第9話 帝国軍駐屯地への奇襲
シャムとの一騎打ちに勝った蓮。
しかし、戦いのさなか見せたシャムの言動に違和感を感じる。
果たして二人の今後の行方は……。
「……チッ、負けちまったか」
シャムは膝をつき、荒い息を吐きながら地面を見つめる。
蓮の剣が首元へと突きつけられていた。
「……終わりだ」
蓮の言葉に、シャムは自嘲気味に笑う。
「へへっ……いい剣さばきだったぜ。お前、ホントにあっちから来たのか?」
蓮はシャムの瞳を見据えたまま、わずかに剣を下げる。
「……俺はここで生きると決めた。この世界で、自分の信じる道を進むために」
静かな闘志を宿した蓮の眼差しに、シャムはしばらく沈黙した。そして、ゆっくりと口を開く。
「――だったら、一つ頼みがある」
「なんだ?」
「俺の部下たちを……助けてくれ」
その言葉に、蓮の眉が僅かに動いた。
「助ける?」
「ああ……俺たちはただの盗賊じゃねえ。元々は一つの小さな村の住民だったんだ」
シャムの瞳が苦しげに歪む。
「……帝国の連中に、家を焼かれ、家族を殺され、生き延びた者だけがこの森に逃げた。俺はそいつらを守るために戦ってきたんだよ」
蓮は静かに剣を収めた。
(そんな事情があったのか……だが……)
「そうだとしてもだ……なぜ同じように迫害されてきた獣人たちを傷つけるんだ?」
「何もしなければ飢えて死ぬだけ……帝国と戦っても、対抗できるのは俺しかいないからほとんどのやつが死ぬ」
蓮は深いため息を吐きながら言った。
「お前が仲間を大切に思う気持ちはわかる。だが、そうやっていつまでも逃げ続けるつもりか?」
シャムはカッと目を見開き言う。
「俺は……逃げていたのか……?」
「俺とお前の敵は、自分よりも弱い者たちではないはずだ。違うか?」
「……もし、あんたが本気で皆を守るつもりなら、手を貸そう」
「マジかよ……?」
シャムは驚いた表情を浮かべたが、すぐに笑みを浮かべた。
「ハッ、面白い! お前、気に入ったぜ! 分かった。俺も覚悟を決めよう」
シャムの案内で、蓮は盗賊団の拠点へと向かった。
そこには、予想とは異なる光景が広がっていた。
「……これは……」
拠点には、武装した男たちの他に、老人や子供、女性たちが肩を寄せ合いながら生活していた。
「こんなところに……」
「俺たちは、ただ生きるために盗賊をやってきたんだ。だけど、限界だ」
シャムの言葉に、蓮は唇を噛みしめた。
もし、自分が同じ立場だったらどうしただろう。
「……それで、どうする?」
「村の連中を守るために、ある作戦を考えてたんだ。だが、俺一人じゃ無理だった」
「作戦?」
シャムは頷き、地図を広げる。
「この森の先に、帝国の駐屯地がある。あそこがこの地域を支配してる連中の拠点だ」
地図には、帝国軍の駐屯地の位置が記されていた。
「俺たちは何度か偵察に行ったが、兵の数が多すぎる。真正面からぶつかっても勝ち目はねえ」
「……じゃあ、どうする?」
蓮が問いかけると、シャムはにやりと笑った。
「奇襲だ」
夜の帳が降りる。
蓮とシャム、そして盗賊団の精鋭たちは、駐屯地の周囲に潜伏していた。
「準備はいいか?」
「おうよ」
シャムが剣を握りしめる。
蓮もまた、魔力を練り上げた。
「≪サイレント・ムーブ≫」
蓮が小声で呟くと、彼らの足音が消える。
「魔法ってのは便利だな」
「今は感心してる場合じゃない」
蓮とシャムは手を振り合図し、夜闇に紛れて駐屯地へと忍び込んだ。
「……見張りが二人。どうする?」
「俺がやる」
蓮は素早く影に溶け込むと、見張りの背後に回り込む。
剣を振るうと同時に、意識を刈り取った。
「よし、行くぞ」
二人は静かに駐屯地内部へと潜入していった。
駐屯地の奥、指揮所には帝国軍の騎士団長がいた。
「誰だ!」
鋭い声とともに、銀色の鎧を纏った男が剣を抜いた。
「……お前が指揮官か」
「貴様ら、賊の残党か!」
「違うな」
蓮は剣を構えた。
「俺たちは、お前たちに奪われたものを取り返しに来た」
騎士団長は鼻を鳴らし、剣を振り上げた。
「馬鹿め! 力なき者が、力ある者に勝てるとでも思ったか!」
「試してみろよ」
騎士団長の一撃が、蓮の目の前に迫る。
「ぐっ……!」
蓮は剣で受け止めたが、強烈な衝撃に腕がしびれる。
「貴様ごときが、この私に敵うものか!」
「ッ……!」
蓮は歯を食いしばりながら、魔力を解放した。
「≪フレイム・スラッシュ≫!」
炎を纏った剣が、騎士団長の鎧を焼く。
「ぬおおおっ!」
しかし、騎士団長は怯むことなく、反撃の一撃を繰り出してきた。
蓮はギリギリでかわし、隙をついて蹴りを放つ。
「がっ……!」
騎士団長がよろめいた瞬間、蓮は一気に間合いを詰めた。
「……終わりだ!」
蓮の剣が閃き、騎士団長の剣を弾き飛ばした。
「ぐっ……この私が……!」
膝をつく騎士団長を見下ろしながら、蓮は剣を下ろした。
「……これが、お前たちがしてきたことの報いだ」
騎士団長は憎々しげに蓮を睨みつけたが、もはや反撃する力はなかった。
駐屯地の制圧は成功し、シャムたちは無事に生き延びた。
「やったな……!」
シャムが満足そうに笑う。
「……あんたたち、これからどうする?」
蓮が問うと、シャムはしばらく考えた後、笑った。
「……お前の国に加勢してもいいぜ?」
その言葉に、蓮は驚きつつも、微笑んだ。
「……歓迎するよ」
こうして、盗賊団の仲間たちは、蓮の新たな仲間となったのだった。