第94話 影の力、完成
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王都の夜は深く静まり返り、漆黒の闇が世界を覆っていた。城の庭に立つ蓮は、影の力をより深く理解し、自らのものとすべく静かに目を閉じる。さきほどの「影との対話」を経て、自身の内に眠る力を少しずつ掴み始めた。しかし、それだけではまだ足りない。
(影の力……これを完全に使いこなせれば、俺は今よりさらに強くなれる)
蓮は意識を集中させ、足元に影を生み出す。黒くうねる影は蓮の意志に従い、自在に形を変えた。
「蓮……もう休んだほうがいいんじゃない?」
リーナが心配そうに声をかける。
「そうね、あまり無理をしすぎると、体が持たないわ」
イリスも同意し、彼を見つめる。蓮は一瞬考えたが、すぐに首を振った。
「いや、もう少しだけ試したい。影の力は今後の戦いにおいて、間違いなく鍵になるからな」
リーナとイリスは顔を見合わせるが、結局彼の意思を尊重し、傍で見守ることにした。
蓮は再び影を操り、分身を生み出す。先ほどの戦いを経たことで、影の分身はより明確な輪郭を持ち、まるで本物の蓮がそこにもう一人いるかのようだった。
(よし……意識を完全に分離する)
蓮は深く息を吸い、影の分身に自身の思考の一部を移す。すると、分身がゆっくりと動き出した。
「……お前の名前は?」
蓮が問いかけると、影の分身は静かに答えた。
「……蓮」
その声は蓮と全く同じだった。まるで鏡に映った自分自身が答えたかのような錯覚を覚える。
「違うな。お前は俺じゃない。俺の影だ」
蓮はきっぱりと言い切る。影の分身は一瞬沈黙したが、やがて微かに微笑んだ。
「……なら、俺は“黒蓮”とでも名乗ろうか」
「黒蓮、か……いいだろう」
蓮は静かに頷く。黒蓮は今までの影の分身とは違い、自ら名を持ち、意志を持ち始めていた。それは、蓮が影の力をより深く理解し、真に手懐けた証だった。
「じゃあ、試してみるか」
蓮は剣を構え、黒蓮もまた同じように剣を生み出す。二人は互いに向き合い、じりじりと間合いを詰めた。
「こい、黒蓮」
「ふっ……俺はお前だからな。手加減はしないぞ」
次の瞬間、黒蓮が動いた。影のように滑らかで無駄のない動き――蓮が今まで培ってきた戦闘技術を完璧に再現していた。
「くっ……!」
蓮は黒蓮の剣を受け止める。しかし、黒蓮はそのまま流れるように回転し、蓮の死角へと回り込んだ。
(しまっ――)
黒蓮の蹴りが蓮の脇腹に炸裂し、彼の体が弾き飛ばされる。
「ぐっ……!」
蓮は地面に膝をつくが、すぐに立ち上がる。
「なるほどな……今のお前は、俺と同じくらいの強さか」
黒蓮は無言で微笑んだまま剣を構え直す。その姿はまるで、蓮自身がもう一人いるかのようだった。
(こいつを制することができなければ、俺は影の力を完全には扱えない……)
蓮は深く息を吸い、冷静に黒蓮を観察する。
(同じ動きをすれば、読まれる。なら――)
蓮はあえて意識を影へと預けた。次の瞬間、蓮の姿がかき消える。
「……!」
黒蓮は驚きの表情を浮かべた。その刹那、蓮の攻撃が背後から炸裂する。
「影の力は、ただ模倣するだけじゃない。俺がどう使うかで変わるんだよ!」
蓮の剣が黒蓮の胸を貫いた。
「……!」
黒蓮は驚きの表情のまま、徐々に霧散していく。
「……やるな」
最後にそう呟き、黒蓮は完全に消え去った。蓮は息を整えながら、拳を握りしめる。
(俺は……影の力を完全に手に入れた)
リーナとイリスが駆け寄る。
「蓮! すごかった!」
「影の力を完全に掌握したのね……」
蓮は微笑みながら頷く。
「これでようやく、影の力を真に自分のものにできた」
静かな夜風が吹き抜ける。
蓮の影はより濃く、そして強くなっていた。
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