第90話 影の継承
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王都の復興が進む中、蓮は影の王の力を手にした自分自身を見つめ直していた。影の力を得たことで戦闘能力は飛躍的に向上したが、それ以上に彼の心には新たな葛藤が生まれていた。
「……影の力をどう使うべきか」
均衡を護る者としての役割。その意味を探るべく、蓮は城の塔の上から王都を見下ろした。かつて戦火に焼かれた街は、人々の努力によって再び活気を取り戻しつつあった。
そんな時、背後からリーナの声がした。
「蓮、考え事?」
「まぁな。影の王の力を手にしてから、いろいろ考えてた」
リーナは微笑みながら蓮の隣に立った。金色の髪が夕陽を受けて輝いている。
「ねぇ、せっかく王都も落ち着いてきたんだし、たまにはゆっくりしない?」
「ゆっくり?」
「そう。例えば、私とイリスと一緒に王都を散策するとか」
「俺が? デートみたいに?」
「ふふっ、そういうこと」
リーナは楽しげに微笑む。そこへイリスが現れ、興味深げに話に加わった。
「リーナ、蓮を誘ったの?」
「ええ。イリスもどう?」
イリスは少し考えたあと、小さく頷く。
「……悪くないかも」
こうして、蓮はリーナとイリスとともに王都を巡ることになった。
王都の大通りは復興の活気に満ちていた。商人たちが賑やかに呼び込みをし、子供たちの笑い声が響く。
「こんなに賑わってるんだな」
蓮は感心しながら周囲を見回した。リーナが隣で微笑む。
「復興が順調に進んでる証拠ね。私たちが守ったものが、こうして形になってるのは嬉しいわ」
「そうだな……」
蓮はふと、イリスの方を見る。彼女は物珍しそうに店先を眺めていた。
「イリス、気になるものがあるのか?」
「……うん、あのアクセサリー」
イリスが指差したのは、小さな露店だった。そこには繊細な銀細工のアクセサリーが並んでいる。
「ほう、なかなか綺麗じゃないか」
リーナが手に取ると、店主が笑顔で説明する。
「お嬢さん方、お目が高い! それは魔法を込めたアクセサリーで、持ち主の魔力を安定させる効果があるんですよ」
「へぇ、面白いわね」
リーナが興味を示し、イリスもじっと見つめる。蓮は二人の様子を眺めながら、ふと思い立った。
「これ、二つもらおう」
「えっ?」
リーナとイリスが驚く。
「お前たちが気に入ったなら、記念に買ってやるよ」
「……蓮、そんな気遣いしてくれるの?」
イリスが驚いたように蓮を見つめる。
「当たり前だろ。俺にとって、お前たちは大事な仲間なんだから」
リーナとイリスの顔が赤く染まる。
「ありがとう、蓮」
「……嬉しい」
二人は照れくさそうにアクセサリーを受け取った。
王都の散策を続けるうちに、蓮は自分の心にある変化を自覚し始めていた。リーナとイリスと過ごす時間が、純粋に心地よい。
(俺は……この二人に惹かれているのかもしれない)
彼女たちといると安心する。戦いの中では得られなかった穏やかさが、確かにそこにあった。
「蓮?」
リーナが不思議そうに蓮の顔を覗き込む。
「どうかした?」
「いや……なんでもない」
蓮は軽く首を振ったが、その心のざわめきは消えなかった。
イリスもまた、静かに蓮を見つめていた。彼女の紫の瞳に映る蓮の姿は、どこか優しく、そして寂しげだった。
(イリスも、リーナも……俺にとって、大切な存在なんだ)
この感情の正体は、きっと――
蓮はそっと拳を握る。
夜、蓮は城の庭で影の力の制御を試みていた。
(影の力をどう使うべきか……)
ふと、影の王の言葉が脳裏に蘇る。
――均衡を護る者として、お前に影の力を託す。
「均衡を護る、か……」
蓮は深く息を吸い、影の力を解放した。
黒い霧が渦巻き、彼の体を包む。そして、影が意思を持つように形を変え――
「……」
蓮の背後に、一つの影が立ち上がった。
それは蓮の形をした黒い存在――影の分身だった。
「なるほど……影の力は、単なる移動手段じゃないってことか」
この力をどう活かすか。それが、これからの課題だった。
だが、一つだけ確信があった。
「俺はこの力を、仲間を守るために使う」
その誓いとともに、影は蓮の体へと再び溶け込んでいった。
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