第91話 影の覚醒
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王都の夜は静寂に包まれ、空には無数の星が瞬いていた。
蓮は城の庭で、影の力の制御を試みながら考えを巡らせていた。
影の王が遺した「均衡を護る者」としての力。それが一体何を意味するのか、未だに確信は持てないままだ。だが、蓮の中には一つの決意があった。
「……俺は、この力を守るために使う」
彼はそっと目を閉じ、深く息を吸い込んだ。
蓮は影の力を解放し、手のひらに集中させた。すると、黒い霧のようなものがゆらりと揺れ、地面に伸びる。
「……影の分身、か」
先ほどの影の実験で得た一つの答え。それは、影が自身の分身となる可能性を秘めていることだった。
蓮は影に意識を向けながら、分身を作り出すことを試みる。
(影は俺の意思に応じて形を変える……ならば)
彼が集中すると、黒い影が蠢き、徐々に人の形を成していった。
「――!」
ついに、蓮と同じ姿の影が目の前に現れた。
「これが……影の分身」
蓮が腕を動かすと、それに呼応するように影の分身も同じ動きをする。しかし、完全な独立体ではないらしく、まだ自由には動かせないようだった。
「なるほどな……これを自在に操れるようになれば、戦闘でも役に立つ」
蓮は影の分身を試しながら、新たな能力の可能性を探っていく。
その頃、城のバルコニーではリーナとイリスが並んで夜空を見上げていた。
「……蓮、また修行してるわね」
リーナが苦笑しながら呟く。
「彼らしい」
イリスも静かに頷いた。
「でも、最近の蓮は少し変わった気がするの」
「変わった?」
イリスがリーナを見つめると、彼女は少し考えてから言葉を選んだ。
「私たちと過ごす時間を大切にしてくれているというか……前よりも、私たちに心を開いてくれている気がするの」
「……そうかもしれない」
イリスもそれを感じていた。
彼の優しさ、彼の強さ、そして彼が抱える葛藤――。
「ねぇ、イリスは蓮のこと、どう思ってる?」
「……」
イリスは言葉に詰まり、しばらく黙った。
だが、やがて小さく微笑みながら、そっと胸に手を当てる。
「たぶん……好き、なのかもしれない」
リーナは驚いたようにイリスを見つめたが、次の瞬間には自分も同じ気持ちであることを悟った。
「……私も、同じかもしれない」
二人は顔を見合わせ、少し照れ臭そうに微笑んだ。
夜が更け、蓮は影の分身の訓練を終えた。
「まだ完璧ではないが……この力は、きっと俺たちの役に立つ」
蓮は拳を握りしめ、決意を新たにする。
影の力は未だ謎に包まれている。しかし、これから先、蓮はこの力をどう使うかを自らの意志で決めなければならない。
彼はゆっくりと夜空を見上げた。
(影の王が託した力……俺が均衡を護る者だというなら、その意味を見出してみせる)
静かな夜風が吹き抜ける中、蓮は新たな力の片鱗を手にし、次なる戦いへと備えていた。
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