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第88話  王都の決断

いつもお読みいただきまして、ありがとうございます。

王都の空には、ようやく静寂が訪れていた。

影の王が消滅し、黒い瘴気の残滓も徐々に薄れていく。

だが、それが完全に消え去るには、まだ時間が必要だった。


蓮は、手のひらに握られた黒い結晶を見つめる。

それは影の王の力の一部――"影"の世界を司っていた存在が遺したものだった。


「蓮、それ……本当に大丈夫?」

リーナが不安そうに尋ねる。


蓮はゆっくりと首を振る。

「正直、わからない……でも、影の王が俺に託したものだ」


「けどよ、下手に触ると呪われたりしねぇか?」

シャムが眉をひそめながら、少し距離を取る。


「影の王が呪いを仕掛けるようなことはしないと思うけど……でも、確かに慎重に扱った方がいいわね」

リーナも同意し、魔力探知の魔法を使う。


しかし、黒い結晶からは特に邪悪な力は感じられなかった。

それどころか、不思議な安定感があり、蓮の手の中でまるで馴染むように存在している。


「……俺にしか扱えない力、ってことなのか?」


蓮は試しに魔力を注ぎ込んでみる。

すると、黒い結晶はかすかに輝き、蓮の身体の中へと溶け込むように消えた。


「!? おい、大丈夫か!?」

シャムが驚いて叫ぶ。


「……問題はないみたいだ」

蓮は身体の異変を確かめるが、特に違和感はない。

むしろ、どこか力が満ちるような感覚があった。


「魔術的な適合……まるで、蓮の魔力と共鳴したみたいね」

リーナが目を細める。


「影の王が"お前に託す"って言ってたしな」

イリスも納得したように頷いた。


蓮は拳を握りしめ、小さく息をつく。

「……とりあえず、これ以上ここで考えていても仕方がない。王城に戻ろう」


「そうだな。まだ王都の被害状況も確認しねぇと」

シャムが同意し、一行は王城へと向かうことにした。



王都の通りには、戦いの余波が色濃く残っていた。

建物の壁には黒い焦げ跡があり、倒壊した家々も少なくない。


しかし、戦闘が終わったことで住民たちが少しずつ姿を現し始めていた。


「助かったのか……?」

「影の化け物は……?」

「もう、大丈夫なのか?」


怯えた表情の人々が、蓮たちの姿を見て安堵の表情を浮かべる。


「大丈夫です! 影の王は討たれました!」

リーナが皆に向かって声を張ると、あちこちから歓声と涙が広がった。


「本当に……ありがとうございます!」

「勇者様……! 女神の加護があらんことを!」


人々は次々と蓮たちに感謝を述べる。

しかし、蓮の胸には、影の王の言葉が重くのしかかっていた。


(俺が、この世界の均衡を狂わせる鍵になる……)


その意味を、まだ完全には理解できない。

だが、それが何をもたらすのか、慎重に見極める必要があった。


「蓮?」

リーナが心配そうに覗き込む。


「……何でもない」

蓮は小さく微笑み、足を進めた。



王城に到着すると、宰相と王がすでに待っていた。


「無事に戻ったか」

国王は厳しい表情をしていたが、その奥には明らかな安堵があった。


「影の王は消滅しました」

蓮が報告すると、宰相が深く頷く。


「……そうか。だが、王都は甚大な被害を受けた。我らは、これからの復興を考えねばならぬ」


「それに、影の王が消えたことで、新たな問題が発生するかもしれない」

リーナが慎重に言葉を紡ぐ。


「"均衡"か……」

王は腕を組み、思案するように目を閉じた。


「蓮よ、お前に問おう。この国の未来のために、何をすべきだと思う?」


国王の問いに、蓮は息をのむ。


(俺は……この国に何をもたらせるのか?)


選択肢はいくつもあった。

だが、影の王の言葉が頭をよぎる。


「……俺は、影の王が遺した"力"を使い、この国を守る」


蓮はそう宣言した。


「影の王の力?」

宰相が驚いた表情を見せる。


「影の王は、"均衡を護る者"としての力を俺に託した。

 俺がどう使うかは、俺次第だ」


「……ふむ」

王はしばらく沈黙した後、深く頷いた。


「ならば、お前にその力を預ける価値はあるだろう」


王は立ち上がり、堂々と蓮を見つめる。


「蓮よ、我が国の守護者となる覚悟はあるか?」


その問いに、蓮は迷わず頷いた。


「……もちろんです」


それが、蓮の"決断"だった。



数日後、王都では復興作業が始まっていた。


蓮たちは影の王の力を解析し、その影響を調査していた。


「この結晶……蓮が"影の力"を扱う鍵になるかもしれないわ」

リーナが魔法陣を展開し、結晶を分析する。


「影の王の残滓がまだ世界に影響を与えている可能性もある。慎重に調べよう」

シャムも真剣な表情をしていた。


そして――


「……この力をどう使うかは、俺次第か」


蓮は拳を握りしめ、決意を固めた。


影の王の遺した力、それが未来に何をもたらすのか。

それを知るのは、まだ先の話だった――。

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