
蓮は影の奥へと跳び込み、そこに潜む黒衣の存在を捉えた。
「そこか――!」
剣を振るうと、黒衣の者は素早く後退し、影へと溶け込もうとする。しかし、蓮の影の力がそれを封じる。
「逃がすかよ!」
彼は影を収束させ、相手の足を絡め取る。その瞬間、黒衣の者が動きを止めた。
「……ほう、我が影を封じるとはな」
低く、冷たい声が響く。
蓮は目を細め、相手を観察した。黒衣の男は顔を覆い隠していたが、その身体から発せられる魔力は尋常ではない。
「お前は……何者だ?」
蓮が問うと、男は静かにフードを外した。
現れたのは、鋭い目を持つ壮年の男だった。
「我が名はルドヴィク・グラハム」
「ルドヴィク……?」
イリスが眉を寄せた。
「聞いたことがあるわ……帝国の魔術師団に属していたが、数年前に姿を消した人物」
「ふむ、よく知っているな」
ルドヴィクは不敵に笑う。
「俺は、帝国に見限られた者。そして、影の真理を求める者だ」
「影の真理……?」
「お前の影の力……興味深い。だが、それではまだ不完全だ」
ルドヴィクの足元から濃密な影が広がる。
「俺が、お前に本当の影の力を見せてやろう」
その瞬間、影が爆発的に広がり、蓮たちを飲み込もうとした。
――影と光の戦いが、ここに始まる。
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