第92話 影の試練・前編
いつもお読みいただきまして、ありがとうございます。
王都の夜は深まり、城の庭には静かな風が吹いていた。蓮は影の分身を作り出しながら、新たな可能性を探っていた。
「まだ自由には動かせないか……」
影の分身は蓮の動きに追従するが、意志を持った独立した存在には至っていない。蓮は腕を組み、考え込む。
(影の王が託した力……本当にこれがすべてなのか?)
影の力は未だ多くの謎に包まれている。均衡を護る者として、この力をどう使うべきなのか。その答えを見つける必要があった。
そんな時、背後からリーナの声がした。
「また考え事?」
蓮は振り返ると、リーナとイリスが並んで立っていた。二人とも夜風に揺れる髪を押さえながら、心配そうに彼を見つめている。
「まぁな。影の力について、まだ試してないことがある」
「また一人で抱え込んでるのね」
リーナがため息をつく。
「……別に抱え込んでるつもりはない」
「でも、こうして一人で修行してるじゃない」
リーナは呆れたように微笑む。
イリスも静かに蓮を見つめながら言った。
「蓮は、一人で何でも解決しようとしすぎ」
「……そうか?」
リーナとイリスは同時に頷いた。
「もう少し、私たちに頼ってもいいのよ?」
リーナが優しく言う。
「私も、蓮の力になりたい」
イリスも静かに続けた。
蓮は二人の言葉に少し戸惑いながらも、心の奥で温かいものを感じていた。
「……悪いな」
「素直になればいいのに」
リーナは微笑むと、蓮の隣に座った。
「せっかくなら、私たちにも影の力を見せてくれない?」
イリスが静かに尋ねる。
蓮は少し考えた後、頷いた。
「……わかった。二人にも見せるよ」
蓮は地面に手を置き、影の力を解放した。
黒い霧が渦を巻き、地面から蓮と同じ姿の影が立ち上がる。
リーナとイリスは息を呑んだ。
「これが、影の分身……」
リーナが興味深そうに見つめる。
「まだ完全に制御はできていないけどな」
蓮が呟く。
彼は影の分身を意識的に動かそうと試みた。すると、分身はゆっくりと腕を上げ、蓮と同じ動きをする。
「……すごい」
イリスが驚いたように言った。
「でも、これだけじゃないはず」
リーナが期待を込めた眼差しを向ける。
蓮は頷き、さらに力を込めた。
影の分身は徐々に独立し、蓮の意思とは別に動き始める。
「……!」
蓮は驚きながらも、直感的に理解した。
(影の分身は、俺の意識を分け与えることで独立した存在として動く……!)
分身はゆっくりと剣を抜き、戦闘態勢をとった。
「これなら……」
蓮は分身に向かって突進した。
次の瞬間、分身が動き、蓮の攻撃を回避する。
「避けた……!」
リーナが驚く。
「まるで本物の蓮みたい……」
イリスも目を見張る。
蓮は分身と数度の打ち合いを交わしながら、確信した。
(影の分身は、俺の意識を部分的に持ちつつ、独立して戦える……!)
これまでの影の力とはまったく違う、新たな可能性が開かれた。
「……すごいわね」
リーナが感嘆の声を上げた。
「蓮、本当に強くなってる」
イリスも静かに微笑む。
蓮は影の分身を解除し、二人を見つめた。
「……ありがとう。お前たちのおかげで、影の力の新しい一面に気づけた」
リーナはにっこりと微笑み、イリスも小さく頷いた。
「蓮が強くなるのは嬉しいけど、無茶はしないでね?」
リーナが優しく言う。
「……ああ」
蓮は心の中で、新たな決意を固めた。
(この力を、俺は仲間を守るために使う)
影の王が託した「均衡を護る者」としての役割。その本当の意味はまだ分からない。
だが、蓮は確信していた。
この力は、仲間とともにある限り、決して道を誤ることはない。
夜空に光る星の下で、蓮は静かに誓った。
「俺は、この力を正しく使う」
そして、新たな試練へと向かっていくのだった。
ブックマーク・評価・いいね、出来れば感想とレビューをお願いします!
モチベーション向上のため、よろしくお願いします!!




