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第87話  影の遺言

いつもお読みいただきまして、ありがとうございます。

影の王が消え去った後も、王都の空には不穏な気配が残っていた。

漆黒の裂け目はゆっくりと収縮し、やがて完全に閉じる。

しかし、その余波として、王都の至るところに黒い瘴気の残滓が漂っていた。


「……本当に終わったのか?」


シャムが剣を収めながら辺りを警戒する。


蓮は荒い息を整えつつ、目の前の地面を見つめた。


影の王が立っていた場所――そこには深い影の穴が残されている。

まるで王都そのものにぽっかりと空いた傷跡のように、そこだけ異質な闇が渦巻いていた。


リーナが慎重に杖を掲げ、魔法の波動を探る。


「……影の王の魔力の波動は、ほぼ消えてるわ。でも……何かが残っている……」


「何か?」


蓮がリーナの隣に立ち、影の穴を見下ろす。


すると――


「――我が"遺言"を聞け」


重々しい声が、影の穴の中から響いた。


「っ……!?」


蓮たちは即座に構えるが、敵意は感じられない。


影の穴の奥から、黒い霧がゆっくりと立ち上る。

その霧が形を成し、朽ちた鎧を纏う亡霊のような姿が浮かび上がった。


「影の王……!」


イリスが驚きの声を上げる。


だが、その存在はすでに"王"としての威圧感を持っていなかった。

まるで"過去の残滓"――影の王が残した最後の思念のようだった。


「お前は……まだ何かを伝えようとしているのか?」


蓮が慎重に問いかけると、影の王の亡霊はゆっくりと頷いた。


「我が使命は、"影"を護ること……

 "光"と"影"が均衡を失えば、世界は崩壊する……」


「均衡……?」


リーナが眉をひそめる。


影の王の亡霊は静かに語り続ける。


「かつて、この世界には"影"と"光"の神がいた……

 だが、"光"の神は"影"を拒み、破壊しようとした……

 その戦いの果てに、"影の王"は生まれたのだ……」


「光の神……?」


蓮の脳裏に、神殿で聞いた神々の話がよぎる。


「では、お前は"光の神"に抗うために生まれた存在なのか?」


影の王の亡霊は、わずかに沈黙した後、静かに首を振った。


「否……

 我は、ただ"影"を護るために在った……

 だが、"影"が強くなりすぎれば、世界は"闇"に呑まれる……

 故に、"影"は封印され続けねばならなかった……」


「封印……? まさか……!」


リーナの顔色が変わる。


「"魔の森"の拡張……まさか、それも影の王が封印されていた影響なの?」


「その通り……

 我が封印が弱まった時、"影"は外へと流れ出し……

 "森"を呑み込み、広げた……

 我が解放された今、その影の流れは止まるであろう……」


蓮は拳を握る。


「じゃあ、お前が倒れたことで、魔の森の拡張も止まる……そういうことか?」


「然り……だが、均衡が崩れたことにより、新たな危機が訪れるやもしれぬ……」


「新たな危機……?」


影の王は、ゆっくりと蓮を見つめる。


「お前は、"異なる世界の者"……

 その存在が、この世界の均衡を狂わせる鍵となる……」


「……っ!」


蓮は無意識に剣を握りしめた。


「俺が……この世界の均衡を狂わせる?」


影の王は沈黙したまま、静かに右手を差し出した。


「我が力の一部を託そう……

 お前が、この世界の均衡を護る者となるならば……」


すると、影の王の亡霊の手のひらから、小さな黒い結晶が生まれた。

それは禍々しくも、美しい輝きを放っていた。


「……これは?」


蓮が慎重に手を伸ばし、その結晶を受け取る。


すると、影の王の亡霊はゆっくりと形を崩し始めた。


「……"影"は、ただ在るのみ……

 お前が、この世界の"均衡"を選ぶことを……願う……」


最後の言葉を残し、影の王の亡霊は完全に霧散した。


静寂が訪れる。


「……終わったのか?」


シャムが静かに呟く。


「……ああ」


蓮は手のひらの黒い結晶を見つめながら、小さく頷いた。


これは、影の王が遺した"力"……

だが、それをどう使うかは蓮次第だった。


「蓮、それ……大丈夫?」


リーナが不安げに尋ねる。


「わからない……でも、これは俺に託されたものだ」


蓮は深く息を吸い、決意を込めて結晶を握りしめた。


「……影の王の遺言、確かに受け取ったよ」


王都に、夜明けの光が差し込む。


影の王との戦いは終わった。

だが、蓮の旅はまだ続く――。

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