表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

95/201

第93話  影の試練・後編

いつもお読みいただきまして、ありがとうございます。

王都の夜は深まり、月光が静かに城の庭を照らしていた。蓮は新たに発現した影の分身の力を試しながら、さらなる制御の方法を探っていた。


「……まだ完璧とは言えないな」


影の分身は独立して動くようになったものの、細かい動作や判断はまだ完全ではない。意識を分け与えることで自律行動を取らせることは可能だが、それには莫大な集中力を要する。


(このままでは、実戦で使うのは難しい)


蓮は改めて影の分身を前に立たせ、その動きを観察した。影の分身はまるで意思を持っているかのように立っているが、その目はどこか虚ろだった。


リーナとイリスは蓮の隣で静かに見守っていた。


「ねぇ、蓮。この影の分身って、どこまで本物の蓮に近いの?」


リーナが興味深げに尋ねる。


「俺の意識を一部与えることで、ある程度独立した思考ができるみたいだ。ただ、今はまだ完全な自律とは言えないな」


蓮は考えながら答えた。イリスが小さく頷く。


「でも、もしこれがもっと自由に動けるようになったら……すごい戦力になりそう」


「確かにな」


蓮も同意する。


影の分身が独立して動くということは、戦闘だけでなく、偵察や潜入、撹乱などさまざまな用途に使える可能性がある。しかし、それにはもっと深く影の力を理解する必要があった。


「……試してみるか」


蓮は目を閉じ、意識を研ぎ澄ませた。


(もっと深く……影の本質に触れる)


影の奥へと意識を沈めると、漆黒の闇が広がる空間が見えた。そこは無限の暗闇――影の力が渦巻く領域だった。


そして、その中心に誰かがいた。


「……!」


蓮は目を凝らす。そこに立っていたのは、彼自身と瓜二つの存在だった。しかし、どこか違う。彼の分身であるはずの存在は、不気味なほど静かで、何かを待っているようだった。


「お前は……?」


影の存在は口元を僅かに動かし、囁くように答えた。


「……私は、お前の影」


その声は蓮自身のものと同じだった。影の対話 蓮は慎重に言葉を選びながら尋ねる。


「影の分身……いや、お前はただの分身じゃないな」


「……そうだ。私はお前の『裏』、お前が目を背けたもの」


蓮は思わず息を飲んだ。影の存在が意味するもの――それは蓮自身の心の奥深くに眠るものなのかもしれない。


「お前は、俺の何なんだ?」


蓮が問いかける。影は静かに答えた。


「私はお前のもう一つの可能性。お前が持つ力、その本質に最も近い存在」


「本質……?」


影はゆっくりと蓮に近づいた。


「お前はまだ迷っている。影の力をどう使うべきか、何を成すべきか……だが、この力は選ぶ者を試す」


「試す……?」


影は続けた。


「影とは光と対になる存在。お前が影の力を受け入れたとき、お前自身の内にある『均衡』もまた試される」


蓮は息を整えながら、影の存在をじっと見つめた。


「……試されるのは俺の意思ってことか」


影は微かに笑った。


「そういうことだ」


次の瞬間、影が動いた。


「……!」


蓮は反射的に身構える。影の存在が蓮に向かって拳を繰り出した。蓮は素早くかわし、距離を取る。しかし、影の動きは驚くほど速かった。


(こいつ……まるで俺と同じ動きができるのか?)


影の拳が風を切り、蓮の頬をかすめる。蓮は即座にカウンターを狙うが、影はそれを見抜いたかのように回避した。


「……すごい、完全に俺の動きを読んでる」


影は冷たく微笑む。


「当然だ。私はお前だからな」


蓮は剣を抜き、影も同じように黒い剣を作り出す。


「……なるほど。つまり、こいつを超えなきゃ、影の力を完全には使いこなせないってことか」


蓮は剣を構え、深く息を吸った。


「なら……俺は俺の影を超える!」


決戦、影の試練 蓮は一気に間合いを詰めた。


影も同じく動き、二人の剣が激しくぶつかり合う。火花が散り、鋼の音が響く。


「お前は俺だ。ならば、俺の考えも読めるはずだ」


影は淡々と答える。


「そうだ。だからこそ、お前は勝てない」


だが、蓮は笑った。


「なら、読めない動きをすればいい」


蓮は剣を振るうふりをして、影の足元に影の魔法を放った。影の動きが一瞬止まる。


「……!」


蓮はその隙を逃さず、一気に剣を突き出した。


影の身体に剣が貫かれる。


「……やるな」


影は微かに笑い、ゆっくりと消えていった。


蓮は息を整えながら、影の力がより深く自分に馴染んでいくのを感じた。


(俺は……影の力を制することができる)


蓮が目を開けると、そこは城の庭だった。リーナとイリスが心配そうに見つめている。


「……蓮!」


リーナが駆け寄る。


「大丈夫?」イリスも続けて声をかける。


蓮は小さく微笑み、頷いた。


「……大丈夫だ。影の力、少しだけ分かった気がする」


リーナとイリスは安堵の表情を浮かべた。


「でも、無理はしないでよ?」


リーナが優しく言う。


「……ああ」


蓮は夜空を見上げ、深く息を吸った。


(俺は俺の影を乗り越えた。この力を……仲間とともに使うために)


静かな夜風が吹き抜ける中、蓮の影はより強く、より深くなっていた。

ブックマーク・評価・いいね、出来れば感想とレビューをお願いします!

モチベーション向上のため、よろしくお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ